電力不足は起きていないのに市場価格は高騰――。冬場、電力市場では不思議な現象が起きていた。これから夏場にかけて電力需要が伸びる中、小売電気事業者は電力調達の正念場を迎えるが、市場価格が高騰する懸念を払拭できない。その背景に迫った。

 寒さから解放され、企業活動が下火になるゴールデンウィーク(GW)に電力需要は底を打つ。今年も4月中盤ころから、暖房需要の減少に合わせて需給が緩み、卸電力市場における電力価格は低下した。

 今後は気温の上昇とともに冷房需要などが立ち上がり、1年で最も需要が大きくなる夏へと向かっていく。このサイクルは毎年繰り返されてきたものだ。だが、今年は小売電気事業者にとって正念場となる夏場にかけての電力確保に関連して、例年に増して市場価格が不安定になるのではないかという懸念を抱いている。

積み上がる「停止火力残高」

 予兆は昨年終盤から今年初めにかけての冬季電力価格の異変だ。西日本エリアを中心に大方の想定を越える高値が頻発したのだ。

 昨年12月後半から今年3月にかけては、例年より全国的に気温は高めだった。通常なら電力需要は控えめになる時期だ。しかし、電力小売り全面自由化を背景に、参入間もない新電力を中心に日本卸電力取引所(JEPX)における買い需要は高水準が続いていた。

 だが、高値頻発は買い需要の増加だけが原因ではなさそうだ。加えて、大手電力の「バランス停止火力(BS停止火力)」の増加が大きく影響したのではないかと推定できる。バランス停止火力とは、運転する予定だったにもかかわらず、実需給が間近になった時点で予想外の需要不足などから停止を余儀なくされた火力発電設備を指す。

 本研究会が、JEPX発電情報公開データから推計した「停止火力残高」を示したのが下のグラフだ。毎年、大型連休の時期に停止火力は増えるが、今年の連休は昨年よりも停止予定の火力は大きく増加していたことが分かる。

 2016年3月以前のデータは公表されていないので正確なところは不明だが、冬の需要期においてもこうした傾向があって、市場における売り入札量が減っていた可能性がある。つまり、買い需要が増えたのに対して、売り玉(売り入札)不足が重なって市場価格がつり上がった。

火力発電の停止が増えている
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火力発電の停止が増えている
停止火力発電設備の積み上げ量[2016年4月~2017年7月](出所:JEPX発電情報公開データを基に本研究会が作成)

大手電力の需要減少が引き金

 3月以降、それまで高値傾向が続いていた東日本エリアは事態が好転し、いったんは落ち着いた。一方で、東日本エリアと同様にジリ高で推移していた西日本エリアの価格は一向に落ち着く気配がなかった。通常、東西間おける潮流(系統規模で見たときの電気の流れ)は西日本から大消費地の東京に向かって流れることが多い。それが、この冬は東日本エリアから西日本エリアへと潮流の向きが逆転した。

 1つには、関西エリアの新電力が市場調達を増やし、電力需要が相対的に高まった西日本エリアに潮流が流れ込むという状況の変化があったと思われる。これに連系線工事や西向きの計画潮流を確保する動きが重なり、電力価格の“西高東低”が顕著になった。こうした事態にバランス停止火力などが加わって引き起こされた売り玉不足は、西日本エリアでより深刻になっていたと見られる。

 実は、「売り玉不足の懸念」については、電力・ガス取引監視等委員会が昨年12月の時点で指摘していた。

 全面自由化以降、小売電気事業者は日常的に顧客の争奪を繰り返している。だが、そのことで電力の供給力が全体として不足することはない。あくまで顧客(需要家)がA社からB社に“移動”するだけだからだ。

 全体的な傾向としては、大手電力会社から新電力へと需要家が流れる動きが続いている。2016年4月に新たに自由化された家庭や小規模事業者などの「低圧」部門における新電力の販売シェアは4%にとどまるが、「高圧」や「特別高圧」と呼ばれる大口顧客の分野では12%にまで新電力のシェアは伸びている(2017年2月末時点)。

 その裏で大手電力は顧客が減った分、自社の供給力(電源)が余り始めている。この場合、監視委員会は「(余剰になった電源は)卸電力取引所や相対取引を通して市場に供給されるのが自然」だとしている。“自然”というのは、小売り量が減っても余った電源で発電した電力を卸電力市場で売ればその分、電力会社は利益を減らさずに済むはずだという理屈だろう。だが、実際には余剰電源が市場に投入されていない実態があり、その結果「定常的に売り玉が不足している状況が散見される」と監視委員会は指摘していた。

 なぜ、このようなことが起きてしまうのか。

 市場に投入されず、バランス停止させてしまった火力も、大手電力が初めから自社の需要が小さいことを想定できていれば、それを前提に市場投入を計画することは可能だったかもしれない。しかし、天候や気温の変化などのタイミングによっては不意の需要減少となり、急いで止めるしか手立てがないケースもあっただろう。つまり、本来なら市場投入できた電源だったにもかかわらず、売り投入が難しいという事態が生じていたのではないか。

 だが、こうした事態が頻繁に続くと、大手電力としては点検などによる「計画停止」の前倒しや「長期計画停止」(常態的な停止)への移行を当該電源で検討し始めてもおかしくない。それが、先のグラフが示す停止火力の増加に現れている可能性がある。そうなると取引市場では恒常的な電力の売り玉不足という事態に陥りかねない。

 この冬は南岸低気圧が通って気温が低下するたびに、あるいは週明け朝のオフィスの立ち上がりに合わせて、市場価格が20円/kWhを超えて高騰する時間帯が頻出した。新電力の中にはこうした高値の時間帯では計画通りに電力を市場から調達できなかったケースも相当に多かったのではないかと想像される。

インバランス価格が示唆する取引所と需給実態のズレ

 不思議なのは、電力価格がこれだけ高騰したにもかかわらず、同じ時間帯のインバランス価格はそれほど高値にはならないことだ。

 インバランス価格とは、電力の需給に関する事前の計画を電気事業者に守らせるインセンティブとして、計画値とのかい離分にかけられるペナルティー料金をいう。時間帯ごとに事後的に検証する全国的な需給状況を反映させて算出する仕組みになっている。

 もし、取引市場における需給のひっ迫が、全国的な需給のひっ迫を反映したものなら、電力価格が高値の時間帯ではインバランス価格も高くなるはずなのだ。

 そうはなっていないということは、卸電力市場で需給がタイトであっても、実際には全国的に予備力(想定外の需要増や発電・送電設備の事故に備えて待機させている電源)が相応に余っていて、実際に発電していたというのが実態だと考えられるのではないか。つまり、取引市場における需給と実態的な需給の間に大きなズレが生じていることを意味している。

 大手電力が自社の販売量の減少から停止火力を増やすことで、本当は電源が余っているにもかかわらず市場価格は高くなる。健全な市場育成の観点から、これは看過できない問題なのではないか。今の状況を放置すれば、需給がタイトになる夏場には再び電力価格が高騰する恐れがある。

 大手電力に偏在している国内の発電設備が有効に使われない結果、取引市場における需給がひっ迫し、電力価格が上昇するとしたら、発電や小売りの競争が阻害され、最終的には電力の需要家が自由化の果実を享受できなくなる恐れが出てくる。

 市場活性化の観点からも監視委員会は大手電力に対して、余剰電源の市場拠出を強く促すべきだろう。

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