需要家が大手電力から新電力に移る中、大手電力が停止電源を増やす傾向が見られる。だが、これは市場活性化に逆行する動きでもある。市場に出せば買い手が現れる可能性は高い。週単位や月単位で電力取引を決める先渡市場の活性化が、停止電源を減らす観点からも求められる。

 今回は、スポット市場に比べて現状では取引量が格段に少ない先渡市場の活性化について議論を提起したい。

 電力・ガス取引監視等委員会、電力広域的運営推進機関、資源エネルギー庁の3機関が、大手電力(旧一般電気事業者)は予備力を原則全量、スポット市場や1時間前市場に投入すべきとした方針を示した。前回、これをあるべき電力自由化に向けて政策当局が指導力を発揮した画期的な展開と評価した(「大手電力の『自主的取組』は終わった」参照)。

 このルールが軌道に乗れば、2016年4月から日本卸電力取引所(JEPX)で起きていた、本来あってはならない入札行動に一定の歯止めがかかり、本来の軌道に復帰する契機になると考える。

 しかし、電力市場が十分に活性化するとまでは考えていない。なぜなら、根本的な課題である売り玉不足はそれでも解消しないおそれがあるからだ。というのも、本来なら国内の電力需給に貢献すべき供給力(発電施設)が停止している状況があり、その解決手段は示されていない。

 売り玉不足は予備力の問題以上に、稼働可能な電源の停止が大きく影響している可能性がある。この問題が解決されなければ、電力自由化が滞りなく進むための血液が勢いよく循環するまでには至らない。

バランス停止が続けば「長期計画停止」や廃止になる可能性も
2016年4月1日より長期計画停止している東京電力フュエル&パワーの大井火力発電所

 バランス停止火力――。この問題は、6月22日付けの本コラム「油断禁物、電力市場波乱の兆し」でも取り上げた。

 バランス停止火力(BS火力)とは、発電事業者が広域機関に年間の供給力として届け出ていながら、その時々の需給を反映して(定期点検以外の理由で)停止させる電源を指す。

 発電事業を営む事業者は大手電力も新電力も、1週間単位の供給計画を立てている。その際、翌週の想定需要を上回る供給力についてはまったく稼働させないと決めることがある。これがBS火力になるわけだ。

 火力発電設備の機種や性能にもよるが、蒸気タービンの場合はいったん火を落とすと、稼働(水を沸騰させる)させるまでに数時間から場合によっては2日程度かかる。また、起動には沸騰させるまでの燃料費など余分なコストもかかる。だから、気象条件などによって急に需要が増えても、いったん止めたBS火力を稼働させるインセンティブは働きにくいという。

 問題は、大手電力が何を基準にBS火力を決めているかだ。BS火力が増加傾向にあることは先の記事で指摘したところだが、仮に大手電力が自社需要の減少に合わせてBS火力を増やしているとすればどうなるだろうか。

 現在、大手電力と新電力は熾烈な顧客の争奪を演じている。だが、大きな傾向としては、大手電力から新電力に需要家のシフトが進んでいる。

 自社需要を基準にしたとき、大手電力にとっては供給力の過剰が急速に進行していくように見えるだろうが、国内需要全体がそこまで落ち込んでいるわけではない。自社の需要を満たすことを優先してBS火力を決めているとすれば、相対的に供給力不足に陥ることになる。これが、売り玉が大きく増えない理由になっているおそれがある。

 発電事業者から、JEPXのスポット価格を見ていても将来の投資の見通しを立てにくいとか、固定費の回収にメドが立たないといった声をしばしば耳にする。発電事業者の立場に立てば、もっともそうな話に聞こえるが、本来の市場機能に対する理解不足から生じる弱音にも受け取れる。停止しないで発電した電力を市場に出せば売れていた可能性があるためだ。全国規模で見れば停止を決めたBS火力も有効活用できたかもしれないのだ。

収益の安定化に適している先渡市場

 スポット市場の価格変動と価格水準には、金融の世界で言うところの「オプション価値」が内在し、それがkW価値に相当するという解説を以前、「廃棄すべき発電所を温存する“新市場” 容量市場を金融理論から読み解く」で試みた。

 つまり、石炭火力発電のように、kWhあたりの電気を発電するコスト(限界費用)が低い電源や、市場価格の変動に応じて発電したり、休止したりできる柔軟性の高い電源ほどオプション価値が高く、固定費の回収機会が多いという話をした。

 kWh価値を売買する市場機能そのものに、kW価値が内在しているのだ。そして、スポット市場だけでなく、kWh価値を取引する先渡市場や先物市場にも同じ市場機能が内在していることを関係者にはよく理解していただきたい。

 BS火力は1週間単位で決める。つまり、1日単位の取引であるスポット市場では市場投入を判断しにくい電源であっても、週単位や月単位の取引を約定できる先渡市場をうまく活用できれば、収益機会を増やすことも可能だ。そうすることで、固定費を回収しやすくなり、投資判断もしやすくなるはずだ。

 先渡市場はJEPXに既にある。スポット市場に比べて、これまではなぜか閑古鳥が鳴いているような状態が続いている。だが、先渡市場なら一定期間にわたる売買を固めることができるため、日々の値動きに左右されにくい安定的な取引が可能になる。

柔軟に電源を運用でき、収益機会が増える

 では、発電事業者が先渡市場を活用して収益を確保するにはどうしたらいいのか。事例で紹介したい。例えば、6カ月後に電気を販売する契約を既に締結している発電事業者が、限界費用X円/kWhの電源Aを保有していると想定する。6カ月後までただ遊ばせておくのは、いかにももったいない。

(1)仮に、今後の6カ月で先渡市場の価格水準が電源Aの限界費用より高くなると予測される場合は、残存期間6カ月の先渡取引を市場に売り出すタイミングを探る。

(2)1カ月経った時点で、予測通り先渡価格が上昇したとする。そして、それ以降の先渡価格が限界費用以下に低下すると予想される場合は、残存期間5カ月となった電源A相当分の先渡取引を先渡市場で売却する。その結果、残り5カ月は電源Aの限界費用以上の価格で売れることが確定する。
 仮に市場価格が予測通りに下がらず、売値(持ち値)より高くなった(含み損が発生した)としても、先の先渡取引を買い戻せば、自社で保有している電源Aが発電した電力を高値で売れる状態になり、損失を打ち消して収益性を確保することになる。電源Aを稼働させることで当初から契約していた電力販売に特段支障はない。

(3)さらに1カ月経った後、先渡価格が低下し、電源Aの限界費用より安い水準になったとする。その場合、残存期間4カ月となった先渡取引を改めて買い戻し、先渡取引による収益性を確保する。

(4)さらに1カ月経った後、先渡価格が上昇し、電源Aの限界費用より高い水準になったとする。その場合は残存期間3カ月となった先渡取引を改めて売却し、電源Aの収益性を再び確保する。

バランス停止を回避し、収益機会を増やす
先渡取引を活用した収益向上策

 このように、先渡取引の変動を電源の限界費用と比較しながらオペレーションすると、6カ月後に単純に相対契約の相手に電力を販売する場合に比べて、以下のような経済的メリットや発電設備運営上の柔軟性が生まれる。

・6カ月後に契約先に電気を販売する前の段階で、電力市場の水準と市場価格の変動次第で、追加的な収益を得ることができる。

・先渡取引が買いポジションにある場合、収益性を確保したうえで、電源の点検を実施することも可能(電源を稼働させなくていい)。

・6カ月後に電気を供給する際には、自社電源を動かすか、先渡取引を経由して購入した電気を販売するか、より経済的に有利な選択ができる。

・スポット市場のような短期の限界費用(燃料費相当)ではなく、人件費などを含む中長期の高い水準の限界費用に見合う取引を広げられる可能性がある。

 こうしたアプローチは、電源を保有している発電事業者にとって、ある意味の特権と言えるものだ。この特権を利用したオペレーションは、商品取引などの世界でABT(Asset Backed Trading)とか、AOT(Asset Optimization & Trading)などと呼ばれている。

 これは、保有するアセット(資産)の価値を市場価格との関係から、より高める考え方だ。元来、石油備蓄や精製設備の価値を引き上げる目的で適用していたアイデアだが、発電設備にも十分応用できる。

 この発想のおかげで、優秀な発電設備ほどスポット市場からだけでなく、先渡市場の価格水準や変動(ボラティリティ)からも固定費を回収する機会が広がることになる。

新電力にも大きなメリット

 また、先の事例では限界費用と先渡市場の価格との比較で説明したが、この場合の“限界費用”は、スポット市場への売り入札価格となる1日当たりのごく短期的な限界費用である必要はない。3カ月や半年といった対象期間に応じて発生する費用、例えば起動費や保守費、人件費を上乗せして考えてもいい。そういった売値水準で売却できれば、より確実に固定費を回収できる道が広がる。

 では、買い手となる新電力からはどう見えるであろうか。

 毎日、スポット価格の変動にさらされながら、やむなく高値でも買わねばならない事態の改善が大いに期待できることになる。スポット市場において高値で買わされるリスクを考えれば、当該電源の限界費用+αで購入することになっても、より長期で安定的な電力調達の比率を増やすことにつながる。先渡取引の増加は、新電力にとっても望ましいことだろう。

 先渡市場の活性化でこうした課題の解決に見通しが立ちはじめると、相対取引や先物取引のニーズも顕現化が進み、本来の電力自由化の取り組みがようやく軌道に乗る。

 先渡市場の活性化は売り手である大手電力の発電部門にとっても、買い手である新電力にとっても、メリットは大きい。現在バランス停止にある火力発電所も、運用の見通しが立てやすくなり、国内の発電資産の有効活用につながる。

 大手電力から新電力への需要家シフトは、電力自由化の進展とともに今後も進行していく。市場を介して供給力シフトを効果的に実施できなければ、国内経済を巡る血液循環が滞ることになる。それがもたらすものは卸電力価格の高騰であり、貴重な電源の停止や廃止である。

 BS火力を有効に市場投入できる環境整備や関係者の努力を期待したい。