「実は、『エネチェンジ社長です』と大東エナジーのコールセンターに電話したんです」。 電力・ガス比較サイトを運営するエネチェンジ(東京都千代田区)の有田一平社長は苦笑する。

 社長自らコールセンターに電話したのは、「11月中旬から当社のコールセンターに大東エナジーからの切り替えに関する問い合わせが殺到したが、大東エナジーと連絡が取れなかった」ためだという。

「いい部屋でんき」のキャッチフレーズで一気に需要家を増やしたが・・・

 大東建託子会社の小売電気事業者である大東エナジーは、低圧部門でトップ10に入る新電力で、契約数は実に26万件に上る。その大東エナジーが11月7日、「電力市場価格の高騰とシステム改修コスト」を理由に事業を縮小すると表明した。事実上の撤退である。

 大東エナジーが撤退する理由は、「電力市場価格の高騰及びシステムの改修困難」。ことの発端は既報の通り、一部の事務処理が滞り、受け付けた申し込みを十分にさばき切れなかったことにある(「大東建託子会社の新電力、電気の受け付けを中止」「大東エナジーも追い込んだ、新電力襲う事務処理」)。

 問題は、電気事業から撤退すること自体ではない。26万もの需要家を抱える大東エナジーの対応が、首を傾げたくなるようなものなのだ。

 大東エナジーは需要家に対して「他の電力会社への切り替えのお願い」というレターを順次、発送している。突然、他社に切り替えてくれという郵便物を受け取った需要家の驚きは想像に難くない。

 レターには、需要家ごとに現在の契約内容や供給地点特定番号、お客様番号などが書かれている。各エリアの大手電力会社のパンフレットも同封しており、大東エナジーから大手電力に契約を戻すよう促す内容だ。

 しかも、大東エナジーが提示した切り替え手続きの期日は、レター発送のわずか1カ月後。地域によっては切り替え期間が3週間足らずのところもある。電力小売りの全面自由化から1年半しか経っていない現状では、ほぼすべての需要家が、電力会社の切り替えに不慣れと言っていい。突然の切り替え要請、しかも1カ月で手続きせよというのは、需要家に対して誠実な対応をしたとは言い難い。

 一方、大東エナジー自身は、準備にそれなりの時間を要してきた気配がある。大東エナジーが切り替え先として紹介しようとした大手電力各社には、「何カ月も前から切り替えに関する相談をしていた」(大手電力関係者)という。

 電力・ガス取引監視等委員会にも事前に相談している。監視委員会は大東エナジーに対して、「需要家保護の観点から丁寧な説明をし、周知期間をしっかり設けるよう指導した。切り替え先の候補の紹介について、電気事業者のランキングなどを示してアドバイスした」(取引監視課)という。

大東難民の救済体制を1週間で整えたエネチェンジ

 監視委員会のアドバイスのかいなく、大東エナジーの需要家の間には不安が広がっているようだ。

 エネチェンジの有田社長は、「困り果てた需要家が当社のコールセンターに問い合わせをしてきた。その数は並大抵ではなく、電話を受け切れない状況に陥っている」と明かす。

 エネチェンジはコールセンターを拡充するとともに、約1週間でWebサイトに大東エナジーの契約者向けの説明ページを開設。大東エナジーからの切り替え専用のフリーダイヤルも設けた。

 実際、エネチェンジに問い合わせてきた需要家の大半は、突然の切り替え要請に困り果て、怒りをこらえきれない需要家もいた。

 問い合わせてきた需要家に対してエネチェンジが行ったアンケートによれば、大東エナジーの対応に対して「とても不安」の回答が35%、「少し不安」が47%。80%以上の需要家が不安を感じているという。

 不安を感じる理由のトップは、「切り替え手続きまでの時間が短い」で58%の需要家が回答した。「切り替えないと電気が止まるのではないか」が45%、「切り替え方法が分からない」が40%もいた。

 こうした状況に、エネチェンジは大東エナジーに対して、需要家への情報提供や切り替え支援をしたいと考えた。だが、連絡が取れなかったという。

 エネチェンジの株主経由や銀行経由でもコンタクトを試みたが一向につながらない。腹に据えかねて、冒頭のように、有田社長自ら大東エナジーのコールセンターに電話をしたというわけだ。

 「突然の切り替え通知にユーザーが困っています。当社のコールセンターも対応に追われ非常に困っていると伝えたのですが、取り合ってくれない。『エネチェンジ社長から電話があったと社内に上げてくれ』と伝えたが、勝手にやってくれという反応。その後も、なしのつぶてです」(有田社長)。

電気料金に関する説明はない

 エネチェンジの有田社長は、「大東エナジーのレターには、もう1つ問題がある」と指摘する。それが、電気料金の上昇だ。

 「需要家は、大手電力から大東エナジーに契約を切り替えたことで、5%ほど電気料金が安くなっている。これを再び大手電力に戻すということは、電気料金の値上げを意味する。その点について、一切の説明がないまま、大手電力に戻そうとしている。需要家の不利益は大きい」(有田社長)。

 大手電力以外にも、電気の契約先には選択肢があるが、大東エナジーの需要家には伝わらない。そこで、エネチェンジは12月12日、「大東エナジー契約者救済キャンペーン」を発表。大東エナジーの需要家に対して、エネチェンジの比較サイト上で7社のパートナー企業への切り替え手続きができるようにした。

 パートナー企業には、東京電力エナジーパートナー、東京ガス、Looop(東京都文京区)、昭和シェル石油、新出光(福岡市)、ネクストエナジー・アンド・リソース(長野県駒ヶ根市)、奈良電力(奈良県奈良市)が名を連ねる。

 実は、エネチェンジの比較サイトは、大手電力会社から新電力への切り替えに主眼をおいており、新電力から新電力への切り替えは、そのままでは実施できなかった。そこで、すぐさまシステムを追加開発し、7社のパートナー企業への切り替えをサイト上でできるようにした。

 パートナー企業の選定は、「エリアごとに特徴が分かりやすい新電力を3社を目安に揃えたいと考えて声をかけた」(有田社長)という。

 例えば、東京電力エリアの場合、基本料金ゼロのLooop、ドライバー向けプランの昭和シェル石油、排出係数ゼロのネクストエナジー・アンド・リソース(Greena)、加えて100万件の契約数を誇る東京ガスとなっている。実質1週間ほどの準備期間しかなかったため、すぐに意思決定してもらえる企業であることも重要だった。

 エネチェンジには、大東エナジーの需要家を取り込みたい新電力から、多数引き合いがあるという。ただ、どこまで大東エナジー向けの対応を続けるかは不透明だ。

 というのも、エネチェンジのビジネスモデルにおいて、比較サイトはあくまでブランディングのための事業で、収益の柱は小売電気事業者向けのデータ解析にある。「困っている需要家が目の前に大量に現れたので、反射神経的に短期間で費用を投じて体制を整えた。だが、どこまで受け皿としての体制強化をできるか分からない。だから、大東エナジーと連携したかったのですが・・・」と有田社長は顔をしかめた。

 大東エナジーは日経エネルギーNextの取材に対しても、「ホームページに掲載している以上の質問には、一切回答できない」としている。こうしている間にも、大東エナジーが提示した切り替え期日は迫ってくる。

 監視委員会は、「今回の切り替えは、あくまで大東エナジーの都合だ。最後の1件が切り替えを終えるまで、きちんとフォローするように口を酸っぱくして伝えた」(取引監視課)という。26万の需要家がスムーズに契約の切り替えを進められるよう、情報提供するのは小売電気事業者としての責任だ。大東エナジーには誠意ある対応を求めたい。