今年4月、電力から1年遅れてガスも小売り全面自由化を迎えました。もっとも、電力に比べて新規参入する事業者の数は圧倒的に少ないのが実情です。その大きな理由が「ガスの調達が難しいこと」。電気の場合、日本卸電力取引所の活用や、制度措置である「常時バックアップ」によって、新規参入の新電力も電力を調達できます。では、ガスの調達が難しいときはどうしたらよいのでしょうか。エネルギー制度に詳しい西村あさひ法律事務所の松平定之弁護士に答えていただきます。

【質問1】ガス小売りが自由化されたので、ガス小売事業者のライセンスを取得し、ガス販売を始めたいと考えています。ガスはどのように調達すれば良いのでしょうか。新規参入のガス小売事業者がガスを調達できるように担保する制度措置はないのでしょうか。

【回答1】現行の法制度では、ガスの調達は民々の相対契約で調達するしかないのが実情です。海外からLNG(液化天然ガス)を輸入するなどして、卸供給能力を有する大手ガス事業者(旧一般ガス事業者)や大手電力会社、資源エネルギー会社など(以下「大手事業者」といいます。)と交渉し、卸供給条件に関する同意を得て、卸供給を受けるしかありません。

 電力の場合は、発電所(電源)を持たない新電力でも、日本卸電力取引所(JEPX)で購入したり、「常時バックアップ」と呼ばれる制度を活用することで、大手電力から卸供給を受けることができます。ですが、ガスには卸取引所もなければ、常時バックアップに該当するような制度措置もありません。

 ただし、いくつかの条件を満たした場合に限って、大手事業者から卸供給を受けることを可能にするためのルールはあります。

【質問2】そのルールによってガスが調達できるのは、どういったケースですか。

【回答2】大手事業者に対して、ガス小売事業者への卸供給がルール上求められるのは、「他にガスの調達手段がない場合」です。具体的な内容は、公正取引委員会と経済産業省が2017年2月に策定した「適正なガス取引についての指針」に記されています。

 「他にガスの調達手段がない場合」に、卸売事業者(大手事業者)が不当に卸供給を拒絶したり、卸供給量の制限や卸供給料金を高く設定することで、卸供給を受けることを断念せざるを得なくする行為によって、ガス小売事業者の事業活動が困難になるおそれがある場合には、独占禁止法に違反(私的独占、取引拒絶など)する可能性があるとされています。

 ただ、特定の卸売事業者以外にガス調達の選択肢がないケースというのは、必ずしも多くはないでしょう。物理的に、あるいは事実上、隣接のエリアから分断されていることなどにより、あるエリアにおいて卸供給能力を持つのが実質的に特定の大手事業者のみであるような場合には、卸供給の「不当」な拒絶が問題となります。

 そうなると今度は、「不当」の意味が重要になってきます。これは、「供給余力の不足など、正当な理由がない場合」と読み替えることができます。

 では、供給余力の有無はどう判定するのでしょうか。自社の小売需要の規模や調達状況に応じて個別に判断することになりますが、旧一般ガス事業者に対して「供給余力がない」と認められるケースは現時点では多くないと考えられます。旧一般ガス事業者は全面自由化以前には、そのエリアにおいて、家庭などの小口需要に独占的に都市ガスを供給していました。自由化以前と同等の調達量を維持している場合、供給余力がないという理由だけで新規参入者との協議に応じないと、「不当」に該当するおそれがあると考えられます。

 このほか、卸供給を断る正当な理由となりうるのは、卸供給条件に関する合意が成立しないことです。大手事業者が提示した供給条件が、資本関係のない新規参入者と社内取引やグループ内取引で異なるケースでは、①供給量、②供給期間、③信用力などに照らして合理的かつ客観的な理由をもって説明する必要があります。この際、③信用力の点などを過度に強調し、新規参入者がおよそ応諾困難な条件を提示することは問題になるおそれがあります。

【質問3】大手電力・ガス会社などから卸供給を受ける以外に、ガス調達の選択肢はないのでしょうか。「ワンタッチ供給」という方法があると聞いたことがあります。

【回答3】ワンタッチ供給は、ガス小売りへの新規参入を促進するという観点から、ガス小売事業者に認められている供給方法です。ガス小売事業者が家庭などの需要場所で卸事業者から卸供給を受け、その場で小売供給を行ったと見なす取引手法のことで、実態として小売事業者はガスに触りません。

 ガス小売事業者は原則として、一般導管事業者と「託送供給契約」を締結します。顧客にガスを送るために、導管を使用するのに必要な契約です。安全確保の観点から導管圧力を一定範囲内に収めるために、事業者ごとにあらかじめ払出計画を作成・提出します。一般導管事業者は払出計画に基づき、ガス小売事業者に1時間単位の注入計画を割り当てます。ガス小売事業者は、この計画に沿ってガスを注入する「同時同量」が義務づけられているのです。

 ですが、同時同量はガス事業特有の技術とノウハウを要する作業で、新たにガス販売を検討する事業者にとって、参入障壁になりうるものです。この点で、ワンタッチ供給を活用すれば、事実上、同時同量を卸事業者に任せることができるのです。

 仕組みはこうです。まず、ガス小売事業者は一般ガス導管事業者と託送供給契約を締結せず、卸事業者がガス小売事業者に代わって締結します。そのうえで、託送供給契約に基づき契約者に求められる日々のガスの「払出計画」の作成などの業務は、卸事業者の責任で対応します。

ワンタッチ供給を使えば事実上、同時同量を卸事業者に委ねられる
出所:電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合

 なお、ワンタッチ供給は、新規参入促進の観点からガス事業に限って認められているものです。電気の場合、託送供給契約の締結義務は小売電気事業者に課されています。ワンタッチ供給に相当する例外は認められておらず、同時同量の義務も小売電気事業者が負っています(同時同量に関する業務の外部委託は認められています)。

 つまり、ワンタッチ供給は卸供給の1つの形といえます。ですが、新規参入者が大手事業者にワンタッチ供給の申し入れをした際に、たとえ他にガスの調達元がない場合であっても、大手事業者に供給する義務があるかどうかは不透明です。現時点では、適正取引指針などになんら明記されていないのです。

 本来、一般ガス導管事業者と託送供給契約を締結し、同時同量への対応を行う責務はガス小売事業者にあります。そう考えると、小売事業者が卸供給の申し入れをした場合に、通常の卸供給を行うか、ワンタッチ供給を行うかは、大手事業者の側に選択の余地があると考えるのが自然でしょう。

 ただし、あるエリアでガス小売事業者が同時同量対応を委託する先がほかにないなど、ワンタッチ供給を受けなければ事業を行うことが事実上困難な場合は別途、考慮が必要です。このような場合に大手事業者が不当にワンタッチ供給を拒絶すると、独禁法への抵触が問題となる可能性がゼロとは言い切れないため、大手事業者は協議に応じ、慎重に対応するのが無難でしょう。

 なお、ワンタッチ供給についても、資本関係のない新規参入者と社内取引やグループ内取引で条件が異なるケースについては、①供給量、②供給期間、③信用力などに照らして合理的かつ客観的な理由をもって説明する必要がありそうです。同時同量対応などワンタッチ供給に伴う業務のための適切な費用(システム費用など)を新規参入者に応分に負担させることは、ルール上も認められるでしょう。

* 本稿は執筆者の個人的見解であり、その所属する法律事務所またはクライアントの見解ではありません。

松平 定之(まつだいら・さだゆき)
西村あさひ法律事務所・弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。電力ガス・プラクティスチーム所属。2011~2012年は米国のDebevoise&Plimpton法律事務所勤務。業務分野は、M&A・JV、エネルギー分野の規制・契約・紛争など
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