大東建託グループの新電力、大東エナジーが電力サービスの受け付けを中止した(「大東建託子会社の新電力、電気の受け付けを中止」を参照 )。順調に契約件数を伸ばしていた同社に何が起きたのか。日経エネルギーNextは、2016年10月号に「戦略研究・大東エナジー 顧客基盤は賃貸住宅100万戸、安い電気が物件の魅力に」という記事を掲載している。大東エナジーのビジネスモデルを解説した当時の記事を改めてご紹介する(肩書きや社名などは掲載当時のままとなっています)。

 テレビコマーシャルでおなじみの賃貸住宅検索サイト「いい部屋ネット」を運営する大東建託。その中核事業は、土地オーナーに賃貸事業を提案し、賃貸物件の設計・施工から入居者の募集、家賃回収、メンテナンスまでを引き受ける「賃貸経営受託システム」だ。管理戸数は2016年8月現在、全国で100万戸弱。全国賃貸住宅新聞の調査では20年続けて、管理戸数の全国トップの座にある。

 その大東建託グループが電力小売りに参入した。担当するのは、大東建物管理(東京都港区、現在は大東建託パートナーズ)が100%出資して2014年8月に設立した大東エナジー(東京都港区)だ。「いい部屋でんき」というブランド名で2016年5月9日に低圧の電力販売を開始。それからわずか4カ月弱で、4万8800件の契約を獲得した(9月2日現在)。

 大東エナジーの販売戦略はきわめてシンプルだ。不動産仲介業者が、大東建託グループの管理物件の入居希望者と賃貸契約を交わす際、パンフレットを提示して「大手電力会社よりも必ずお得です」と説明するだけである。必ず安くなるのであれば、断る理由はない。入居希望者は、パンフレットに記載された宛先へ申込書を郵送したり、大東建託のWebサイトに必要なデータを入力したりして、いい部屋でんきの利用を申し込む。5月9日の販売開始以降、契約獲得率は新規入居世帯の約7割にも上る。

 大手電力会社の料金体系は、省エネを促すために使用電力量が少ないほど割安になる。このため新規参入した小売電気事業者の多くは、使用電力量が一定以上にならないと大手電力より安くならない。

 だが、大東エナジーでは使用電力量の少ない世帯でも必ず安価になるように、30A以上の低圧であれば基本料金と従量料金をどちらも大手電力より5%安くした(北陸電力など元々料金の安い一部の大手電力管内は3%)。「安くなるかどうかを事前にシミュレーションする必要がないため、不動産会社の店頭で安心してお客さんに勧められる」(大東エナジー社長の望月寿樹氏)のが強みだ。

 ただし、賃貸契約時にこうした営業機会を持てるのは新規の入居世帯に限られる。そのため、これまでの獲得対象は新規入居世帯に限定されていた。既存入居者向けは、この9月に専用の申し込みサイトを開設して受け付けを開始したばかりだ。

 大東建託グループが管理する賃貸アパートや賃貸マンションの間取りは1~2LDKの少人数世帯向けが中心で、平均的な契約期間は4年程度だという。「新規入居世帯の7割獲得」という実績を管理戸数全体の100万戸弱にそのまま当てはめると、今後4年でおよそ70万世帯がいい部屋でんきを利用する計算になる。

4年後の売上高は500億円以上

 大東エナジーによると、いい部屋でんき契約世帯の平均的な1カ月の使用電力量は250kWh弱。これを同社の料金プランに当てはめると、1世帯当たりの年間の電気料金は8万円弱になる。計画通り70万世帯の契約を獲得できれば、年間の売上高は500億~600億円に達する。

 大東エナジーの事業モデルは100万戸弱の賃貸物件の入居世帯がベースとなるストック型ビジネスであり、「契約獲得数や売上高を事前に計算できることが強みとなっている」と望月社長は話す。「大手電力より5%安」という料金設定は、こうした計算を前提に利益が出るギリギリを狙ったものだ。「いい部屋でんきには、電力で利益を上げる以上にグループの賃貸物件の付加価値を高める狙いがある。赤字を出すわけにはいかないが、電力事業は薄利多売でやっていく」(同)という事業構想だ。

使用電力量が少ない世帯でも必ず安くなる
2016年6月時点の東京電力エナジーパートナーとの料金比較

 ストック型であることに加えて、大東エナジーの事業モデルには、もう1つ特徴がある。「できるだけ外部のリソースを活用する」(望月社長)というものだ。すでに述べた通り、電気の営業活動は不動産の仲介業者が担ってくれる。しかも、契約は顧客自身の申込書郵送やWebサイトへのデータ入力で成立するため、不動産仲介業者と代理契約を結ぶ必要がなく、代理手数料も発生しない。

 電話の問い合わせに対応するカスタマーサービスや、1日数百件の申し込みを処理するバックオフィス業務もアウトソーシングする。大東エナジー本体のスタッフ数は10人に満たない。

 小売電気事業者にとって特に手間のかかる電気料金の回収は、大東建託グループ内で賃貸物件の家賃徴収を担当する大東建物管理に委託する。まず、大東エナジーがいい部屋でんきの契約世帯ごとの電気料金を算出し、大東建物管理に債権として売却。大東建物管理はいい部屋でんきの契約世帯と賃貸物件の入居世帯をひも付けして、家賃と電気料金をまとめて請求する。

電気料金は家賃と一緒に親会社が徴収
大東エナジーの電気料金回収の仕組み(出所:日経エネルギーNext)

 大東建託の賃貸物件に入居する世帯以外には電気を販売できないモデルだが、潜在顧客となる物件の母数が100万戸あれば不足はないだろう。
 電源調達と需給管理も大手新電力のバランシンググループに参加し、代表契約者の事業者に委託している。

引っ越しの「再点」でトラブル

 順調に展開する大東エナジーの電力小売事業だが、思わぬトラブルもあった。引っ越し後に電気の使用を開始することを「再点」というが、スイッチング支援システムがこの再点を十分に考慮していなかったため、電気の供給開始に手間取るケースがあったのだ。

 スイッチング支援システムは小売電気事業者の切り替え手続きを処理するために電力広域的運営推進機関が開発・運用するシステムだ。電力の供給先を「供給地点特定番号」で認識しており、小売電気事業者はこの供給地点特定番号を使って供給先を指定し、スイッチング支援システム経由で一般送配電事業者に手続きを依頼する。

 供給地点特定番号は2016年1月以降、「電気ご使用量のお知らせ(検針票)」の左上に小さく記載されており、電気を利用中の需要家であれば簡単に知ることができる。だが、引っ越し先で新たに電気を利用する再点では、需要家は供給地点特定番号をあらかじめ知ることができない。分かっているのは、今年春の電力自由化直前までその住所に電気を供給していた大手電力(みなし小売電気事業者)だけである。

 そこで大東エナジーは、供給地点特定番号が分からない物件では特定番号の代わりに住所をスイッチング支援システムに提出して、送配電事業者に手続きを依頼する。このとき、いくつかの案件で送配電事業者が住所と供給地点特定番号を正しく関連付けしていなかったため、住所から供給地点特定番号を特定できなかったのだ。

 すでに供給を開始した4万5300件のうち、こうしたトラブルが数百件発生しており、うち数件で引っ越し日に電気の供給が間に合わなかった。大東エナジーでは、スイッチング支援システムを運営する広域機関や電力・ガス取引監視等委員会にこうしたトラブルを解決するよう要望を出しているところだという。

 前述の通り、大東エナジーは現在、バランシンググループを通して電源を賄っている。だが、契約数が順調に増えていけば大量調達を前提に有利に交渉できるため、バランシンググループを脱退して自分たちが相対取引で電源を調達することも視野に入れている。その際、親会社である大東建物管理が運営する太陽光発電事業も、電源調達先の有力な候補になる。

 大東建物管理は、管理する賃貸物件のうち1万1000棟の屋根上に太陽光パネルを設置する。その総設備容量は140MWに達しており、発電した電力は固定価格買取制度(FIT)を使って売電している。

 「太陽光発電の買取価格がさらに安くなれば、FITを利用せず大東建託グループの自前の発電所として増設していく可能性もある」(望月社長)。その場合は、バイオマスなど夜間のベース電源となる他の再生可能エネルギーとの組み合わせも考えていくという。

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