市場が高騰しても、当日になれば余っている

 通達はその一環で、そこには「(計画を守らなければ広域機関の)業務規定に基づく指導・勧告を行う」と明記されている。勧告に従わない電気事業者は最悪の場合、広域機関の会員としての権利が停止されることもある。

 事実、「計画と実績のかい離率の改善策を報告させられた」(新電力幹部)という事業者は少なくない。改善が不十分、あるいは問題があると見なされた事業者は広域機関から呼び出しを受けている。

 問題はこうした通達や指導が「必要以上に市場価格の高騰を招く要因になっているのではないか」と感じている新電力が多いことだ。

 グロスビディングの一環で大手電力が市場に投入した電気を同じ量だけ単純に買い戻すだけなら、いかに高値の買い札を入れたとしても約定価格がそこまで跳ね上がることはない。仮にグロスビディングが価格高騰に影響しているとしたら、大手の買い戻し量に上乗せする形で大手と同様の高値で買い入札を行っている小売事業者が別にいることを暗示している。ただ、それが計画順守や制裁回避を意識してのことだとしても、度が過ぎた高値購入は企業経営の観点からは疑問符が付く。

 ある中小新電力の幹部は「いかに計画順守のためとはいえ、45円/kWhの電気を買いにいくようなことはできない。そんなことをしていたら、我々の場合はつぶれてしまう」と本音を打ち明ける。別の新電力幹部は「計画順守の促進は本来、経済合理性に見合ったインセンティブ(インバランス料金)にとどめるべき。そうでなければ、合理的な経営ができなくなる」と訴える。計画順守を求めつつ、一方で制裁措置が市場の高騰を招くような買い入札を強いている面があるとしたら、そこに問題はないのだろうか。

 広い意味で市場が健全に機能した結果なのだとしたら、多くの事業者も納得するかもしれない。だが、7月19日の東京エリアで45.81円/kWhという高値をつけた時間帯のうち、13時~16時30分のインバランス料金はわずか8.89~15.1円/kWh(速報値)だった。市場分断の影響を除いた全国標準価格であるシステムプライスが25円/kWh前後だったのと比べてもかなりの安値である。実は、市場価格が高値だった時間帯でもインバランス料金が当該市場価格を下回る事態が、今の市場では頻繁に起きている。

 インバランス料金は当該時間帯の実際の需給バランスを反映させて算出される。インバランス料金が市場価格を下回るのは、その時間帯で実際には電力が余っていたことを意味している(全国規模で余剰インバランスだった)。そして「当日実際に余った電気が前日のスポット市場に投入されていれば」という仮定で計算されたのが、この場合のインバランス料金なのである。つまり、45.81円/kWhの市場価格がついた7月19日13時~16時30分は、余るはずの電気が市場に投入されていれば、8.89~15.1円/kWhで買えていた可能性がある。

市場価格高騰もインバランス料金はかなり安い
2017年7月19日の東京エリア価格とインバランス料金[速報値](出所:日経エネルギーNext)

 当日の実需給では電力が余ったのに、前日に取引されるスポット市場ではひっ迫していた――。実需給を映していない市場を到底健全とは言えないだろう。そして、その原因は究明される必要がある。市場における主要な売り手である大手電力が、市場への投入を過度に抑制している可能性がある。

 資源エネルギー庁は、7月26日の有識者会議で計画値問題における制裁方針を提案する。個別事業者ごとの計画値順守が電力の安定供給を確保するうえで重要なルールであったとしても、市場の歪みが改善されず、人為的な制裁措置の強化に頼るだけではかえって企業経営や市場そのものが合理性を失いかねない。慎重かつバランスの取れた議論が求められる。