電力全面自由化から1年半が経過した。この間に誕生した新電力は400社を超える。一方で、人知れず撤退していった事業者も既に存在する。新電力のビジネスの最前線では何が起きているのか。これから何が起ころうとしているのか。新電力ビジネスの新たな潮流を展望する。

 「電力の2020年問題」。これは最近、新電力の間で決まって話題になり、担当者の表情を曇らせるキーワードである。

 新電力にとって2020年は、これまで続けてきた電気事業がその後も続けられるかどうかの、いわば“期末試験”に当たる年を意味するのだ。試験に合格した新電力は、2020年以降も自信を持って電気事業に邁進できる。落第した時は、電気事業から速やかな撤退を迫られる。

 2020年には具体的にどのような出来事が起きるのだろうか。

 大きく2つある。1つは大手電力の総括原価方式(経過的に残っている規制料金)の撤廃。もう1つは、FIT(固定価格買取制度)における回避可能費用の激変緩和措置の終了である。前者は競争環境が厳しくなること、後者は低廉な電力調達手段を失うことを意味する。

 総括原価方式はこれまで、大手電力が利益を確保する強力な鎧(よろい)であった。

原価と報酬から電気料金を決めてきた
総括原価方式の概略

2020年、大手電力が本気になる

 総括原価方式は公共事業の料金設定に用いられる手法で、原価を基準にして利潤などを上乗せして料金を計算する。つまり、総収入と総括原価が釣り合うように電気料金を決める方法だ。

 これまで、大手電力はこの総括原価方式によって損失が生じるリスクが大きく引き下げられていた。安全性やサービス向上のための投資に対する将来利益がある程度確約されるため、中長期的な経営計画を立てやすいなど、大手電力は大きなメリットを享受してきた。

 一方、総括原価方式の下では、大手電力に経営効率化のインセンティブを期待することは難しい。過剰な設備投資や福利厚生施設の建設を招くという批判もあった。

 だが、総括原価方式が撤廃されれば、大手電力は経営効率の改善に着手し、人員整理や不要な発電所の廃棄を行うことが見込まれる。また、守勢に回るだけでなく、新電力に切り替えられた需要家の奪還を図るべく、猛烈な営業攻勢を仕掛けてくるだろう。

 既に、大規模に事業を展開する大手スーパーマーケットや大規模工場などの大口需要家に対して、地元の大手電力がかつてないほどの割引額を提示して需要家をつなぎ止めようとしていると伝えられている。

 筆者の知人が運営する病院でも、新電力が電力料金の10%割引を提示したところ、それを大手電力に伝えるや否や20%の割引を提示してきたという。

 経営効率を最大化し、攻撃に回った大手電力が相手では、価格競争で対等に張り合うことはおよそ現実的でないことを改めて思い知る出来事だ。総括原価方式の撤廃は、大手電力が本気で新電力と対峙するきっかけとなり、新電力にとっては厳しい逆風が吹くことになるだろう。

もう、再エネは安く買えない

 もう1つのFIT発電所の激変緩和措置終了も、新電力にとって泣きっ面に蜂となりそうだ。

 2016年4月以降、新電力が太陽光発電やバイオマス発電などFIT発電所と特定契約を結んで電力を調達する場合、回避可能費用(実質的には調達費用)の単価は市場価格と連動して決めることになった。

 それまで回避可能費用は設備認定時期によって月ごとに決まる固定単価で、しかも市場価格より廉価であった。

 そのため、以前からFIT発電所と特定契約を結んでいた新電力は、2016年4月から5年間は従来どおりの回避可能費用単価を適用する経過措置がとられた。回避可能費用の激変緩和措置である。2014年3月31日以前に設備認定を受けたFIT発電所の場合、回避可能費用は平均6円/kWh程度と、市場価格に比べて圧倒的に低い水準にある。

激変緩和で再エネを安く買えた時代は終わる
回避可能費用の推移(筆者作成)

 これらのFIT発電所を保有もしくは特定契約を結んでいる新電力は、2020年までは大手電力とも十分に割引額を競うことができる。しかし、2020年以降は市場価格が適用されてしまうため、競争力を失うことになる。

 このことを理解している新電力は、もっぱら官公庁などによる電力購入の入札案件獲得に力を入れている。入札案件は契約期間が1年であるため、手離れの良い需要家でもあるからだ。もっとも、これは一時的な利益の確保に過ぎず、2020年以降の問題を根本から解決することにはならない。

 以上が、新電力にとっての「2020年問題」である。2020年以降は、現在登録されている新電力の90%が電気事業からの撤退を余儀なくされると見立てる大手新電力の幹部もいる。新電力は、需要家に対して電力の価格以外の価値を提示し、それが理解され、受け入れられる努力が求められているのだ。

波音に気づかず“水遊び”

 しかし、将来の競争環境に対して危機意識が希薄な新電力は少なくない。

 高圧需要家に対して価格をたたき合い、利益を減らしてでも売り上げを大きくすることに血道をあげている。あるいは、電気事業で利益が上がらないため他の新電力から数多くの業務受託を請け負うことで損失を補填するなど、電力ビジネスとはとても言えない事業を展開しているケースも見られる。

 これらの新電力の中には、売り上げだけをとにかく大きくして上場する、いわゆる「上場ゴール」を狙っている事業者も多いと聞く。売り上げの“水増し策”として電気事業を利用する異業種参入組もいる。もちろん、こうした新電力は一部であり、真っ先に淘汰の大波に飲み込まれるだろう。

 むしろ深刻なのは、まじめにLPガスと電気をセットで販売しているが、そこにさしたる工夫もないというような地域の小規模なエネルギー事業者かもしれない。こうした事業者も大手電力の反撃対象になることは容易に想像がつく。対抗するだけのノウハウや資金力、発電所も備えていない。座して淘汰を免れることは困難と言えるだろう。

 では、大淘汰時代を生き残る新電力は、どのような戦略を立てるべきなのか。

 まず、ブランディング戦略が考えられる。年齢、ライフスタイル、業種などで需要家をセグメント化し、それぞれの顧客のニーズごとにブランドを確立する。福祉を本業とする新電力が、子育て世帯にとりわけ低価格で電気を販売するなど、「本領発揮」と周囲に認知されるような戦略である。

 また、ビッグデータ分析で電力サービスの充実を図る方法もある。スマートメーターや需要家とのインターフェース情報を収集し、分析することで需要家の満足度を高めるサービス開発を効率的に行う戦略だ。

 あるいは、エネルギーの価値にこだわった「地産地消・再生可能エネルギー供給戦略」、蓄電池やネガワットを組み合わせた「デマンドレスポンス戦略」なども考えられる。

 そのほか、電気料金の定額化や特定需要家向けメニューの構築といった「料金メニュー戦略」、家庭内の機器をIoT(モノのインターネット化)技術で結ぶホームオートメーションと並行してエネルギー管理も行う「スマートホーム戦略」もあるだろう。そして、自治体へのエネルギー供給だけでなくエネルギー管理も行うことで地域全体を囲い込む「スマートコミュニティ戦略」も有望だ。

 筆者はこれらを「7つの戦略」と呼んでいる。

生き残るには独自の付加価値が不可欠
新電力の「7つの戦略」(筆者作成)

水遊びをやめて、堤防を築け

 7つの戦略はいずれも2010年頃から唱えられているビジネスモデルである。そのため、決して目新しい革新的なモデルとは言えない。

 しかし、新電力が自らの電力の価値をどのように捉えるか、そのベクトルを明確にするためのコンパスの役割を持っている。新電力は、大手電力と電力販売という土俵で競争して利益を上げることは仮に容易でないとしても、電気に自由に価値を付加して需要家に提示することができる。価値のベクトルを定めることは重要な課題であり、命題と言える。

 一方、大手電力は価格以外で電気の価値を提供することは得意ではない。仮に、ある地域で新電力が電力、ガス、水道、熱、そして地域のエネルギーマネジメントも一括で提供するサービスを確立しているような場合、大手電力が電力だけを割り引いても競争優位に立てるわけではない。大手電力がこうしたサービスに対抗しようとガスや水道、熱も用意するのは、負担が大きくメリットよりもデメリットが大きいだろう。この時、新電力は地域の総合エネルギー管理サービスという価値でもって、大手電力に対して防衛策を構築したことになる。

 このように、大手電力が提供困難な価値をどうやって実現するかが新規参入組の生き残る道である。価格ではなく、価値の競争。そういう時代に突入しつつあるのだ。

 2020年まで2年とわずか。これが、大手電力が引き起こす大津波に備えて堤防を築くまでの時間である。次回以降、新電力の目指すべき戦略を、まずは7つの戦略について海外のビジネス事例なども引き合いに出しながら紹介していく。そのうえで、新電力が採り得る、大手電力を脅かすような大戦略につながる構想を練っていきたい。

村谷 敬(むらたに・たかし) 村谷法務行政書士事務所・所長
2008年に行政書士として太陽光・風力発電の建設手続きに関与したのを契機に電力の世界へ。エナリスで需給管理業務を極めた後、エプコにて電力小売事業部長として新電力事業を運営。その後、行政書士事務所を立ち上げ、新電力や自治体新電力へのコンサルティングも手がける。