「VPP」(バーチャルパワープラント)と呼ばれる新たな電力ビジネスが海外で広がり始めている。仮想発電所とも呼ばれ、太陽光発電や自家発電などの価値を高めるサービスとして始まった。近年、対象が蓄電池にも広がり、注目を集めている。

 欧米やオーストラリアで蓄電池を使った電力貯蔵ビジネスが活気を見せている。その先端を走る企業の1つが、米カリフォルニア州に本拠を置くエネルギーベンチャーのステムだ。

 設立は2009年。蓄電池のリースとエネルギーコスト削減事業で成長し、世界でもいち早く蓄電池を使うVPPを実用化した企業として知られる。2015年にカリフォルニア州で蓄電池VPPの事業化に成功したのち、この4月にはニューヨーク州でも同社の蓄電池VPP技術が採用されることに決まった。

全米で初めて蓄電池VPPを事業化
米ステム本社(出所:ステム)

 太陽光発電などに蓄電池を組み合わせることで、電力会社から送電される電気を購入する従来のパターンより、電気代を安くできるケースが米国などで出始めているのは前回の記事、「米豪で家庭向け蓄電池導入が本格化」で取り上げた通りだ。太陽光パネルや蓄電池が安くなってきたため、通常の電気と組み合わせてうまく使えば、トータルのエネルギーコストを抑えられるようになってきた。

 ステムも商業施設などに蓄電池をリースで提供し、蓄電・放電を最適に制御することでエネルギーコストを下げる「ストレージ・アズ・ア・サービス」というビジネスを展開している。蓄電池VPPは、もう一歩進化しており、散在する顧客の蓄電池をITで遠隔操作し、あたかも1つの発電所のように運用して収益を得る手法だ。同社の蓄電池を使ったサービスの中でも最先端に位置付けられている。

遠隔監視でVPP運用
ステム社のリチウムイオン蓄電池システム

周波数調整用の“電源”として評価

 通常、蓄電池に貯めた電気は太陽光が発電しない夜間に利用したり、需要が高まる時間帯の「ピークカット」に活用したりすることで顧客の電気代を抑える(米国では利用kWが一定量を超えると電気料金が急上昇する)。これに加えて、VPP運用によって顧客の蓄電池から余った電気を集めて電力市場などで売却することで儲けを増やす。

 ステムが最初に蓄電池VPPを事業化したカリフォルニアでは、通常の卸電力市場(前日スポット市場)のほか、リアルタイム市場でも電気を売っている。リアルタイム市場は、州の送電網を管理する系統運用機関(CAISO)が送電網の周波数を一定に保つのに必要な電源を調達するための市場で、入札電源には不意の周波数変動にも対応できる機動性などが求められる。ステムの蓄電池VPP技術はそうした“電源”としての性能も評価された。

 ニューヨーク州では、ステムは商業施設など20社、80事業所に計14MWhの蓄電池を設置する計画を進めている。VPP運用もスタートさせ、同エリアの大手電力であるコンエディソンが運営するDR(デマンドレスポンス)市場への入札に参加する。2018年までに約1MW分を同市場で販売する計画だという。

 ステムのマーケティング・マネジャー、ガーベ・シュワルツ氏は「ピークカットだけでは蓄電池の活用は時間ベースで5%程度にとどまるが、残り95%の時間をVPP運用にあてることで蓄電池の価値を最大化できる」としている。顧客の電気の利用状況や蓄電池の充電状態、市場価格の予想などから蓄電池VPPの売却益を最大化する制御技術が同社の強みだ。ステムは蓄電池に貯めた余剰電力の売却益を顧客に還元することで、蓄電池導入の訴求力を高め、電力貯蔵ビジネスの拡大を目指す。

ドイツで実証され、米豪へと広がる

 VPPという考え方が登場したのは2009年頃。中でも大がかりな検討を進めたのがドイツだ。2009~13年にかけて政府主導で進められたスマートグリッド実証プロジェクト「E-Energy」の一環として取り組まれた。

 当初の狙いは、ドイツ各地に広がり始めた太陽光発電や風力発電、消費者(電力需要家)自身が非常用として持っていた小型発電機などの効率運用だった。ICTの進歩を背景に分散電源をネットワークで結んで集約し、仮想的な発電所に見立てるというアイデアだ。

 E-Energyなどのプロジェクトを通して、こうした手法が一般の発電所と同様、系統運用者や卸電力市場への電力供給、小売電気事業者への電力販売がビジネスとして可能であることが実証された。分散電源の所有者である消費者に代わって電気を集めて販売する「VPPアグリゲーター」と呼ばれる事業者がドイツで登場した。

 その後、VPPは対象が広がり、電力の販売先や調達先が多様化していった。販売先としては、機動的な電力供給が求められるリアルタイム市場などへの供給も可能になり、調達先としては分散電源だけでなく、蓄電池まで広がった。

増える太陽光と蓄電池、需要家を囲い込み

 商業施設向けなどの大型蓄電池だけでなく、米国やオーストラリアの大手電力会社では家庭に導入された小型蓄電池もVPP運用の対象にしようとしている。背景には、住宅向け太陽光の導入が拡大するにつれ、送配電網が不安定になる問題が顕在化してきたことが挙げられる。需要家が設置した蓄電池をVPP運用することで系統の安定化を図るのが第1の狙いだ。

 第2の理由は、米豪の大手電力の顧客の多くが太陽光と蓄電池のハイブリッドシステムを住宅に設置し始めたことだ。VPP運用による経済メリットを提供することが、顧客の囲い込みにつながる。これまで電気事業は大規模発電所からの一方向的な電力供給を軸としてきたが、海外ではここにきて分散型リソースを活用する新しいビジネスモデルに挑戦する事業者が出始めている。蓄電池VPPはそのもっとも先進的な試みだ。

蓄電池の「第三者保有モデル」、VPPで採算性高める

 ニューヨーク州大手電力のコンエディソンは、「第三者保有モデル」で同社の顧客の住宅に太陽光パネルと蓄電池を設置し、これらを使って顧客に電力を供給する実証プロジェクトを2016年6月にスタートさせている。

 第三者保有モデルは、デベロッパーが第三者から資金を調達して需要家宅に太陽光発電を設置し、さらに、その太陽光で発電される電力を需要家に販売するビジネス手法。消費者には初期費用を直接負担しないで済むメリットがあり、米国では太陽光パネル普及の原動力にもなった。

 コンエディソンの実証プロジェクトでは太陽光パネルだけでなく蓄電池も組み合わせる。太陽光発電システムは米サンパワー製、蓄電池設備は米サンバージ製だが、全体のシステムはコンエディソンが保有する。蓄電池システムはまだ高価なことから、顧客の負担感が少ない第三者保有モデルが有望だと見ている。同社は太陽光発電の余剰電力を貯めた顧客の蓄電池をVPP運用し、系統安定化の効果や経済性について検証する。

 コンエディソンは事業化に当たって、需要家から太陽光パネルが発電した電力への対価と、停電時も蓄電池から電力供給が可能になることによるレジリエンス(災害耐性)の向上に対する対価を受け取ることを想定している。さらに、蓄電池設備をVPP運用することで事業採算性を高める考えだ。

第三者保有モデルで蓄電池の普及を促進
米コンエディソンのビジネススキーム

 コンエディソンは、この事業のIRR(内部収益率)の目標を8%に置いている。リチウムイオン蓄電池システムの価格動向を織り込んだ予測では、レジリエンス向上サービスの対価として顧客が月に20ドル支払ってくれれば、2018年にIRRは8%に達する。レジリエンス料金を上乗せしない場合には2021年になると予想する。顧客がレジリエンス性の価値を認めるかどうかが蓄電池普及の焦点になるという。

東電が出資したモイクサは英国から海外進出を目指す

 家庭への蓄電池普及が進むオーストラリアでも、VPPビジネスの検討が始まっている。

 豪大手電力のAGLは2016年夏から、同社の顧客で、太陽光の発電量が消費量を上回るなどの条件を満たした家庭を対象に蓄電池を設置し、顧客の余剰電力をエリアの需要のピーク抑制に利用するVPPの実証実験に取り組んでいる。

 VPPプロジェクトは150軒を対象に実施。プロジェクト全体にかかる費用は2000万豪ドル(約16億8000万円)で、このうち500万豪ドルを政府系の再生可能エネルギー推進機関であるAREA(Australian Renewable Energy Agency)が負担する。

 参加家庭はサンバージ製の蓄電容量7.7kWhの蓄電池システムを3499豪ドル(約29万円)で購入するが、その費用はVPPプログラムへの参加報酬や電気料金削減の効果で比較的短期間に回収できるという。AGLは実証実験で事業性を見極め、近く本格的なビジネスとして展開する予定だ。

 欧州では英国のエネルギーベンチャーであるモイクサテクノロジーが、家庭向けに販売したリチウムイオン蓄電池をVPP運用し、英国の系統運用者であるナショナルグリッドの系統安定化用電源として活用するビジネスモデルを打ち立てた。この4月には、東京電力が同社に出資したことから、国内でも注目が集まった(「東電が出資した『電力会社を破壊する技術』」参照)。

 モイクサは「蓄電池へのニーズは今後、世界的に高まっていく」(同社幹部)と見ている。固定価格買取制度が廃止されたり、電気料金が上昇している国や地域では、家庭などに設置した太陽光を自家消費するニーズ強くなる。加えて、各国で再エネの導入量が増えると、系統安定のための電源を蓄電池のVPP運用で賄う機運も高まるというのが理由だ。

 同社は英国以外への展開にも強い関心を示しており、オランダやポルトガル、米カリフォルニア州などへの進出を有望視している。

 国内でも2019年以降、固定価格買取(FIT)の期間が終わる家庭用太陽光発電が増えていく。太陽光の自家消費が増える中で、蓄電池のコストが下がり、普及が進めば、欧米と同様に遠くない将来、蓄電池VPPがビジネスとして発展する可能性は十分にある。

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