市場価格は“体温”に似ている

 基調としては、家庭など低圧分野に参入した新電力による買い需要の増大が相対的な「売り玉不足」をもたらしている面は否定できない。しかし、市場の運用ルールが一部の事業者によってないがしろにされてきたことは見過ごせない。いずれにせよ全面自由化以降、売り玉不足につながる様々な要因、課題が卸電力市場には内在していた。

 そして、7月の異様な高騰である。

 全面自由化以降、様々な要因からピーク時間帯で売り玉不足が生じやすくなっていた地合いの中で、6月14日、電力広域的運営推進機関は「適正な計画提出について」という通達を出した。供給力確保に関する監視強化を打ち出したこの通達が、小売電気事業者の市場での買い入札行動に影響を及ぼし、価格高騰を演出してしまった可能性がある(「電力市場の連日高騰に“制裁強化”原因説」参照)。

 地域独占状態から真の電力自由化が進展するためには、卸電力取引におけるスポット市場への玉出しは不可欠である。自由化のエンジンがエンストを起こさんばかりに機動力を失いかけていた微妙なタイミングで監視が強化され、市場では価格暴騰という現象が発生した。

 だが、7月の高騰は改めて市場の重要性を関係者が再認識する機会となったのではないか。

 卸電力市場の取引量は全国の電力需要の4%程度にすぎないとして、市場を過小評価するような議論がある。確かに取引量はまだまだ不十分で、活性化は引き続き大きな課題だが、現行の市場は電力ビジネスの競争環境を映すバロメーターとしての機能をすでに十分に備えている。

 市場価格は競争環境の健全性を示すいわば体温のようなものだ。市場価格をウォッチすることは、体温計で人の健康状態をチェックするのに似ている。6月中旬からの体温の高さは、電力ビジネスに異常事態が生じていることを示唆していた。市場価格でシグナルを発していたのである。

 しかしながら、市場が高熱のシグナルを出していた一方で、当日の電力需給はどうであったのか。

 それを示すのが、需要(発電)計画と需要(発電)実績のズレを精算するインバランス価格だ。グラフ5をグラフ1と比べると、市場価格に比べてインバランス価格が低い日が多いことがわかる。市場価格が45.81円/kWhをつけた日も、インバランス料金はせいぜい25円/kWh前後止まりだった。その意味するところは、前日の市場取引で決まるスポット価格は売り玉不足で高騰しているにもかかわらず、当日になれば実際の電力は余剰気味だったということだ。

市場価格が高騰してもインバランス価格は安かった
グラフ5●当日インバランス価格の推移(出所:日経エネルギーNext電力研究会)