キーワードは「MaaS」

 ここまで述べてきたように、EVの普及には様々な課題があり、しかもEVだけでは脱石油の決め手とはなり得ない。その意味において、過渡期におけるハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の存在意義は依然として大きいものがあるだろう。

 とはいえ、今後の石油供給に懸念がある以上、少しでも石油消費量を減らす方策を考えていかなければならない。未来の交通や移動のあり方を考えるうえでも、筆者が注目しているキーワードが「MaaS」である。

 MaaSはMobility as a Service(サービスとしてのモビリティ)の頭文字だ。自動車だけでなく、自転車やバス、鉄道などを含めた広い意味でモビリティーサービスを捉える。それらの利用において、スマホアプリなどで一気通貫に検索・予約・決済をサポートするようなコンセプトをいう。カーシェアやシェアサイクルといったビジネスもMaaSに含まれる。

 現在、フィンランドやスイスなどの自治体を中心に、自動車メーカーや通信業者などを巻き込んで実現に向けた試みが進められており、自動車や交通の世界では注目が集まっている。

 税制の問題を除けば、EVはガソリン車と比べてバッテリーなど車体コストが高い一方で、ランニングコストは安い。個人で所有するよりも、事業者が保有して利用量に合わせてサービスを提供するカーシェアなどのシェアリングエコノミーのモデルに適している。

 また、個人所有の自動車は、寿命のうち走行している時間は4%だけで残りの96%は停車しているといわれる。カーシェアによって稼働率をレンタカー並みの40%と個人所有の10倍にできれば、車両台数や駐車場の数を10分の1に減らせる計算になる。

 MaaS実現のカギの1つは、統合された決済プラットフォームの形成にあるが、もう1つの大きなカギは自動運転にある。

 自動運転は数多くのセンサーと計算機をフル稼働させなければならない。現在の技術では走行に必要な電力に匹敵する量かそれ以上を消費すると言われており、実は人間が運転した方が省エネの面では優れている。

 だから、省エネの観点からは、自動運転と人間による運転をうまく組み合わせることが合理的といえる。例えば、必要なときに自宅の前まで自動運転で配車してもらい、目的地へは自分で運転するようにすれば、「利便性」「経済合理性」「エネルギー消費」をともに満足させられる使い方が可能になるかもしれない。

 最寄り駅までは自動運転とカーシェアを組み合わせたEVで移動し、クルマは駅で乗り捨てて電車に乗る。都市内の近距離移動はシェアサイクルやバスを使う。そんな交通システムの未来を描けないだろうか。

 石油消費に占めるモビリティー分野の割合は限られる分、脱石油の決定打とまでは言えないまでも、人口減少が進む先進国での交通システムや生活利便の確保や向上という点ではチャレンジしがいはありそうだ。省エネや省資源に相当程度寄与することも間違いない。

 一方で、EV化やシェアリングエコノミーが進展した時代にあっては、部品を含めてガソリンエンジンを軸にした内燃機関産業は衰退し、自動車販売数も急減している可能性がある。

 多くの大手家電メーカーが苦境に立たされるなか、自動車産業一本足打法となってしまっている今の日本において、国際競争力と所得分配機能として重要な位置を占めている自動車産業が衰退していくとしたらどうなるのか。

 こうした問題こそが21世紀を生きる日本の最も大きな課題ではなかろうか。石油経済研究会ではこの問題を含めて今後議論を続けていく。

■変更履歴
記事掲載当初、「蓄電池に使うリチウムやモーター用磁石の材料であるコバルト」としていましたが、コバルトは主に蓄電池の正極材に使う材料でした。お詫びいたします。当該部分は「蓄電池に使うリチウムやコバルト」と修正済みです。 [2017/11/27 14:00]

大場 紀章(おおば・のりあき) 石油経済研究会
1979年生まれ。京都大学大学院博士後期課程(化学専攻)を単位取得退学後、トヨタグループの技術系シンクタンクであるテクノバに入社。2015年より独立し、エネルギー安全保障、次世代自動車、人工知能、データサイエンス等の分野で幅広く調査分析を行っている。