IoTで電気に新しい価値が生まれる

 ICT/IoTの活用先は多岐にわたる。なかでもエネルギーベンチャーが狙う方向性は、大きくに3つに分かれる。いずれも中心にいるのは、電力会社ではなく、ユーザーである需要家だ。そして、(1)需要家に対して新しい電力価値を提供し、(2)需要家のエネルギー自律化を支援し、ひいては(3)使用電力量データ(ビッグデータ)を有効活用するところに新しいビジネスが生まれる素地がある。順に見ていこう。

 従来の電力の価値は「1kWhいくら」で示されてきた。だが、今後は4つの価値に分かれていくとみている。従来型の「電力量価値(kWh)」、発電機の容量などを示す「容量価値(kW)」、需給調整の能力を示す「調整価値(ΔkW)」、環境性能を示す「非化石価値(環境価値)」である。中でも調整価値(ΔkW)が、電力ビジネスのICT/IoT活用先として注目を集めている。

 例えば、「VPP(バーチャル・パワー・プラント、仮想発電所)」ならば調整価値を創出できる。VPPとは、高度なエネルギーマネジメント技術により、電力系統に散在する再生可能エネルギー発電所、蓄電池などエネルギー貯蔵設備、需要家の取り組み(省エネやデマンドレスポンスなど)を統合的に制御し、あたかもひとつの発電所(仮想発電所)のように機能させることを意味する。
 
 資源エネルギー庁は2016年度からVPPの補助事業がスタートしており、2017年度の予算額は約40億円。電力系統や卸電力取引市場での調整力供給の全体管理(親アグリゲーター)、需要家のVPPリソースの取りまとめ(リソースアグリゲーター)、個別需要家への機器導入など実証ステージを分けた構成となっている。現在、35社が事業に参加しており、大手企業だけでなく、グローバルエンジニアリング(福岡市)などベンチャーも少なくない。

 今後、需要家のリソースの中では、EV(電気自動車)/PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)の蓄電池が電力需給調整の手段として注目を集めるだろう。大手自動車メーカーだけでなく、小型EVではベンチャー参入が多く、電力ビジネスとのコラボが期待される。

「準オフグリッド」の実現は近い

 そして、第2の領域が、需要家のエネルギー自律化に伴うビジネスである。太陽光発電を筆頭に、需要家側に設置する発電装置は増加し続けるだろう。東日本大震災以降、しっかりと根づいた省エネ意識と、エネルギーコストの削減意識が、この領域でのビジネスを後押ししそうだ。

 2019年以降、FITの買い取り期間が満了した太陽光発電が増えてくる。そうなれば、おのずと太陽光による電力を、売電するのではなく自家消費する流れが本格化する。住宅のエネルギー自律化は、電力系統から完全に脱するのが究極の姿だ(オフグリッド)。そこまでいかなくとも、大半のエネルギーを屋根上など自前の太陽光発電などで賄い、最低限の電気を電力会社から購入する「準オフグリッド」は、近い将来、実現しそうだ。

 準オフグリッドの段階では、近隣の需要家同士が電力の取引(売買)を、電力小売り会社を介さずに直接行うことが想定される。取引の安全性確保のために、ブロックチェーン技術などが活用されるだろう。ブロックチェーン技術は、仮想通貨の価値記録などに使用されるオープンな分散型台帳で、ネットワーク上の多数のユーザーが暗号化された取引記録を共有する仕組みである。

 この分野では、エナリスと会津大学発ICTベンチャーである会津ラボ(福島県会津若松市)が取り組み始めている。2017年5月、節電価値の取引におけるブロックチェーン技術の有効性を確認するプロジェクトが福島県の補助事業に採択された。福島県内の500~1000世帯を対象に、各家庭の電力利用データをブロックチェーン技術で記録し、模擬の節電要請と家電の遠隔節電テストを行うという。

 そして、第3のビジネスモデルが、使用電力量データの有効活用である。スマートメーターの普及により、30分ごとの使用電力量がリアルタイムで分かるようになった。ビッグデータの有効活用で、タニタとの提携で健康と電力を結び付けたサービス事例のあるイーレックスなど、電力小売りベンチャーは新しい展開が可能になりそうだ。

 スマートメーターで得られる使用電力量のデータは、3つのルートで取得可能だ。「Aルート」は一般送配電事業者とスマートメーターのやり取りで、自動検針や遠隔での自動停止などに利用する。

 「Bルート」は、スマートメーターと住宅内に設置されるゲートウエイ機器とのやり取りである。ここでいうゲートウエイ機器は、いわゆるHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)など様々な形態があり、各種センサーや見える化端末、蓄電池、EV/PHEVと結び付いている。

 「Cルート」は、一般送配電事業者と第三者(電力小売りやサービス事業者)のやり取りである。一般送配電事業者のデータ管理システムを介して、スマートメーターのデータを第三者が取得できる仕組みだ。