東京電力グループの小売部門である東京電力エナジーパートナー(EP)が全面自由化以降、大口需要家を対象に安値攻勢を続けている。これは、東電EPの実力が正しく反映されているものなのか。今回、東電グループの決算情報などからグループ内の収益構造を分析してみた。すると、意外な姿が浮かび上がってきた。

 2016年4月に電力全面自由化がスタートして以降、新電力各社は、東電EPが新電力では到底ついていけないような破格の安値を提示し、官公庁や公共施設、企業などから契約をさらっていく光景を、いやというほど見せつけられてきた。その一端は、本誌ニュース&トレンド「大手電力が猛攻、電気代3割引きの衝撃」でも報じているので、詳しくはそちらを参照して欲しい。

 もちろん、需要家の立場に立てば、電気が安く手に入ればそれに越したことはない。競争がもたらした価格競争の成果だとすれば、東電EPから安く電気を購入している需要家は全面自由化の恩恵を享受しているものと言えるだろう。

 だが、このテーマを新電力幹部と議論するとほとんどの事業者が異口同音に“疑念”を口にする。彼らは当然、電力の調達コスト(原価)に対しては高い知見を有している。これまで、新電力は販管費などを圧縮することで大手電力に対する価格競争力を高めてきた。だが、東電EPが全面自由化以降、大口需要家に提示してきた料金は、常識的な電気の原価からは「信じられないほど安い水準」だと多くの新電力は証言する。

 電力自由化はそれまでの独占事業体が保有電源(発電設備)を開放するところから始まる。これは世界的に共通したプロセスで、国内でも部分自由化が始まった時に卸電力取引所を立ち上げ、大手電力は今日、余剰電源で発電した電気を当該電源の限界費用(燃料費相当)でスポット市場に投入することが事実上、義務づけられている。

 また、卸電力取引所とは別に、大手電力は一定量の電気を“平均発電コスト”で新電力に引き渡す「常時バックアップ」という制度もある。電源の開放についてはまだまだ課題が多いとされるものの、それでも一定の成果は認められるようになっており、大手電力と新電力で電気の調達コストの差は縮まっていると言っていい。

 では、なぜ「信じられないようなこと」が起きているのだろう。


 新電力が競合相手と見なしているのは、同じ小売電気事業者である東電EPである。東電EPが自身のコスト削減努力などで実現した安値なら、文句なく正当な価格だ。だが、仮に発電部門や送配電部門までが一体となって安値を支えている構造があるとしたら、電力自由化が理念に掲げるイコールフッティング(公正・公平)であるべき競争環境に問題があることになりはしないか。

 そうした構造があるのか、ないのかは本来、電力・ガス取引監視等委員会がしっかりチェックすべきだが、ここでは公開情報をベースに可能な限り迫ってみたい。

東電EPより利益の減少幅が大きい東電F&P

 福島第1原子力発電所事故を契機に事実上、国の管理下に入った旧東電は、賠償責任を果たす観点からも成長戦略として、他の大手電力に先駆ける形で2016年4月にホールディングカンパニー制に移行。持ち株会社の下、送配電部門、発電部門、小売部門を分社化した。それぞれの部門が利益の最大化を目指すのが目的だ。

 東京電力グループは4月に発表した2017年3月期決算でも黒字を計上し、2014年3月期以降、4期連続最終黒字を達成した。

4期連続最終黒字を達成した
表1●東京電力の売上高・経常損益の推移

 現在の東電グループは、持ち株会社の東電ホールディングス(HD)、そして東電EP、燃料・火力発電部門の東電フュエルアンドパワー(F&P)、送配電部門である東電パワーグリッド(PG)といった主要な4つのセグメント(基幹事業)で構成される。

 これに合わせて、2016年3月期と2017年3月期の損益計算書(P/L)は同じセグメントの定義に基づいて区分けされている。2カ年の基幹事業会社のP/L比較は表2の通りだ。福島第1原発を抱える東電HD以外は、いずれもこの2カ年にわたって黒字を計上している。

東電F&Pの利益減少の大きさが目を引く
表2●2016年3月期と2017年3月期のセグメント情報

 セグメント情報において目を引くのは、東電F&Pの利益が2016年3月期の2766億9000万円から2017年3月期は532億2800万円と、大きく2200億円程度も落ち込んでいることである。一方で、東電EPの利益は、1007億5400万円から747億6800万円と、2016年3月期から2017年3月期にかけて減ってはいるものの、減少幅は250億円程度と東電F&Pに比べて緩やかな水準にとどまっている。

 また、東電HD、東電F&P、東電PG各社の内部売上高は外部売上高と比べて明らかに大きい。つまり、東電EPが、東電HD(原子力と水力)と東電F&P(火力)が発電した電気の大半を引き取り、東電EPは規制事業である東電PGに対して託送料金(ネットワーク使用料)を支払う構造となっている(図1)。すなわち、東電グループ基幹子会社の利益水準については、グループ内取引が重要な決定要因となっている姿が確認できる。

グループ内取引の比重が圧倒的
図1●東電グループにおける社内外取引の構造


送配電事業者への支払い単価も減っている

 そこで、図1に示した取引構造を前提とし、公表資料から得られるデータに基づいて各社のP/Lを整理、分析し直した。表3は分析の前提条件で、電力量についてはすべて「使用端」にそろえて議論を進める。

販売量も発電量も減らしている
表3●東電グループの損益計算書を分析した際の前提条件と情報源

 そしてその結果として、東電グループ各社のP/Lと電力量当たりの損益をまとめたものが下の表4だ。

東電PGへの支払い単価も減っている
表4●整理・分析した東電グループ各社の損益計算書(P/L)

 まず、営業利益が大きく減少している東電F&PのP/Lについてみてみよう。表4に示すように、kWh当たりの営業費用は2.8円/kWh下落(表4-⑦)しており、大部分は燃料価格の低下と減価償却の減少に起因するものと考えられる。

 一方で、kWh当たり売上高については4.0円/kWh下落(表4-⑥)している。売上高の下落幅はkWh当たり営業費用と比べると1.2円/kWh上回っている。このギャップが、東電F&Pにとって2000億円(1.2円/kWh×1788億kWh)程度の利益減少要因となっている。

 次に、東電EPのP/Lに目を移すと、調達の大部分を占める東電F&PからのkWh当たりの調達コストは前掲のように4.0円/kWh程度下落(表4-③)している一方で、kWh当たり売上高は2.8円/kWh(表4-②)程度の下落にとどまっている。

 さらに、主に託送料金で構成される東電EPから東電PGへの支払いについても、0.3円/kWh程度下落(表4-⑤)している。

 具体的には、託送電力量が73億kWh(表4-①)の減少に対して約1000億円のコスト減(表4-④)となっており、仮に託送料金の支払い減少が主な要因であると仮定すると、平均14.5円/kWhの託送料金がかかる需要家が離脱したという計算になる。平均的な小口需要の託送コストが10円/kWh前後であることを踏まえると、需要離脱による託送料金の支払い減少だけでは説明しにくい。

 一方で、東電EPから東電HDへの支払いに目を移すと、調達電力量にほとんど変化が無い状態で1500億円近く増えており、何らかの理由で東電EPが東電HDのコストを負担しているという状況がうかがえる。

 さて、以上のように電力量をベースにした単価の推移も合わせると、何が想定されうるだろうか。


 東電F&Pの売上単価の減少は、東電EPへの卸値単価の切り下げを物語っているのではないか。つまり、2016年4月~2017年3月は全面自由化が始まる前の2015年4月~2016年3月に比べて、東電EPは安値で東電F&Pから電気を調達していた可能性がある。

 それでも、何らかの事情で安く発電できていたとしたら、卸電力市場への投入や常時バックアップの価格にも反映されてしかるべきだが、そのような様子はない。それどころか、卸電力市場への売り札をルールである限界費用を大きく上回る高値で入れていたことが発覚し、2016年11月、東電EPは監視委員会から「相場操縦」を理由に業務改善勧告を受けた(「自由化1年目の電力市場、東電による2大事件」参照)。

 大口需要家を対象にした東電EPの安値攻勢は、東電F&Pからの安値調達に裏打ちされたもので、言い換えれば、東電F&Pから東電EPへの利益の付け替えが値引き原資になっていたと言えるかもしれない。

当日の大量余剰電力の謎

 電気事業法には、発電部門と小売部門間の仕切り値に関して特に規定はない。仮に東電EPが東電F&Pから、市場価格や常時バックアップ価格からかけ離れて安値で調達していたとしても法的な問題はない。

 だが、競争環境のイコールフッティングの観点からは問題視する見方はあろう。いわゆる「内外価格差」問題だ。電気の卸値にグループ内(社内)と、新電力や他の大手電力への供給で恣意的に大きな差をつけるのは、全国規模で高効率(安値)の電源から利用していく(メリットオーダー)という自由化の理念実現を損なうことにならないか。

 そもそも東電グループが分社化で目指す、各部門の利益最大化の理念に反する。これは、福島への責任を果たす観点から、また、グループの利益を最大化するうえからも考えるべき視点ではないだろうか。

 もう1つ、東電EPと東電PG間はどうか。大手電力のネットワーク部門は公共財として扱われ、現時点でも他部門との「会計分離」が義務づけられている。そのため、グループ内企業であっても託送料金が割り引かれることはあり得ない。

 では、なぜ、東電EPから東電PGへの電力量あたりの支払い単価が下がったように見えるのか。

 全面自由化以降、東電エリアでは、他のエリアに比べて恒常的に大量の余剰インバランス(需要を上回る電力供給)が出ている。最近になってある有識者会合のメンバーにデータが示された。余剰インバランスの規模からみて、原因が東電EPにあることは誰の目にも明らかだ。


 小売電気事業者が出した余剰インバランスは一般送配電事業者が「インバランス料金」で買い取る。インバランス料金は通常は市場価格と同程度であることが多い。しかし全面自由化以降、電力市場はたびたびひっ迫し、水準以上の高値になる時間帯が増える傾向にある(「電力は余っているのに、なぜ市場価格は高い?」参照)。

 インバランス料金は前日に取引されるスポット市場価格を反映させて算出される。そのため、当日は電力が余ることで発生する余剰インバランスであっても、前日スポット価格に引きずられて相対的に高値で買い取られることが珍しくない。少なくとも、市場価格水準では買い取ってくれる。

 当日になって余剰インバランスが継続的に発生して、東電PGから東電EPへの支払いが発生し続けることも問題だが、相対的に高値で買い取られる分、利益を操作する余地が出やすい。こうしたオペレーションを通じて、東電EPが東電PGに支払っている電力量当たりの単価が下がっている可能性がある。

小売部門が卸電力市場をコントロールするのは問題

 東電EPはこれまで、卸電力市場への電力拠出には消極的な姿勢を繰り返してきた(「自由化1年目の電力市場、東電による2大事件」参照)。市場に拠出しないで、電源を必要以上にリザーブする「予備力二重計上問題」も昨年夏に指摘されて以降、未だに解消されていないという。

 こうした事態をつなぎ合わせると、前日スポット市場に対する電力供給量を絞って市場価格を高めに誘導する一方で、当日余剰インバランスを通じて東電EPの利益水準を高めるといった構図が浮かび上がる。

 仮に東電グループが予備力(不測の事態に備える電源)を本来のルールよりも多く抱え、市場に拠出する電力を減らし、過剰な予備力を使って余剰インバランスを大量に発生させているとしたらどうなるか。

 東電PGが買い取っている余剰インバランスの費用は、一般送配電事業者が負担しているコストとして計上されれば、最終的には託送料金として一般家庭を含む電気の利用者が負担する可能性が高い(電気料金には託送料金が含まれている)。これは、制度を巧みに利用して電力自由化の精神に立ち向かっているかのようにさえ見えてしまう。

 東電EPの大口需要家に対する安値攻勢が仮に構造的な問題を抱えているうえでの話しだとすれば、不利益を被っているのは東電管内のすべての需要家ということになる。一見、安価な電力価格を提供しているように見えるが、健全な競争の結果としての価格ではないため、かえってあるべき自由競争の結果としての適正な価格形成を阻害してはいないか。

 東電グループ内ではこれまで相対的に小売部門が強い力を発揮してきた。本来なら発電部門が仕切るのが自然であるはずの卸電力市場への売り投入さえ、小売部門の東電EPが仕切っていることが明らかになっている。「予備力二重計上問題」や、業務改善勧告の対象になったスポット市場への高値売り入札も、東電EPが関与してきた。

 小売電気事業者である東電EPが、競合相手である新電力の電力調達に影響を及ぼす前日スポット市場への電力供給量や当日需給の過不足をコントロールしている運営自体、あるべき電力自由化の姿に照らしてもっと議論があるべきではないか。

 東電グループのセグメント会計は、多くの問題を映し出している。