「新電力の安価な電源の調達を助ける」として、経済産業省が創設の検討を進めているベースロード電源市場。その骨格が示された。しかし、想定外のコストの上乗せが明らかになるなど、新市場の効用に疑い目が向けられ始めている。

 「本当に安い電源が手に入るのかまったくわからない」(新電力幹部)――。

 経済産業省が市場改革の目玉に挙げ、2019年の立ち上げ(取引開始)を目指している「ベースロード電源市場」の議論が本格的に始まった。6月30日の有識者会議で経産省は初めて市場設計や運営ルールの骨格を提示した。

 経産省は「ベース電源へのアクセス環境を新電力と大手電力でイコールフッティングに近づける」(経産省幹部)ことを政策目的に掲げる。だが、現時点で市場創設を手放しで喜ぶ新電力は少ない。経産省の提案では「これならうまくいくと思える要素が少なかった」(新電力幹部)からだ。

多くの新電力はベース電源を持っていない
東京電力グループの常陸那珂石炭火力発電所(出所:東京電力ホールディングス)

 石炭火力や流れ込み式水力、原子力発電といった24時間ほぼ同じ出力で稼働する発電所を「ベース電源」と呼ぶ。需要の変化に合わせた出力の調整が難しい半面、燃料費が安いため、発電の平均コストが安価なのが特徴だ。しかし、ガス火力などに比べて建設費が高く、環境や安全規制、立地の制約が大きい。大半は歴史的に電源開発を担ってきた大手電力が保有しており、新電力が持つケースはごく限られる。

 ベース電源の有無は、大手電力と新電力の競争力格差の根本原因とこれまで見なされてきた。象徴的なのが、昼夜を通して大きな電力を消費する工場など、負荷率が高い需要家に対する供給力の違いである。

 特別高圧における新電力のシェアはオフィスなどの業務用が18.1%あるのに対して、産業用は部分自由化から15年以上が経つにもかかわらず、わずか0.2%にとどまる(2015年度第1四半期)。高圧も業務用11.8%に対して産業用は2.7%しかない。高負荷率の需要家に安価な電力を供給できるかどうかは、ベース電源の比率が決定的にモノをいうためだ。

 ベースロード電源市場は、大手電力がもっぱら売り手になり、新電力が買い手となる。自由市場とは異なり、大手電力にベース電源の供出を義務付ける「強制玉出し」(制度的措置)が最大の特徴だ。

 「市場」とは呼ばれるものの、現在、新電力が需要量の一部を大手電力から定額(全電源平均コスト)で購入できる「常時バックアップ」の衣替えと位置づけられる。そのため、売り手や買い手の行為を規定するルールづくりが制度設計の柱になる。

 第1の焦点は「価格」と「量」だ。ベース電源へのアクセス改善が目的だから、新電力が大手電力が自社で利用しているベース電源と同等水準の価格で必要な量を調達できなければ意味がない。

 価格に関しては大手の売り入札価格をルール化する。経産省案は、石炭、原子力、一般水力などからなるベース電源の「平均発電コスト」から、「容量市場収入」を控除して売り入札価格の上限を決める案を提示した。

 容量市場とは自由化後も将来にわたって安定供給の維持に必要な電源を確保する観点から、電源の固定費の一部を小売電気事業者から確実に回収するための新たな仕組みで、ベースロード電源市場などと並んで今後、制度の詳細を詰めていく。

制度措置のはずなのに「価格」も「量」も見通せない

 スポット市場が余剰電源の限界費用(燃料費相当)ベースで売り投入することが事実上のルールとなっているのに対して、ベースロード電源市場における平均発電コストには固定費も載ってくる。具体的には、発電電力量(kWh)当たりの固定費と燃料費を足し合わせて平均発電コストを算出する。そこから容量市場収入を差し引くのは、固定費の“二重取り”を防ぐ狙いからだ。

 固定費を含む価格で投入されることは市場創設案が出された昨年12月時点で想定されていた。だが、多くの新電力を驚かせたのは、今回の経産省案には平均発電コストに「未稼働電源の固定費を含む」ことが明記されていたことだ。つまり、再稼働前の原発など、停止中のベース電源の固定費も売り入札価格のベースに算入することが認められる。

 平均発電コストに未稼働電源の固定費を含むとしたことについて経産省は、「競争環境の整備において、大手が負担しているコストの回収を禁じることは適切ではないため」と説明する。

 容量市場収入については、容量市場の議論が進んでいない現段階では見通せない。だが、仮に売り手となる大手電力がルール上許容される上限価格で売り札を入れ続けた場合、「はたして買い手がつく価格になるのかは疑問」(新電力幹部)と感じている新電力が多いのも事実だ。現行の常時バックアップやスポット市場の方が安いとみなされたり、予測されたりすれば、ベースロード電源市場では当然、買い控えが起こる。

 もう1つの焦点である市場への供出量は、全国総需要(kWh)に大手からの離脱率をかけ合わせたものを新電力の総需要とし、これに「ベースロード比率」と調整係数(0~1)をかけて算出するとした。調整係数は卸供給における大手の支配力が弱まれば、供出割合を下げていくという考えを反映するものだ。具体的な算出法は決まっていないが、当初は「1か1に近い値」を想定しているという。

 有識者会議の場では、取引開始予定の2019年における離脱率を12%(2016年比3ポイント上昇を仮定)、ベースロード電源比率には2030年のエネルギーミックスで想定している「56%」を当てはめ、当初の供出量は約560億kWhと試算した。新電力の想定総需要の56%としたわけだから大きな数字に見える。

 だが、これはあくまで市場への投入量であって、約定量ではない。新電力が調達できるベース電源量とは直接関係はない。「約定量は結局、市場価格で決まってくる。高値の売り入札が多ければ、約定量は小さくなる」(新電力幹部)。つまり、仮にベース電源を新電力に極力渡したくないと考えれば、大手は上限価格で売り入札を続けることもできる。

 平均発電コストをベースとする売り入札で、市場価格が期待ほど安くなると思えないのは、今後、電力需要の減少が想定される中で、かつて需要の伸びを見込んで建設された古い電源や停止中の電源を含めた既存電源の固定費がすべて載ってくるとすれば割高にならざるを得ないと考えられるためだ。

取引が増えなければ元も子もない

 ベースロード電源市場は、24時間使い続ける電源の供出という制度趣旨から、受け渡し期間を1年に設定した先渡し市場とする。翌日1日分の電力を取引するスポット市場とは電気の供給形態を区分けするだけでなく、ベースロード電源市場で調達した電気をスポット市場で売りさばく裁定取引を制限し、両市場を切り離す。その手法として、買い手となる新電力ごとに購入枠(上限)を設定し、実需を超えた調達を抑制する案が提示された。

 だが、新電力のベース電源へのアクセスを助ける制度的措置としながら、肝心の安価な電力の調達を保証するような仕組みが盛り込まれているようには見えない。

 もともとベースロード電源市場は、「廃炉会計」の導入の見返りとして浮上してきた経緯がある。原子力発電の廃炉時点で残存簿価や廃炉費用の積み立て不足が会った場合、本来は原子力事業者が負担すべき費用を廃炉後に託送料金で新電力の顧客を含む全需要家から回収できるようにしたのが廃炉会計だ。

 全需要家で原子力を支えるのであれば、原子力を含むベース電源を新電力にも調達できるようにするのが筋という考え方だ。このベースロード電源市場の設計は、はたしてその“見返り”に値すると言えるのだろうか。

 スポット市場の活性化では、「自主的取り組み」とは呼ばれるものの、大手電力が不測の事態に備えて確保していた電源(予備力)の一部を、実需給前日に余剰電源として、限界費用で投入するという事実上のルールを大手電力に課したことが大きい。つまり、「価格」と「量」に関する枠組みがあって初めて取引量を増やすことができた。これが、大手電力がいまだに大きな市場支配力を保持している日本の電力市場の現実だ。

 スポット市場において限界費用での投入が大きな意味を持つように、ベースロード電源市場では売り入札の上限価格のベースとなる「平均発電コスト」は重要な意味を持つ。大手電力と新電力がベース電源の費用を公平に負担する(イコールフッティング)という観点から、仮に未稼働電源の固定費を含むことが理屈としては正しいものだとしても、結果として現行の常時バックアップやスポット市場価格と比べて割高となれば、ベースロード電源市場の活性化は望めない。そうなれば、元も子もない。

 今後議論を進めるうえでは、大手電力各社の未稼働電源を含むベースロード電源の発電平均コストを検証するなど、少なくとも市場の価格形成に関する見通しを開示し、関係者で共有していくことが求められる。

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