2017年8月に電力サービス「いい部屋でんき」の受け付けを中止した大東エナジー(東京都港区)が、ついに事実上の撤退宣言をした。11月に入って、「他の電力会社への切り替えのお願い」と題した案内を契約者に送り始めたのだ。

 2017年6月時点の契約数が26万件、家庭などの低圧分野での供給量では新電力トップ10に入る大東エナジーが「事業縮小」を決断した理由は何だったのか。

大東エナジーは「他電力への切り替え依頼」を開始
大東エナジーが需要家向けに発送したレターのサンプル

 「電力市場価格の高騰及びシステムの改修困難」。これが、大東エナジーが今回公表した事業縮小の理由だ。もっとも、ことの発端は既報の通り、一部の事務処理がとどこおり、受け付けた申し込みを十分にさばき切れなかったことにある(「大東建託子会社の新電力、電気の受け付けを中止」)。

 電力業界の動向に詳しい事情通によると、大東エナジーはピーク時、コールセンターのオペレーターなど100人ほどを配して申し込みの受け付けなどに当たっていた。しかし、申し込みを獲得した後の事務処理に遅れが目立つようになる中、電力ビジネスの採算性を疑問視する声が社内で強まり、事業の縮小に大きく舵を切ることになったという。

 電力ビジネスに新規参入してみたものの、事務処理の負担の大きさに窮する新電力は、大東エナジーだけではない。「全面自由化から2年近くが経ち、業務のさまざまなシーンで事務処理問題に頭を抱える新電力が増えてきた」と、前出の事情通は証言する。

 新電力は電力サービスに参入する際、契約管理や料金計算に用いるCIS(顧客情報システム)を導入すると共に、電力需要を予測して供給計画を立てる需給管理システムを整備。申し込みの受け付け機能や、月々の電気料金と使用量の確認機能などを持つポータルサイトも用意してきた。それでも各種システムでカバーしきれず、人手による作業を余儀なくされている業務が、新電力の現場にはまだ多く残っている。

 新電力が突貫工事で全面自由化に間に合わせたシステムは、「CISや需給管理などいくつものシステムがバラバラに動くつぎはぎ状態になっている」。複数の新電力のシステム導入を支援してきたコンサルタントは、こう話して続ける。「初期の細かい不具合などはさすがに解消してシステムは安定稼働している。だが、システム間でデータ連携できていない処理が残っており、多くの新電力で人手によるデータの多重入力が発生している」。

メガバンクの業務改革で脚光浴びるロボット

 システム化の対象から漏れたまま、いつまでもシステムの機能として実装されずに積み残された人手による事務処理を、いかに効率化するか。

 この課題を解くカギとして、にわかに脚光を浴び始めているのが、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」と呼ぶソフトウエアツールである。RPAツールは、人に代わってパソコンを使う事務処理を遂行することから、ソフトウエアロボットやデジタルレイバーとも呼ばれる。

 最近、メガバンクが競うように公表した業務改革に関する報道を受け、RPAに注目し始めた新電力関係者も多いだろう。

 みずほフィナンシャルグループは1万9000人分、三菱UFJフィナンシャル・グループは9500人分、三井住友フィナンシャルグループは4000人分の業務量削減に向けて動き出した。各社ともRPAツールを、業務改革を成し遂げるための有力な道具立ての一つに位置付け、活用を推し進めている。

 RPAツールは、定型化された業務の処理手順を覚え込ませることで、同一の作業を自動で実行する。社内システムのデータベースを検索し、書類作成に必要な顧客の氏名や住所のデータを表計算ソフトExcelに入力する作業があった場合、最初にいったん人がパソコンで実際に処理してみせる。するとパソコンもしくはサーバーで動くRPAツールが、どのデータをExcelのどこの項目に転記するかを記憶し、同じ作業であれば100件でも1000件でも機械的に一気に処理するようになる。

 メガバンクが掲げた業務量削減の数値目標はどれも大きい。そのため、「RPAは大手企業が大規模に社内展開するソフトウエアのように捉えられている節がある。しかし、中堅中小企業が小規模に使っても十分に効果が得られる」。こう語るのは、ITベンダーやコンサルティング会社、ユーザー企業など30社近くが加盟する日本RPA協会の代表理事、大角暢之氏だ。大角氏は「BizRobo!(ビズロボ)」というRPAツールを開発・提供するRPAテクノロジーズの社長でもある。

 同社のBizRobo!は三菱UFJ銀行や日本生命保険といった大手から、中堅中小企業まで、国内100社ほどが採用している。そしてBizRobo!で開発した4000台以上のソフトウエアロボットが、全国各地の企業で人に代わって事務処理をこなしている。

 その中には、月次で実施する社内アンケートの結果を集計して報告書としてまとめる業務の所要時間を、劇的に削減したところもあるという。従来は1人の社員が2日ほどかけて約700人分のアンケート結果を基に報告書を作成していたが、作業を覚えさせたBizRobo!の導入後は10分程度で完了できるようになったそうだ。1日の就業時間が8時間だとすると、ソフトウエアロボットを活用したことで、作業効率が100倍近くに高まった計算になる。

 この成果を、対象がたった1人の業務に過ぎず、業務量の削減効果もせいぜい月に16時間足らず、と捉えるのは得策とは言えない。「システム化の対象から漏れたままになっている業務の中には、システムに機能を実装するにしては業務量が少なく大きな効果が見込めないとして見送られてきたものが多い」(大角社長)からである。それらを自動化して作業効率向上の成果を積み上げれば、全体として大幅な業務量の削減が期待できる。

大規模展開だけが正解ではない

 RPAツールの導入には、大きく2つのアプローチがある。1つは、初めから幅広い業務を対象にソフトウエアロボットを展開し、数年がかりで業務量の大幅削減を狙う方法だ。

 例えば、2017年4月にRPAを活用した抜本的な業務改革に乗り出した三井住友銀行は、住宅ローンのチラシ作成といった営業店支援業務や、内部損失検証・計測をはじめとするコンプライアンス・リスク関連業務など、約200種類におよぶ業務をRPAツールによって自動化。これまでに40万時間に相当する業務量の削減を達成した。この取り組みをさらに推進して、3年以内に300万時間以上、約1500人分を超える業務量を削減する。

 このアプローチはRPAツールの導入によって大きな効果が見込める半面、業務の見直しと並行して基幹業務システムを刷新するときのように、導入の前工程に労力を要する。三井住友銀はまず既存の業務を可視化して、無駄な業務を廃止すると共に重複する業務を集約。そのうえで業務プロセスをRPAツールに適合するように見直して自動化を果たした。

 もう1つの導入方法は、前述した例のように一部の社員に負担がかかっている業務をRPAツールでまずは代行し、段階的に適用業務を増やしていくものだ。既存業務の洗い出しや業務プロセスの見直しを経ない分、短期間かつ安価にRPAツールを動かし始められる。

 Excelで作成した交通費精算のデータが正しいかどうかを、パソコンのWebブラウザを操作してインターネットの経路案内サービスで調べ確認するといった、パソコンで完結する作業はRPAツールが得意とするところ。こうした単純な事務処理を担うソフトウエアロボットであれば、RPAテクノロジーズが最短1日で用意して1カ月あたり10万円前後からという料金で提供している。

新電力はシステム改修なしにツールを活用

 さて、新電力である。つぎはぎ状態のシステムによる事務処理の非効率が目立ってきたからといって、億円オーダーの費用を投じたシステムの刷新や業務プロセスの見直しを伴うようなRPAツールの導入はあまり現実的ではない。

 反対に、CISや需給管理システムで処理できず人手に頼っている特定の業務について、RPAツールで自動化する余地は十分にある。RPAツールに詳しい日立コンサルティングの西岡千尋サービス&デジタルコンサルティング本部兼グローバルビジネス推進室シニアディレクターは、「大幅な改修を避けて既存システムをしばらく延命するというのも、RPAツールの1つの活用方法だ」と話す。

 RPAツールを適用できる業務としては、例えば、電気事業法の規定に基づき契約者に交付する重要事項説明や契約内容の案内などが考えられる。

 供給開始予定日や料金支払いなどについて説明した重要事項説明は、電力サービスを契約するかどうかの判断材料になる。そのため契約締結の前までに交付することになっているが、申し込み手続きの完了後、契約内容の案内と併せて、改めて重要事項説明の書面を郵送したりする。

 この場合、需要家が数十万件に満たない規模だと、「CISを操作して新規契約者のリストをExcelで作成し、需要家ごとに契約内容を印刷して、重要事項説明書と併せて発送する一連の準備を人手でやっている新電力は少なくない」(新電力のシステムに詳しい前出のコンサルタント)。

 あるいは日次や週次、月次の事業の収支管理でも、人手による作業が常態化している。CISで計算した電気料金のデータや、需給管理システムで管理する電源調達の費用、試算した託送料金のデータを「新電力の経営企画部門などの社員がExcelを使って手作業で集計している」(同上)。

 いずれの業務もシステムの操作内容や、システムから取得すべきデータが決まっているので、RPAツールを使って自動化しやすい。RPAツールは「ちょうどExcelのマクロを使って同じ処理を繰り返し実行するようなもの」(大角社長)。動作に不安を抱えた真新しい技術ではなく、電力以外の業界で安定稼働の実績が豊富な“枯れた”技術である。

 Excelマクロと違うのは、ExcelやWordに限らず、ブラウザを使ったインターネットサービスの操作や社内システムの操作など、パソコンを使って処理しているあらゆる業務を自動化の対象にできる点だ。

 自動化対象の業務の種類や量、求められる処理スピード、展開するソフトウエアロボットの台数などによって、RPAツールの導入費用は数千万円規模に達する。それでも、業務に慣れた社員の突然の離職や人材の新規採用に難儀しているのであれば、導入を検討してみる価値はあるだろう。

 RPAツールは「集中力を保ったまま、求められれば24時間365日、文句ひとつ言わずに黙々と正確に作業を続けてくれる」(大角社長)。繁忙期に社員の過重労働を回避することにもつながる。

 3月から4月にかけて転居に伴う電力サービスの契約切り替え需要の増加が見込まれる。書き入れ時の事務処理にあたる社員の負担を少しでも軽減するためにも、早めにRPAツールの適用可否や想定される効果の事前検証に着手したいところだ。

栗原 雅(くりはら・もと)
1998年、日経BP社に入社。日経コンピュータや日本経済新聞の記者として国内外企業のIT活用事例やITベンダーの経営戦略、最新技術動向を取材。2006年に独立後、IT専門誌の立ち上げや企業のオウンドメディアのプロデュースを手掛ける。趣味はレスリング(ただし、観戦)。稲門レスリング倶楽部常任委員
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