「どう軟着陸させていくかが経営課題だ」。東京ガスの広瀬道明社長は10月5日の中期経営計画の発表会見の席上で、そう語った。

 東ガスの新たな中期経営計画「GPS2020」は、2018年度から2020年度までの3年間を対象としている。「GPS」は東ガスの造語で、「ガス&パワー+サービス」という意味だそうだ。

 東ガスは、かねて「総合エネルギー企業」を標榜し、2016年4月の電力全面自由化を契機に電気事業に注力してきた。長い歴史を持つガス事業に加えて、電気事業も順調に育ってきた。だからこそ、次の3年間はガスと電気にサービスを加えて相乗効果を出していくというメッセージだ。

 大手電力会社と同様に、東ガスも地域独占の下、首都圏で都市ガス事業を展開してきた。つまり、シェア100%からの戦いだ。自由化で他事業者が参入してくれば、ガス事業のシェアは必ず減る。ガス販売量の減少分はどれくらいか、電力や付加サービスでどれだけカバーできるか--。

 冒頭の広瀬社長の「軟着陸」という言葉には、自由化の荒波に対峙する東ガスの事情が込められている。

家庭向けの電気は首位独走、KDDIを引き離す

 東ガスの電気事業の伸びは目覚ましい。低圧部門の契約数は、10月中にも100万件に到達するという。販売電力量を見ても、第2位のKDDIに倍近くの差を付け、独走状態にある。

 広瀬社長は、「2020年度末で200万件とみていたが、上期の実績を見て見通しを220万件に引き上げることにした」と言う。販売電力量は2017年度の150億kWhを、2020年度末には310億kWhにまで増やすとした。

 中期経営計画で掲げた財務指標も、今後の穏やかな成長を予見させるものだ。営業利益は2017年度の1070億円から2020年度末には1300億円にする。ROE(株主資本利益率)は2017年度の5.5%から2020年度末には8%まで高めるという。

 だが、1つ気になる数字がある。それが「ガス取扱量」だ。

 今回、東京ガスはガスの販売に関連する数値の表現を変えている。東日本大震災後の2011年11月に公表した2020年度までの長期ビジョン「チャレンジ2020ビジョン」では、「供給ガス量」という表現を使っている。決算資料などでは、供給ガス量と同義の「ガス販売量」としている。ところが、今回の中計では「ガス取扱量」に改めた。

 表現を変えたのは、ガスが全面自由化されたためだ。ガス取扱量という言葉は、「ガス導管事業者としての東ガスが取り扱ったガス量」という意味を持っている。従来の供給ガス量やガス販売量は、基本的に東ガスが小売事業者として需要家に直接、販売したガス量を示していた。今回のガス取扱量には、東ガス自身が販売したガス量に加えて、他のガス小売事業者が東ガスの導管を使って販売したガス量も含んでいる。

ガスと電気にサービスを加えて成長を目指す
中期経営計画を発表する東京ガスの広瀬社長

 これまでの中計である「チャレンジ2020ビジョン」に掲げた2020年の供給ガス量は年間220億m3。そして、今回発表した「GPS2020」では、2020年度のガス取扱量を207億m3とした。

 つまり、自由化によって他社に奪われる託送分を考慮しても、東ガスが取り扱うガス量が減っている。その理由を問うと、「臨海部の工業エリアなどに競合が東ガスの導管を使わずに供給する、いわゆる『二重導管』による減少分がある。さらに需要開発がチャレンジ2020ビジョンの発表当時の想定に比べて進んでいないという点もある。業務用における都市ガスへの燃料転換が思わしくない」(東ガス)という答えが返ってきた。

 あえてガス取扱量という表現に切り替えたのは、「ガス全面自由化を迎えたので、営業戦略上、ガス販売量の中長期見通しを出すのは避けたいという思いがある」(東ガス)という。今後、東ガスが販売するガス量は、220億m3から207億m3というレベルの減少では収まらない可能性あるだろう。

 最も大きな影響を及ぼしそうなのが、超大口顧客の離脱である。既に、2件の離脱が顕在化している。1件目は、東ガスが都市ガスを卸供給していた日本ガス(ニチガス)傘下の中小都市ガス4社が、ガスの調達先を東電エナジーパートナー(EP)に切り替えたこと。これで、東ガスは年間30万世帯相当のガス販売量を失った。

 さらに、東京ガスにとって最大級の顧客である東京電力フュエル&パワー(F&P)の品川火力発電所が離脱することも明らかになった。品川火力向けの都市ガスは、東電F&PとJXTGエネルギー、大阪ガスの3社による新会社に奪われる。

 この3社は9月28日、共同出資会社である扇島都市ガス供給(川崎市)の設立を発表した。同社はLNG(液化天然ガス)を都市ガスとして販売できるように加工する「熱量調整設備」を共同で建設。2020年4月から都市ガス製造を開始する予定だ。合わせて、東電F&Pは、品川火力の燃料ガスの調達先を東ガスから新会社に切り替える方針を明らかにしている。

 品川火力は、二重導管の領域ではなく、東ガスの導管を使って都市ガスを燃料として購入している。このため、中計の「ガス取扱量」には品川火力による導管利用分は含まれている。ニチガス傘下の都市ガス4社への卸し分も同様だ。広瀬社長は「(品川火力の離脱は)まだ正式に話は来ていない」としながらも、「調達先を切り替えられたら、この量を取り戻すのは難しい」と話す。

 今後は、超大口顧客の離脱を何で埋めるかが問題になってくる。

ジリジリと迫る東京ガス包囲網

 東電F&PとJXTG、大阪ガスの新会社が東ガスに与えるインパクトは、品川火力を失うことだけではない。東電グループは、世界最大のLNG購入量を誇るJERA(東京都中央区)からLNGを調達。新設する熱量調整設備で都市ガスを製造し、東ガスの導管を使って、東ガスエリアで販売しようと目論んでいる。

 東電EPに加えて、JXTGと大阪ガスも念願の首都圏でのガス販売を実行に移すだろう。東ガスの100%シェアを脅かす強敵が、揃って誕生したわけだ。世間では「東ガス包囲網」などと言いはやしている。

 いよいよ聞こえてきた自由化の足音に、東ガス広瀬社長も危機感をにじませる。「ガス自由化当初は、西高東低とか東ガス戦線異常なし、などと言われた。だが、ここへ来て(首都圏の)ガスも競争が活発化してきた。ビッグネームがマーケットに参入してくる。ビッグネームがさらにアライアンスを組んでくる。ある程度想定はしていたが、現実になると非常に危機感があるというのが実感だ」。

 会見で東ガス包囲網について問われると、ちらりと本音ものぞかせた。

 「包囲網と言われると、だんだん包囲されているような気持ちになる。なんとなく慌てるというか。冷静に見れば、色々な事業者が東京ガスエリアに入ってくれば包囲網になる。冷静に理解しようと思っているが、報道されればされるほど、なんとなく浮き足立っている」

 東電らの新会社が新設する熱量調整設備は、完成までに数年を要する。東ガスが本格的にガス需要を奪われるのは、2020年よりも、もう少し先になるだろう。主力のガス事業の売上減少分を電気やサービスで埋めることができるのか。中計で掲げた「GPS」の成否こそが、東ガスの今後を示す試金石となるだろう。

■変更履歴
記事掲載当初、「東ガスは年間30万m3のガス販売量を失った」としていましたが、「年間30万m3」ではなく「30万世帯相当分」の誤りでした。また、「品川火力向けの100万m3」としていましたが、正しくは「品川火力向けの都市ガス」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/10/25 17:36]