欧米で太陽光発電などの分散電源で発電した電気を、消費者と発電事業者が直接取引する電力のP2P(ピア・ツー・ピア)取引が始まった。消費者が特定の発電所を選択できるメリットがあり、流通コストを削減できる可能性もある。仮想通貨で注目される「ブロックチェーン」技術を活用する技術開発も活発化してきた。新たな電力流通の形が芽吹き始めている。

 太陽光や風力発電など再生可能エネルギーによる電力の販売でシェアを伸ばしている英国の新興小売電気事業者、グッドエナジー(Good Energy)は2016年11月、特定の発電所で発電した電気を選んで購入できる「セレクトリシティー(Selectricity)」と呼ばれる新たなサービスを開始した。

 新サービスは、CSR(企業の社会的責任)などの観点から、再エネの利用や地域の発電所からの調達(地産地消)をアピールしたい事業者などを顧客として想定している。ホームページには「最寄りの持続可能な発電機を選択することで、地域経済や地域社会への貢献を可視化できます」とある。

 グッドエナジーは、英国のソフトウエアベンチャーであるオープンユーティリティー(Open Utility)と連携し、同社が開発した「ピア・ツー・ピア(P2P)」プラットフォーム技術を電力供給に応用する。

 具体的には、パソコンやスマートフォンなどの端末を使って、需要家はマップ上に表示された再エネ発電所から購入先を選択する(図1)。それぞれの再エネ発電所から購入可能な電力量などが分かる仕組みになっている。契約後は選択した太陽光や風力などの発電所からの購入が使用電力量全体に占める割合などを都度、確認できる(図2)。

画面上の地図から好きな発電所を選べる
図1●発電所の選択画面(出所:オープンユーティリティ)

時間帯ごとにどの発電所の電力をどの程度使ったかが確認できる
図2●使用電力量の確認画面[青が水力、緑が風力、黄色が太陽光発電](出所:オープンユーティリティ)

「地元の再エネ」を購入する仕組み

 P2Pは、ネットワークにつながった端末同士がサーバーを介さずに直接通信したり、企業を介さずにソーシャルネットワークを通して個人同士がお金やモノを直接、売買したり、貸し借りするビジネスモデルを表現する用語として、近年様々な分野で注目を集めている。電力業界では、電力会社を介さず発電機(発電事業者)と需要家を直接結び付ける可能性から脚光を浴び始めた。

 小売電気事業者のグッドエナジーがP2Pプラットフォームを積極的に導入して、発電所を選択できるメニューを発売したのは、分散電源などの発電機と需要家が結びつくことで「中抜き」されるよりは、むしろ積極的にメニュー化してビジネスモデルに取り込もうとしていると見ることもできるだろう。

 オープンユーティリティーによると、同社が開発したP2Pプラットフォームは、「複数の需要家と複数の分散電源のデータをマッチングさせる最適化のアルゴリズムを搭載している」(ジェームス・ジョンストンCEO)という。

 この仕組みを利用するには、需要家と発電所の双方にスマートメーターが設置されていることが条件になる。このため、サービス対象はスマートメーターが普及している拠点に限られる。

 スマートメーターから需要家と発電所の「30分値」(30分ごとの需要量と発電量)をクラウド上に集め、需要家には購買可能な発電所の情報を、発電事業者にはどんな需要家が電気を買いたがっているのかといった情報を両者の端末に提供する。両者の電力売買の取引情報もクラウド上で処理して、それぞれの端末にフィードバックする。こうした30分値をきめ細かく管理することで、発電所と需要家のひも付けが可能になるという。

 オープンユーティリティーは、電力市場向けP2Pシステムを開発するベンチャーとして2013年に設立された。同社が開発したP2Pプラットフォームは、英国南西端のコーンウォール州に建設された環境配慮型複合施設「エデン・プロジェクト(Eden Project)」における電力の自家消費の実証実験に用いられた。

 6カ月間の実証の結果、情報の見える化に優れている点などが評価されて、今回のグッドエナジーによる採用につながったという。

託送料金の引き下げも視野

 グッドエナジーによると現在、約5000事業者が新サービスを利用しており、将来的にはすべての電力メニューで需要家が発電所を選べるようにしたいとしている。需要家が自分の地域の再エネを使いたいというニーズに応えることで顧客満足度を高め、新規顧客の獲得と囲い込みを目指す。

 現時点では事業所などの大口需要家を対象としているが、今後は住宅向けにも発電所の選択が可能なメニューを広げる。まず、スコットランドでスタートさせる予定だ。ここでもオープンユーティリティーのP2Pプラットフォームを採用する。

 一方、オープンユーティリティーはグッドエナジー以外の電気事業者にもP2Pプラットフォームを展開していく。これまで、イタリアの発電事業者向けで成約事例があるという。この発電事業者は小売電気事業者を介さず、直接、需要家に電力を販売するために同社のプラットフォームを活用する。

 オープンユーティリティーは、託送料金(送配電網の利用料)を送配電の距離に応じて課金する方式に見直すことを当局に提案している。需要家が地元や近隣の再エネを優先的に利用するようになれば、送配電網の維持、更新にもメリットがあるという理由からだ。

 実際、エデン・プロジェクトにおける実証の結果では、スタート当初の2015年10月には域内全体の使用電力量うち48.8%が同プラットフォームを通じて取引され、送配電網の平均使用距離は51.4マイル(82.7km)だった。それが、2016年3月には85.6%に増え、送配電網の平均使用距離は35.8マイル(57.6km)に縮まった。その分、送配電網の負担は減ったと考えることが可能だ。

 こうした結果には、英国ガス電力市場規制庁(Ofgem)も関心を示している。実際、同社はOfgemの支援を受けて、配電網の負担がどれだけ減り、託送料金をどの程度減らせるかを実証するプロジェクトをスタートさせるという。同社は蓄電池を併用することでさらに効果が高まると見ており、蓄電池とP2Pプラットフォームを組み合わせる検討もスタートさせる。実証実験の成果次第で、Ofgemは託送料金制度の見直しに反映させる可能性がある。

 オープンユーティリティーのジョンストンCEOは「大規模発電所から需要家に一方向的に電力を供給するこれまで電力システムは、普及が進む分散電源に適した新しいシステムに改める必要がある。P2Pプラットフォームは将来の電力システムのコアになる可能性を秘めている」と語る。

ニューヨークでも始まった電力のP2P取引

 電力のP2Pの試みが始まっているのは英国だけではない。

 米国でも、マイクログリッド構築などのエネルギー事業を手掛ける電力ベンチャーのLO3エナジー(LO3 Energy)と、ソフトウエア開発を手掛けるコンセンサスシステム(Consensus Systems)が共同で、電力のP2P取引の実証プロジェクト「トランスアクティブグリッド(TransActive Grid)」を進めている。

 同プロジェクトでは、仮想通貨の中核技術として知られるようになったブロックチェーン技術を電力取引向けに改良し、適用した。プロジェクト参加者には同ソフトウエアを搭載したスマートメーターを設置し、スマートメーター間をジグビー(ZigBee)やZウェイブ(Z-Wave)といった無線通信で結んで、取引情報を共有する。

 スマートメーターは、需要家が保有する太陽光などの分散電源から系統網に逆潮流する電力量と系統網から受け取って消費する電力量をモニターするとともに、需要家間におけるP2P型の取引をサポートする。料金の決済には「Paypal」(電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービス)を使う。

 ブロックチェーンは取引の確実性や安全性を保障するのに有効な技術として利用している。ブロックチェーンはトランザクション(取引)を記録する“台帳”(データベース)のようなもので、取引記録はすべての取引参加者の台帳に分散して記録されているため、データの改ざんは不可能とされる。P2P取引の手法には様々あるが、信頼性に優れるブロックチェーン技術はその有力株と目されている。

 LO3エナジー社長のローレンス・オシニ氏によると、同プロジェクトのP2P取引は、ブロックチェーンをベースにしたソフトウエアと実際の電力の流れを管理するハードウエアを合体させることによって可能になったという。これにより、電力会社を介したこれまでの電力取引とは異なる、分散電源を所有する需要家同士が直接、電力を取引する世界の実現を目指す(図3)。

P2P取引では電力会社を介さず、分散電源を所有する消費者間で直接取引する
図3●「電力小売り契約」から「P2P取引」へ

 実証プロジェクト向けのスマートメーターの実装は、2016年2月からニューヨーク・ブルックリンのプレジデント通りで始まった(図4)。通り沿いで10kWの太陽光発電システムを搭載している住宅が余った電力を融通する「プロシューマー」となり、通りを挟んだ別の住宅がその再エネを直接購入する「コンシューマー」となる実証実験を行った。2016年4月、世界で初めて消費者同士でブロックチェーンを使ったP2Pの電力取引に成功したという。

自宅に設置した太陽光発電で発電した電気を他の消費者宅とP2P取引
図4●ニューヨークのプロジェクトで設置されたスマートメーター(出所:日経BP総研クリーンテック研究所)

 P2P取引に参加した住民は、「地域の住民が地域のレストランを使うように、顔見知り同士で電力を売買することで、地域でお金が回っていくのは大きなメリット」と評価する。

 LO3エナジーは、ブルックリンの実証に参加する消費者を増やし、規模を拡大してさらに効果を検証していく。

 同社によると米国でも他の2つの地域のほか、欧州、オーストラリア、そしてケニアでも電力のP2P取引の検討が進んでいるという。先進国だけでなく、ケニアのような新興国が関心を示すのは、送配電網の整備が進んでいない地域でも分散電源により比較的容易に電化が可能になり、請求システムなどの複雑な仕組みを構築する必要がないP2Pは、エネルギーの取引コストを低減できる可能性があるためという。

ドイツ電力大手と手を結ぶ東電

 国内でも電力のP2P取引に対する関心は高まり始めている。

 東京電力ホールディングス(HD)は2017年7月、ドイツの大手電力会社であるイノジー(innogy)と共同で、ブロックチェーン技術を活用したP2Pプラットフォーム事業に乗り出すと発表した。

 イノジーは2017年5月に、同プラットフォーム事業を推進する新会社、コンジュール(Conjoule)を設立。東電HDが300万ユーロを出資し、同社株式の30%を獲得した。

 イノジーは2015年以降、ドイツ・エッセンで一般家庭と地元企業が参加するP2Pプラットフォームの実証を進めてきた。「今回、事業化の見通しを得たことから、共同で事業会社を立ち上げ、本格展開していくことになった」(東電HD)という。

 世界では太陽光などの分散電源の発電コストが下がり、電力供給の柱に成長する道筋が見え始めている。発電事業者と需要家を直接結ぶP2P取引が拡大すれば、需要家が電気を選択できるようになるだけでなく、既存の小売電気事業者は中抜きされる可能性さえある。P2Pは電力のシステムや流通を大きく変えるポテンシャルを秘めている。

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