つまり、ワンタッチ供給は卸供給の1つの形といえます。ですが、新規参入者が大手事業者にワンタッチ供給の申し入れをした際に、たとえ他にガスの調達元がない場合であっても、大手事業者に供給する義務があるかどうかは不透明です。現時点では、適正取引指針などになんら明記されていないのです。

 本来、一般ガス導管事業者と託送供給契約を締結し、同時同量への対応を行う責務はガス小売事業者にあります。そう考えると、小売事業者が卸供給の申し入れをした場合に、通常の卸供給を行うか、ワンタッチ供給を行うかは、大手事業者の側に選択の余地があると考えるのが自然でしょう。

 ただし、あるエリアでガス小売事業者が同時同量対応を委託する先がほかにないなど、ワンタッチ供給を受けなければ事業を行うことが事実上困難な場合は別途、考慮が必要です。このような場合に大手事業者が不当にワンタッチ供給を拒絶すると、独禁法への抵触が問題となる可能性がゼロとは言い切れないため、大手事業者は協議に応じ、慎重に対応するのが無難でしょう。

 なお、ワンタッチ供給についても、資本関係のない新規参入者と社内取引やグループ内取引で条件が異なるケースについては、①供給量、②供給期間、③信用力などに照らして合理的かつ客観的な理由をもって説明する必要がありそうです。同時同量対応などワンタッチ供給に伴う業務のための適切な費用(システム費用など)を新規参入者に応分に負担させることは、ルール上も認められるでしょう。

* 本稿は執筆者の個人的見解であり、その所属する法律事務所またはクライアントの見解ではありません。
松平 定之(まつだいら・さだゆき)
西村あさひ法律事務所・弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。電力ガス・プラクティスチーム所属。2011~2012年は米国のDebevoise&Plimpton法律事務所勤務。業務分野は、M&A・JV、エネルギー分野の規制・契約・紛争など
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