「本人が“覚えていない番号”がないと申し込みができないサービスは電気だけ。切り替えの障壁になっている」。

 日経BP総研 クリーンテック研究所が運営する小売電気事業者の会員組織「日経エネルギーNextビジネス会議」は8月2日、定例会議を開催した。今回の会合には、小売電気事業者40社、62人が参加し、日本卸電力取引所(JEPX)での価格乱高下やインバランス制度などのほか、大手電力会社から新電力への契約の切り替え時に起きている問題点も議論した。

 今回の議論で浮かび上がってきたのが、「供給地点特定番号」と「お客様番号」という2つの番号に伴う弊害だ。供給地点特定番号は、大手電力が使用電力量を計測するメーターごとに付与されている固有の番号のことだ。この2つの番号は、いずれも大手電力が発行する検針票に記載されているケースが多い。

約40社の小売電気事業者が詰めかけた
「日経エネルギーNext ビジネス会議」第2回会合の様子

 冒頭の指摘をした中堅新電力社長は、こう続けた。「電気の検針票を、買い物の際に持ち歩く人はほとんどいない。店頭などで新電力が営業活動を展開し、興味を持ってくれたとしても、供給地点特定番号が分からない。新電力が委任を受けて大手電力に番号を問い合わせる場合も、本人か配偶者に限られる。しかも、一般送配電事業者への問い合わせの電話はつながらないことも多い。お客様の気持ちが冷めてしまい、切り替えには至らないケースが非常に多い」。

大手電力固有の2つの番号が悩みのタネ

 新電力は、全面自由化直後からこの問題に直面してきた。「以前から言われていることではあるが、依然として解決策がないのが実情だ」(新電力幹部)。

 供給地点番号は、スイッチングを含む大手電力会社の契約管理において、最も重要視されている項目だ。「顧客の名義や住所が大手電力がシステムの登録しているものと違うというケースは、ままある。供給地点特定番号だけが、純然と契約と結びついている」(新興新電力幹部)。

 このため、「供給地点特定番号をいかに消費者に認識してもらうか」が電力の切り替えを進めるのには欠かせない。

 だが、簡単ではない。大手電力各社の検針票には様々なフォーマットがあり、供給地点特定番号やお客様番号が記載されていないものすらあるという。

 会合では、「東北電力の場合、横長の形状の検針票は供給地点特定番号が書いていないケースが多い」「関西電力も供給地点特定番号が記載されていないことが多い」などの情報も寄せられた。

 さらに、大手電力から新電力へのスイッチングに加えて、新電力から新電力へのスイッチングに際しても同様の問題がある模様だ。「新電力でも供給地点特定番号を検針票に書いていないところが複数ある。必ず記載するようにすべきだ」という指摘があった。

お客様番号は「なりすまし防止」のためだったのに・・

 もう1つの番号である「お客様番号」についても、様々な声が上がった。

 「お客様番号は全面自由化に先立ち、電力広域的運営推進機関で議論があり、なりすまし防止のために大手電力がかねて使用してきた番号を使うことになった経緯がある。だが、実際にはなりすまし防止効果はほとんどない」(新電力幹部)。大手電力の中に、お客様番号の横に特定の数字を付けたものを供給地点特定番号としているところが複数あるためだ。供給地点番号とお客様番号が事実上、同じモノというわけだ。

 顧客は、「電力会社のお客様番号」と聞いても、何の番号なのか、さっぱり認識していない。しかも、新電力もそれぞれが独自に顧客番号を付与していることが多い。「せめて新電力の間だけでも、お客様番号の統一ができないか」という意見や、「電力のスイッチングにお客様番号は不要なのではないか。供給地点特定番号だけで十分だ」という意見もあった。

「新築の契約が取れない」という切ない実態

 全面自由化から2年半が経過したが、いまだに2つの番号を巡る混乱は収束していない。例えば、「一般送配電事業者から聞いた番号で処理したところ、まったく違う家だった」という事例が複数の新電力から聞かれた。顧客対応は小売電気事業者が請け負うが、一般送配電事業者との間で起きたトラブルの解決方法は、手順なども定まっておらず、苦戦している様子がうかがえた。

 早期の解決が必要な問題点も明らかになった。それが、新築物件など「供給地点番号を持っていない顧客の新規契約」である。ちなみに、新規契約は業界用語で「再点」と呼ぶ。

 「新築物件の現地に行って、設置済みのメーターに記載されている供給地点特定番号を一般送配電事業者に伝えても、『まだシステムに未登録』という理由で受け付けてもらえない。お客様にいったんは大手電力と契約してもらい、大手電力から当社にスイッチングしてもらっている」(新電力幹部)

 新築物件は小売電気事業者にとって重要な営業先。だが、手続き上の不備で正常な営業ができてない実態がある。「再点は非常に問題。改善を求めていきたい」という声が上がった。

卸電力市場、88%が「おかしい」

 会合ではもう1つ、卸電力市場をテーマに取り上げた。

 7月の卸電力市場は大荒れだった。気温の上昇が例年に比べて早かった今年は、6月半ばから主要な市場であるスポット市場でジリジリと価格が上がり始め、7月に入るとピーク時間帯(13:00~16:00)の平均価格が20円/kWhを超える日が目立つようになった。

 さらに第3~4週にかけては、日中の価格が30円/kWhを上回る日が続き、7月19日には13時~17時30分まで45.81円/kWhという異常な高値に張り付いた。

 電気の小売料金は、家庭向けの場合で30円/kwh程度(基本料金を含む平均)。この中には10円/kWh程度の託送料金(ネットワーク利用料)や営業費用が含まれる。電気の原価である市場価格が20円/kWhを超える水準にまで上昇すると、完全に採算割れになる。45円/kWhを超えるような高値では大赤字だ。

 この日、会議参加者を対象に実施した緊急アンケートでは、有効回答を寄せた42人中37人が、7月の値動きを「おかしいと思う」(88%)と回答。「おかしいと思わない」(1人、2%)、「そのほか」(3人、7%)を大きく上回った(無回答1人)。新電力のほとんどが7月の市場の値動きに強い疑問を抱いた実態が明らかになった。

 卸電力市場の大きな機能は、大手電力が独占時代に総括原価方式のもとで建設した電源(発電設備)で発電した電気を、適正価格で新電力に引き渡すところにある。大手電力は不測の事態に備えて確保している電源(予備力)を、実需給の前日に取引されるスポット市場に限界費用(燃料費相当)で投入することが事実上、義務付けられている。

 「(大手電力は)本当に限界費用で売り札を入れているのか」。「市場への投入量はルール通りなのか」。「電力・ガス取引監視等委員会はきちんと監視しているのか」。集まった多くの新電力幹部から大手電力や監視当局に対して疑問が投げかけられた。

 高値をつけた時間帯は多くの場合、売り入札量が極端に少ない。にもかかわらず、その高値がついた当日の時間帯で、需要を上回る余剰電力(余剰インバランス)が大量に発生するという不思議な現象がしばしば起きている(「電力市場の連日高騰に“制裁強化”原因説」参照)。「高値だった時間帯で、なぜ、当日になると余剰が出るのか。そこが問題」(新電力幹部)。大手電力が適切な入札行動をとっているのか、検証を求める声が相次いだ。

 スポット市場はその後、やや落ち着きを取り戻しているものの、8月も9日には42円/kWhをつける時間帯が出現するなど、不安定さは解消し切れていない。

 今夏の市場高騰を契機に、政府審議会でも市場監視の強化を求める声が高まっている。

 8月28日、監視委員会は、①(大手電力の)入札可能量や入札価格、②一部の大手電力小売部門が予備力確保を増やしている問題、③高値時間帯で余剰インバランスが出ている問題について精査すると表明した。

 その進捗は、日経エネルギーNext ビジネス会議でも注視していくことになるだろう。

 次回会合は10月13日に予定している。

■変更履歴
記事掲載当初、「大手電力の中に、供給地点特定番号の横に一律の数字を付けたものをお客様番号としているところが複数ある」としておりましたが、正しくは「大手電力の中に、お客様番号の横に特定の数字を付けたものを供給地点特定番号としているところが複数ある」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/8/30 13:02]

小売電気事業者が集う「日経エネルギーNextビジネス会議」
2016年4月に電力小売りが全面自由化を迎え、小売電気事業者の登録数は400社を超えました。大手電力からの契約の切り替えは徐々に進むものの、まだまだ黎明期。ビジネスの現場では日々、新たな課題が生じています。本会議は小売電気事業者を対象とした会員組織です。悩みを共有し、解決策を模索しながら、日本のエネルギー市場が成長していくことを目指します。詳細はこちらをごらんください。