電力小売り全面自由化から13カ月が経過した今も、ITに起因するトラブルの火種はくすぶり続けている。オペレーションミスを含むITシステム全体の品質が、正常なサービス提供の足かせになり、業界全体の変革の勢いを削ぐ。そんなトラブルが短期間のうちに、かつ特定の業界内でこれほど頻発した例は珍しい。この1年間に発覚した主なケースだけでも、簡単に10例以上、挙げられる。

 払込用紙を重複送付したことによる電気料金の重複入金が263万1000円、口座振替の割引漏れが26万8326円、延滞利息の誤判定による過請求が69円――。いずれも、中部電力が2017年4月12日に公表した。

 中部電は2016年4月から長らく、インバランス量の計算も大きく間違えていた。インバランス量は、電力の実受給調整後に一般送配電事業者と小売・発電事業者との間で精算するインバランス料金の算定根拠となる重要な数値だ。

 北海道電力もインバランス量を誤って計算し続けており、誤算定したインバランス量は中部電と北海道電で合計9億1400万kWhに及んだ。需要家が支払う「電気料金に影響はない」(両社)とはいえ、300kWh程度とされる日本の家庭一世帯当たりの月間電力消費量と比べると、インバランス量の誤算定がいかに大規模なトラブルか容易に想像できる。

 周知の通り、東京電力パワーグリッド(PG)と四国電力もそれぞれ、使用電力量の確定値の通知遅延や検針結果の喪失など、ITシステムにまつわるトラブルを引き起こしてきた。

 342万7900件、5.48%。全面自由化から2017年3月末までの、全国の契約切り替え件数と切り替え率だ。テレビCMや街頭キャンペーンなど、電力各社がこぞって販促プロモーションを展開してきたにもかかわらず、契約切り替え率が5%を超えるまでに1年を要した。

 自由化の幕開け直後から、IT関連の問題が相次いで明るみに出たことで需要家の心理が冷え込み、契約の切り替えを躊躇させた面は否めない。

短期間のうちに大トラブルが頻発

 ITをおろそかにして、強いエネルギービジネスは成立しない。そのことを改めて意識合わせするため、今回は、ITに翻弄されITで混乱した電力業界の1年を振り返っておきたい。

 一連のトラブルの“先陣”を切ってしまったのは、電力安定供給の司令塔を担う電力広域的運営推進機関(広域機関)だ。

 全面自由化を翌日に控えた2016年3月31日、基幹系システム「広域機関システム」の通信プログラムを午後5時に起動させたところ異常が発生。日本卸電力取引所(JEPX)の1時間前市場における約定処理に不可欠な入札情報を、JEPXとやり取りできなくなった。そのため実受給当日の電力調達を想定して開設されたばかりの同市場の取引は、いきなり約8時間にわたって全面停止した。

 このトラブルの数日前には、実受給前日に確定した連系線利用計画を変える「通告変更」の受付けを停止。1時間前市場において、連系線を介してエリアをまたぐ電力取引ができなくなった。広域機関システムに実装予定だった一部機能の開発が間に合わなかったためだ。

 広域機関は約1カ月遅れで当該機能を動かし始めたものの、稼働後ほどなく新たな不具合が顕在化し、連系線を利用する電力の取引をすぐに再停止した。

主なトラブルだけでも、こんなにある
電力小売り全面自由化に端を発したITシステムのトラブルの例 出所:栗原雅

あらゆるデータが「めちゃくちゃ」に

 小売電気事業者(新電力)および発電事業者の大半が、全面自由化当初から業界を混乱させる当事者になった。新たな「計画値同時同量制度」の導入に伴い小売電気事業者が作成する需要調達計画と、発電事業者による発電販売計画のデータがめちゃくちゃだった。

 そのため本来ならぴったり一致するはずの双方の計画に不整合が続出。コードの誤入力や販売・調達する電力の容量に誤りが内在する計画を広域機関に提出した事業者の数はピーク時、160社のうち7割ほどに達した。

 この影響で、計画を取りまとめる広域機関は日々、電話やメールで事業者に修正依頼する作業に追われた。さらに、インバランス料金を概算するのに使う係数の公表遅れを招いた。

 データにまつわるトラブルは、既存の大手電力でも次々と火を噴いた。四国電力は4月、使用電力量の算出に必要な電気メーターの検針結果を喪失したことを発表。検針に用いるハンディーターミナルや検針結果を管理するITシステムの操作ミスのほか、同システムで発生した不具合により、合計1500件超のデータが事実上、消えた。

 加えて、新料金メニューの導入に際して実施したプログラムの改修を誤り、従来の規制料金の最低使用量11kWhを二重加算した電気料金払込票を作成して発送してしまった。誤印字した払込票の発送先は、電気料金の振込払いを指定している従量電灯Aの契約者1万7000件を超えた。

 6月には東電PGが、「託送業務システム」のトラブルを明らかにした。スマートメーターと旧型メーターの検針結果を託送業務システムに取り込めず、使用電力量の確定値を小売電気事業者に通知する処理に遅れが発生。4月に出始めた通知遅延の件数は、5月末の段階で1万1000件弱に拡大した。

 検針結果を管理するデータベースから、託送契約の管理や料金計算に用いる機能へデータを取り込む処理にも不具合があり、5月末時点で約1万8000件の通知遅れにつながった。

新年早々、4億円規模の料金誤算定が発覚

 東電PGが確定値の通知遅れを公表した後しばらく、目立ったトラブルが明るみに出なかったこともあり、電力各社のITシステムは徐々に安定していったかに見えた。ところが、である。2017年1月4日にまたしても、業界全体に影響を及ぼす致命的なトラブルが、新たに判明した。

 中部電が2016年4月~10月までの7カ月間、エリア内のインバランス量の計算を間違え、余剰インバランスを合計約5億5600万kWh過大に算定していたのである。原因は、全面自由化に合わせて稼働させた「インバランス算定システム」の不具合を見落としていたこと。自社小売部門の需要計画を過大に計上すると同時に、需要実績を過小計上していた。

 中部電の発表を受けて社内調査した北海道電も1月18日、2016年4月~11月まで8カ月間にわたりインバランス量を誤算定し続けていたことを公にした。連系線を介してエリア外を流入出した電力量を需要実績に考慮する計算式が、インバランス算定システムのプログラムから漏れていた。その結果、本来は8カ月間で合計1億9700万kWhの不足インバランスだったところ、1億6100万kWhの余剰インバランスと計算した。

 インバランス量の誤算定の影響が、全国の小売・発電事業者に波及することは言うまでもない。一般送配電事業者と小売・発電事業者との間で精算するインバランス料金の単価は、JEPXが市場価格をベースに算出する。その際、広域機関がエリアの一般送配電事業者から集めた全国規模のインバランス状況を反映する仕組みになっている。

 中部電と北海道電が誤ったインバランス量を広域機関に通知し続けたことで、それを受け取ったJEPXが算出する単価は当然、本来の金額と食い違ってくる。資源エネルギー庁の調べでは、1kWhあたり平均0.06円、最大約4円低い単価が、全国でインバランス料金の精算に使われることになった。

 エネ庁が2017年2月に公開した資料によると、インバランス量の誤算定分を控除したあるべき単価で精算した場合に比べ、一般送配電事業者が小売・発電事業者に支払うべき金額は8カ月間で合計3億3000万円程度少なかった。逆に、小売・発電事業者に追加請求すべき金額も合計約3900万円あった。

 中部電と北海道電は自社からの精算額が足りなかった小売・発電事業者には差額を支払い、追加請求の対象事業者には支払い意思を確認のうえ請求手続きをするとしている。

質を伴わないITの影響を強く再認識

 未曽有と言っても過言ではないほど大きな問題を頻発させてきただけに、「電力業界はトラブル付いている」といった印象を需要家に与えたに違いない。しかし、信頼回復の術はある。

 まずはありきたりだが、ITへの依存度が極めて高く、質を伴わないITシステムが広範囲に多大な影響を及ぼすという点を、個々の事業者が再度、強く認識することだ。

 “動く”ITシステムを設計する際の前提となる業務要件をなかなか固め切れない中、電力各社がIT各社と共に自由化対応に奮闘していたことは理解している。限られた期間、限られた陣容で複数のシステムおよび機能の新規開発や大幅改修を並行して進めてきた。

 だが、特定の条件下で発生するような例外処理ではない通常の処理で、不具合や操作ミスによるトラブルが引きも切らず表面化した。本番稼働前のシステムテストやシステム操作方法に関する利用者向け事前説明など、準備作業が総じて不足した点を含め大規模ITプロジェクトのマネジメント力が欠如していたと言える。

 もっとも、トラブルを引き起こしたのは電力各社だが、準備不足やプロジェクトマネジメントの難易度を高める要因は、制度を検討するエネ庁にも少なからずあった。一例として、スマートメーターから取得した30分値を、一般送配電事業者が小売電気事業者へ提供するタイミングが挙げられる。

 「計量から60分以内」との方向性が電力システム改革小委員会で示されたのは、2014年7月のこと。かなり早い時期にも見えるが、開発やテストの期間を十分に確保したい一般送配電事業者はそれまで、制度を想定しながら先行して自由化対応のITプロジェクトを進めざるを得なかった。そのため自社で固めつつあった基本設計の一部を破棄し、改めてスケジュールを引き直すなど手戻りが発生。当初予定していた開発やテストの日程を食う格好になった。

見えてきた明るい兆し、未来志向のIT活用でサービス創出

 過去1年を振り返ると、どうしても後ろ向きの話題ばかりが目立ってしまうが、足元に目を転じると明るい動きも確認できるようになってきた。ようやく、本格的に需要家の流動化が始まりそうな気配が出てきたのである。この3月には、昨年4月以来1年ぶりに、月間の契約切り替え件数が30万件を超えた。

 引っ越しシーズンで追い風が吹いた面はあろう。それでも今年に入ってから3カ月連続で前月より多くの需要家が電力会社の変更に踏み切っている事実は、電力システム改革にとって明るい兆しと言える。何しろ、契約切り替え件数が3カ月続けて前の月を上回ったのは、全面自由化後、初めてのことである。

 金融業や製造業、流通業が積極的に取り組み始めたIoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)の活用も、これから電力業界で加速していくはずだ。そこではトラブルの代わりに、産業や生活のインフラを担う電力業界ならではの高信頼のサービスを競争の中で矢継ぎ早に生み出し、民と官の総力で強いエネルギービジネスを創り上げていきたい。

 都市ガスの小売り自由化もスタートし、いよいよエネルギー業界を挙げた顧客の争奪戦と、先端技術を生かしたサービス革新の競争が始まる。時期を同じくデジタルメディアとして再始動した日経エネルギーNextでは、できる限り前向きな視点で、未来志向のIT活用例を共有していく方針である。

栗原 雅(くりはら・もと)
1998年、日経BP社に入社。日経コンピュータや日本経済新聞の記者として国内外企業のIT活用事例やITベンダーの経営戦略、最新技術動向を取材。2006年に独立後、IT専門誌の立ち上げや企業のオウンドメディアのプロデュースを手掛ける。趣味はレスリング(ただし、観戦)。稲門レスリング倶楽部常任委員
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