電力ビジネスに欠かせない電力取引。日本の電力取引は制度面も含めて発展途上にありますが、電気事業者のリスクマネジメントの観点からも取引環境の整備が欠かせません。日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場や時間前市場に加えて、今後は先物取引や先渡取引の拡充が期待されています。ただ、取引形態の多様化は、電気事業法以外の法律や制度の整理も必要となってきます。今回は、電力取引におけるデリバティブの扱いについて、西村あさひ法律事務所の松平定之弁護士に解説していただきます。

【質問1】電力取引でも先物取引が始まろうとしているのですよね。なぜ先物取引が必要なのですか?また、先物取引をスタートさせるに当たり、制度面での整備は進んでいるのでしょうか。

【回答1】電力取引には、電気の受け渡しのタイミングなどによって、複数の取引形態があります。まず、日本卸電力取引所(JEPX)で翌日に受け渡しする電力を30分単位で取引するのが「スポット市場」(1日前市場)です。受け渡し当日に気温の変化などによって需要が変化したり、予定していた発電機の不調が起きたときに使うのが「時間前市場」です。

 ただ、スポット市場や時間前市場は価格変動が大きく、小売電気事業者にとってリスクが大きいのが実態です。「先渡取引」や「先物取引」を活用し、将来、卸電力市場で購入する電力の調達価格をあらかじめ確定することができれば、価格変動リスクを回避することができます。また、将来の調達コストを固定化できれば、例えば燃料費調整制度を使わない新しい料金体系を取り入れることも可能になります。

 現在、日本で行っているスポット取引や時間前取引は、電力そのものを取引当事者が受け渡しする「現物取引」です。一方、デリバティブ取引である先物取引を行う市場を創設するためには「商品先物取引法」の改正が必要でした。

 2016年4月の電力小売りの全面自由化に合わせて施行した電気事業法改正(第2弾改正)と同時に、商品先物取引法の一部改正が行われ、同法の適用対象となる「商品」に電力が加わりました(商品先物取引法2条1項4号)。

 これによって、法律上は電力の先物を市場商品として商品取引所に上場できるようになりました。当初は2016年度中の取引開始を目指し、2016年夏には東京商品取引所(TOCOM)で電力先物取引の実証実験が行われました。ですが、先物取引以前に、現物取引の厚みが十分ではありません。システム開発に多くのコストを要することもあり、まだ電力先物は上場されていません。

【質問2】先物取引はデリバティブ取引に当たるため、商品先物取引法の改正が必要だったことは分かりました。そもそも「デリバティブ取引」とは何なのでしょうか。

【回答2】デリバティブ(derivative)という英語は「派生的な」という意味を持っており、「派生商品」のことを指します。株式や債券、金利、為替、コモディティ(穀物や金属などの商品)などの伝統的な取引から派生した取引手法、という意味です。

 デリバティブ取引には、「先物取引」と「スワップ取引」「オプション取引」の3つの手法があり、将来に向けたリスクをヘッジしたり、投資目的で利用します。

 まず、先物取引は、取引するモノ(原資産)の将来の価格をあらかじめ決めておき、期日が来た時点で売買を行う方法です。事前に価格を決めておくことで、価格変動リスクを回避できます。

 スワップ取引は、将来に発生する金利などのキャッシュフローを取引の当事者間で交換することを言います。例えば、金利スワップの場合には、同じ通貨で固定金利と変動金利を交換したり、異なる通貨間での金利を交換するものであり、将来における金利の上昇・低下リスクをヘッジするために利用します。そして、オプション取引とは、先物取引やスワップ取引に条件をつける仕組みのことを言います。

 先物取引は、あらかじめ取引期間を決めておき、最終取引日までは自由に転売や買い戻しを行い、取引価格の相殺や差金決済を行うことで、価格変動リスクを最小限にすることが可能となります。他方、先渡取引は、転売や買戻しなどによる差金決済が可能な場合を除き、原則として、差金決済ではなく、将来のある時に現物の受け渡し(現物取引)を前提とするものですので、デリバティブ取引とは区別されます。

デリバティブ取引には参入規制や行為規制がある

 デリバティブ取引では、原資産の取引価格の変動が財務上のリスクになるおそれがあるため、法律の規制が課されています。原資産が「金融資産」の場合は「金融商品取引法」が、原資産が「商品」の場合は「商品先物取引法」が適用されます。取引市場の開設者の制限や、販売などを手がける事業者の参入規制や行為規制などが定められています。

 また、デリバティブ取引は、その商品が取引所に上場されているかどうかで、「上場デリバティブ」と「店頭デリバティブ」に分類されます。例えば、デリバティブ商品が上場されている代表的な取引所は、東京商品取引所です。

 デリバティブ取引は、将来の市場における商品の価格変動という「偶然」によって、金銭授受の額が決まることから、形式的には刑法上の賭博罪に該当するおそれがあります。ただし、金融商品取引法及び商品先物取引法に定めるデリバティブ取引は、ルールに従って行う限り賭博罪には該当しません。他方、商品先物取引業者以外の相手と、商品市場における相場を利用して取引所外で差金を授受することを目的とする行為は「相場による賭博行為」として禁止されています(商品先物取引法329条)。

【質問3】電気事業を手がけるに当たり、質問1の先物取引以外にデリバティブ取引規制に関わるものはあるのでしょうか。

【回答3】はい、あります。その1つとして、連系線利用に伴う間接オークション方式の下でのエリアを超えた電気の売買における差金決済の合意がデリバティブ取引に当たる可能性があります。

 連系線利用ルールの見直しに伴い、これまでの「先着優先」に代わって、間接オークション方式を使うことになりました。連系線を利用して電力の売買を行う事業者は、JEPXのスポット市場において取引を成立させることが必要となります。

 スポット市場の価格変動リスクの回避するため、売買当事者(連系線を利用して電力を売買する事業者)は、あらかじめ当事者同士で決めた固定価格(約定価格)とJEPXの市場価格との差額を補てんすることに合意したうえで、取引することになるでしょう。

 この方法が、デリバティブ取引の対象である「差金決済契約の合意」に当たるのかどうかが、議論の俎上に上っています。もう少し具体的に言うと、商品先物取引法における「店頭デリバティブ取引」に該当するのかどうかという論点です。

 店頭デリバティブ取引にはいくつかの類型がありますが、そのうちの1つが、約定価格と実際の取引価格に差額が生じた場合に、金銭を授受する取引、またはこれに類似する取引です。店頭デリバティブに該当する場合は、取引するためには商品先物取引業の許可が必要になるなど、規制が適用されるおそれがあります。

 では、間接オークション方式による連系線利用で行われる取引について、経済産業省の電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会による中間論点整理の例示にしたがって、少し詳しく見てみましょう。

  • 売り手(発電事業者)と買い手(小売電気事業者)の間で、あらかじめ10円/kWhの固定価格で電気の売買を行うという前提を取り交わす。
  • JEPXの市場価格が8円/kWhの場合、買い主が差額の(10-8)円を売り主に支払う。
  • JEPXの市場価格が12円/kWhの場合、売り主は、差額(12円-10円)を買い主に支払う。
  • なお、JEPXの市場価格にエリア間値差が生じた場合には、当該値差についてもいずれかの当事者が負担することが想定される。この場合に値差を負担する当事者 のリスクをヘッジする観点から、いわゆる間接的送電権の必要性が生ずる。

連系線を使う電力取引はデリバティブ扱いに?
間接オークション方式による差金決済の仕組み(出所:経済産業省・電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会の中間論点整理)

 この取引で、「差金決済契約の合意」部分だけに着目すると、売り手が買い手に対して約定価格(10円)と現実価格(8円)の差額の金銭の授受を約束した取引となっています。この場合には店頭デリバティブ取引に該当し、取引当事者は商品先物取引業の許可が必要になるなど、規制対象となるおそれがあります。会計上もデリバティブ取引として管理が必要となりそうです。

 デリバティブ取引に当たらないようにするためには、「差金決済契約の合意」のみを単独で交わすのは避け、「連系線を介した電力の実物取引の付随合意」として差金決済合意を位置付けるのが良いでしょう。

 具体的には、売り手と買い手が、合意価格(前例でいうと10円/kWh)と市場価格(8円/kWh)との差額の支払いのみならず、(1)スポット市場を介して電力を受け渡すこと、(2)当事者間の合意価格(特定価格)を定めておくこと、(3)特定価格の一部を市場で決済すること、(4)特定価格の残り(特定価格と市場価格の差額)を直接支払うこと、の4点をひとまとめに扱うことが適切です。なお、制度検討作業部会の中間論点整理では、この4点についての合意を「特定契約」と定義しています。

 さらに、売り手と買い手がそれぞれのエリアにおいて、実際に確実に取引が成立する価格で売り入札と買い入札を行うことを合意事項としておくことが無難でしょう。

 制度検討作業部会が公表した「既存契約見直し指針について」と題する資料には、間接オークション方式導入に伴う経過措置の適用を受けるための条件との文脈ではあるものの、(1)~(4)で構成する「特定契約」について、さらなる記載があります。

 まず、(a)目的として、電力の送電者が自己所有の発電所で発生した電力(および別途調達した電力)をJEPXの前日スポット取引市場に供給し、電力の受電者がスポット取引市場から受電すること、(b)電力の受渡場所の特定(JEPXとすることも可能)、(c)実需給の一定の期間前までに、実受給日の必要電力量を合意し、JEPXの前日スポット取引市場において送電側の事業者は合意した量の売り入札を、受電側の事業者は合意した量の買い入札を実施すること、(d)売買義務の履行が必要であること--を定めておく必要があります。

 さらに、売買義務が履行されなかった場合には、契約解除や補償金を請求するといった特約条項を付けておくべきだと示唆する記述もあります。

 なお、制度検討作業部会の中間論点整理は、間接オークション方式による電力売買の会計整理に関して、「特定契約は、スポット市場を介して電力を受け渡すことを内容とする電力需給契約の一種であり、電力財の取引と事業者間精算の取引は一体の契約で行われることとなることから、金融商品会計基準の対象外(会計上デリバティブ取引に該当しない)と考えることが適当」と整理しています。

【質問4】 電力の先物取引はデリバティブ取引に当たり、東京商品取引所で上場するとのことですが、先渡取引は既に日本卸電力取引所(JEPX)で行われています。2つの取引所の関係性は。

【回答4】 商品先物取引法6条には、「取引所集中の考え方」という項目があります。東京商品取引所で先物取引が始まった後は、「仲間市場」(商品先物取引法331条)とみなされるJEPXの先渡取引の機能を東京商品取引所と統合するのかどうか、議論の整理が必要になりそうです。

 取引所集中の原則を照らすと、JEPXの先渡市場のほか、現在、制度設計が進められている「ベースロード電源市場」における取引や間接的送電権の付与との関係についても、商品先物取引法の観点から整理・検討が必要になるでしょう。

 さらに、電気事業者間で行う差金決済が、商品デリバティブ取引に該当するのかどうか、また、デリバティブ取引に関する規制の適用を受けるのかどうか、改めて整理が必要となりそうです。

* 本稿は執筆者の個人的見解であり、その所属する法律事務所又はクライアントの見解ではありません。

松平 定之(まつだいら・さだゆき)
西村あさひ法律事務所・弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。電力ガス・プラクティスチーム所属。2011~2012年は米国のDebevoise&Plimpton法律事務所勤務。業務分野は、M&A・JV、エネルギー分野の規制・契約・紛争など
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