内容に一切のサプライズなし――。

 これが原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)と東京電力ホールディングス(東電HD)が3月22日に発表した「新々総合特別事業計画」(新々総特)の骨子への率直な感想だろう。

東電の新たな再建計画は想定内の内容だった
記者会見する東京電力ホールディングスの文挟誠一常務執行役

 新々総特は、東電グループの再建計画の最新版だ。2012年5月に最初の「総合特別事業計画」(総特)を策定。2014年1月に改訂版の「新・総特」、そして第3版に当たる今回の新々総特へと続く。

 東電の総特は、民間企業の中期経営計画などとは意味合いが異なる。福島第1原子力発電所事故によって経営危機に瀕した東電は、実質国有化によって事業を継続してきた。総特は、国が東電に原発事故に伴う賠償資金を交付するための前提となる経営改革計画のことを指す。

 このため総特は、東電HD単独ではなく、東電に議決権ベースで50.1%(1兆円)を出資する原賠機構と協議を重ねて取りまとめる。さらに、経済産業大臣が認定することで策定が完了する。過去の総特も今回同様、先に骨子を発表し、東電に融資する金融機関への説明などを経たのち、正式に公表する手順をとってきた。

昨年末の東電委員会の提言案を踏襲、それでも遅れた発表

 今回の新々総特は冒頭に述べたように、内容にサプライズはない。というのも、昨年10月に経済産業省が設置した「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)の議論で、内容は大方固まっていたためだ。

 新々総特は、賠償・廃炉費用に充てる年間0.5兆円の資金確保、そして企業価値の向上を目的に掲げる。原賠機構は、現在保有する東電株式の売却益を4兆円にまで高め、これを除染費用に充てる。そのためにも、企業価値の向上は不可避という考え方だ。

 東電は自社の事業を「福島事業」と「経済事業」に大別している。福島事業は、原発事故に伴う賠償・復興、廃炉に伴うものを指す。他方、経済事業には、燃料・火力事業、送配電事業、小売事業、そして柏崎刈羽原原発など原発事故関連以外の原子力事業が含まれる。ざっくり言えば、経済事業による収益を福島事業に充てることで、福島への責任を果たそうというわけだ。

 巨額の賠償や廃炉費用の負担を抱える東電グループにとって、単独で描く成長戦略には限界がある。そこで、経済事業におけるコスト削減とアライアンスの推進によって収益性を高め、福島事業へと還元する。骨子の内容は、東電委員会が12月20日に発表した「東電改革提言案」そのものといっていい。

 つまり中身は12月時点で固まっていた。このため、「当初、新々総特の骨子は、1月31日に開催した東電HDの決算会見で発表することを検討していた」とある関係者は明かす。では、なぜ発表時期は3月22日になったのか。 

「原子力を国会の論点にしたくなかった」

 東電HDの文挟誠一常務執行役は22日の会見で、発表時期が遅れた理由を問われると、「原賠機構とのやり取りに時間がかかった。東電委員会の提言が(新々総特に)きちんと落とし込まれているか丁寧に確認したためだ」と説明した。

 だが、実際のところは、「国会スケジュールとの塩梅の調整による延期だった」と複数の関係筋は明かす。「1月末に骨子を発表すると、国会の予算委員会と時期が重なってしまう。原子力を論点にされ、政界から横槍が入るのを避けたかった」(関係者)というのが本音のようだ。

 東電委員会は原発事故に伴う費用問題を議論し、各方面への調整を重ねて提言案を取りまとめた経緯がある。東電HDや経産省が東電委員会の議論が逆行するような事態を避けたかったというのは容易に想像がつく。

 ただし、いつでも良かったわけではない。このタイミングでの発表は東電HDと原賠機構にとってデッドラインだったはずだ。

 3月末には、東電と中部電力の燃料・火力部門の共同出資会社、JERA(東京都中央区)が完全統合へ向けた最終段階である「Step3」へ基本合意するとみられる。JERAは2015年4月の設立後、燃料トレーディングや海外事業を順次、統合。いよいよ国内の火力発電事業を統合するStep3が目前に迫る。

 総特は3年ごとの経営評価を原則としている。2014年に策定した現行の新総特において、この年度末は1つの期限と言える。ある関係者は、「JERAは新総特の唯一にして最大の成果。東電も経産省も何としても年度内にStep3の基本合意を結実させたいという強い思いを持っている」と明かす。

 原発事故への責任を負う東電とアライアンスを組むことは、パートナー企業にとって簡単な決断ではない。アライアンス事業による収益を、原発事故の賠償や廃炉に上限なく投入することになれば、パートナー企業にとってアライアンスの意味がなくなるためだ。つまり、アライアンスの成否は、パートナー企業にとっての「福島リスクの遮断」が握っている。

 中部電にとっても、JERA設立に際しては福島リスクの遮断が最大の懸案事項だった。JERAは当時、株主である東電への配当を福島事業に充てるという整理をして設立に踏み切った。JERAの企業価値を高め配当を積むことで福島へ貢献するというストーリーで、福島への還元を配当の範囲にとどめたわけだ。

 ただ、東電委員会では、この論点が蒸し返される場面もあった。「早期に多額の収益を福島に還元すべき」であるという考え方が、委員の中にも少なからずあったからだ。一時はJERAも議論の遡上に上った。だが東電委員会は、東電改革提言案に、「燃料・火力事業で先行して協同事業体を設営したJERAの完全統合は必要不可欠」と明記した。

 今回発表した新々総特の骨子にも、「2017年春を目途にStep3に係る基本合意を締結するなど、一連の統合プロセスを確実に推進する」としている。さらに「再編パートナーの受容可能性が高まるよう、財務健全性や自律的な事業運営が可能となる国の関与のあり方や、福島への費用負担等についてのルールを国と協議の上、整備する」と書き込んだ。

 いずれも中部電が恐れる福島リスクの遮断について、国と東電が約束したことを意味している。これでJERA最終合意への環境整備は整ったといえるだろう。

ソフトバンクにニチガス、エプコにインテル、アライアンス案は数あれど・・

 新々総特では、燃料・火力事業のJERA以外にもアライアンスに関する記述が多数ある。原子力に送配電、小売りなど、経済事業の各領域でアライアンスを模索するというものだ。これを意識してか、新々総特の発表直前には新たなアライアンスに向けた取り組みが数々、公表された。

 3月8日、中部電と北陸電力との3社で、原子力の災害対応や安全対策に関する協定を締結したと発表した。そして骨子発表前日の3月21日には、東電エナジーパートナーが住宅設備の設計や省エネ機器の取り扱いを得意とするエプコ(東京都墨田区)とリフォーム事業で提携すると発表した。さらに、発表当日には、送配電事業においてインテル系の情報セキュリティー会社マカフィーやNTTデータ、東芝などとサイバーセキュリティに関する提携を検討しているという報道もあった。

 さらに、「4月に東電幹部がアライアンスの話をしにやってくるというから、社内は浮足立っている」と、ある電力会社幹部は明かす。やってくるのは送配電事業を手がける東電パワーグリッド(PG)の幹部。経済事業の1つである送配電事業のアライアンスを提案するためと見られる。

 送配電は大手電力会社のエリアごとの独占事業であるため、地域に分断された送配電事業のアライアンスには、その効果を疑問視する声もある。ただ、送配電事業は2020年頃に法的分離(発送電分離)することが決まっており、分離後はアライアンスの持つ重みは大きくなる。既に水面下での調整は始めているものの、「送配電事業のアライアンスは発送電分離後が現実的」とある東電関係者は明かす。

 新々総特が目標に掲げる、年間0.5兆円と株式の将来の売却益4兆円というのは、並大抵の数字ではない。売却益を4兆円にするには、22日の終値で1株当たり414円の株価を1500円程度までに高める必要がある。「これは原発事故前の東電の株価が高水準だった時期よりも企業価値を高めないと実現できない水準だ」(証券アナリスト)。

 原発事故から丸6年。東電が福島への責任を全うするためにも、新たな成長軸を見出すことは絶対的に必要だ。先行するソフトバンクやニチガスとのアライアンスも、まだ目に見える成果が上がっているとは言い難い。新々総特によってアライアンスの環境整備が進んだ。残るは東電経営陣がしっかりと事業を推進できるかにかかっている。

 電力システム改革を経て、エネルギー市場は新たな競争フェーズに入った。長年、地域独占と総括原価方式に守られてきた東電が、本当の意味で“民間企業”へ変わることができるか。その真価が問われている。

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