2019年11月15日事業者×専門委員で第2回のブラッシュアップ会議を開催

11月15日、技のヒット甲子園の第2回のブラッシュ会議が開催された。

今回、参加したのは5事業者。天野漆器(富山県高岡市)が「螺鈿ガラス」、(新潟県燕市)が靴ベラ、田中呉服店(新潟県燕市)が浴衣、井上玩具煙火(静岡県島田市)が花火、えこのは(宮崎県日向市)がクスノキから抽出したオイルや樟脳(しょうのう)商品を持って、当日の会議に参加した。

専門委員は、アシストオンの大杉信雄さん、意と匠研究所の下川一哉さん、日経トレンディ編集長の佐藤央明さんが出席。各事業者にアドバイスとエールを送った。

以下、2020月1月発売中旬に日経トレンディ2月号に掲載した、ブラッシュアップ会議後に行われた座談会の記事(フルバージョン)を掲載。

ラッシュアップ参加の事業者の説明を聞く専門員。右から日経トレンディ編集長の佐藤央明さん、アシストオンの大杉信雄さん、意と匠研究所の下川一哉さん

第2回技のヒット甲子園座談会
デザインの役割は
素材や技を引き立てること

――「商品デザイン」は、事業者が消費者に伝えたいメッセージを込めた「顔」でもあります。ここではヒットするデザインとは何か? について、皆さんのお考えをお聞きしたいと思います。

大杉 今の時代はもう「デザインで売れる」という考え方自体に、訴求力がない感じがしますね。

下川 表層的なデザインの良し悪しよりも、自分たちの商材がどういう〝もの〟であるべきか。そこを深く考えた上で、商品自身の〝クリエイション〟をどうデザイン上に表現していくのか。こういう考え方が重要になってきていると思います。

大杉 デザインというのは、あくまでも〝入れもの〟を作ること。大事なのは〝中身〟をどう差別化していくか、です。例えば今回出品されている、新潟・燕のケース付きのシューホーン。誇るべきは、あくまでも優れた金属加工の技術で、シューホーン自体の素材感と形の美しさで、もう十分戦えるはずです。使用者からすれば、経年変化で傷ついたものにはそれだけ愛着も生まれますし。〝傷つけないためのケース〟よりも、むしろ高くても〝傷ついたら、生涯保障で磨き直します〟というほうが、魅力的な付加価値かもしれない。商品の入れ物ではなく中身を差別化する、というのはそういうことです。デザイン文化や人々のものを見る目が成熟してくると、求めるのは単なる〝見かけのグッドデザイン〟じゃないということになります。

コラボ商品の開発も手掛ける人気雑貨専門店「アシストオン」の大杉さん

デザインという〝外装〟よりも大切なものとは

――デザインというと、概して他所からいいデザイナーを集めてきて、ターゲットの性別や年代に合わせてブラッシュアップして-----という方向できましたが、そうすると、やがてブランド同士が非常に似通ってきて、消費者にとっては逆に選びづらくなってきている気もします。

大杉 デザインは外装の話じゃない、ということが消費者も分かってきていますから。だから本来の商品の魅力や素材の良さを伝えたいときは、むしろ有名なデザイナーに頼まない方がいいんじゃないかと(笑)。

下川 本来、デザインは素材と技を引き立てるのが役割です。「デザインで何とかなる」という思い込みがあると、逆に商品の核となる技術が落ちたり、素材が悪くなったりすることも。今の時代、デザインが悪いものなんて、ほとんどないんです。むしろ、この素材が本物なのかどうかとか、誰が作っているのかとかが、見られますよね。食品でも皆、裏の成分表見て買っているでしょう。

大杉 そうですね。リゾートホテルで売っているお土産とかを見ていても、デザインはいいけれど、素性の分からないお菓子じゃなく、カッパのイラストが書いてある素朴な地元のお菓子を買っちゃう。パイン飴が高級路線のデザインだったら嫌ですよね(笑)。この商品だからこのデザインがいい、という目線が強くなっている。デザインに対する受け手の解像度が上がっていることが大きいのでしょう。

下川 関心や興味、知りたい事がどんどん深くなっているんだと思います。表面的なところから暮らしをきれいに整える、ということよりも、それが本当の文化なのか、買っていいものなのか、自分たちが買うことが作り手にどう影響を与えるのかとか。そういうことに関心が向いているんじゃないでしょうか。

大杉 商品の付加価値というと〝いかに高級にするか〟で頑張りがちなんですよね。

下川 高級にする必要はないんですよね。大量に作れるものなのであれば。今日のブラッシュアップ会議でも「商品のデザインを変えれば、何とか問題が解決するんじゃないか」という方がいらしたけれども、話を聞いてみると本当に大切なのはそこじゃない、と気づいたはずです。そもそもデザインの前提となる情報の優先順位を、自分たちが整理できていない。価値の根源を見つけ出せていないんです。

地域の事業やものづくりに、デザインを活用して課題解決を図る意と匠研究所の下加さん

――そこが、コンサルティングの大きなポイントになるわけですね。

下川 単純に見た目が悪いとか、用途そのものの方向性が間違っているという場合にはデザイナーを呼びますが、そこまでの必要がないものが多い気がします。事業者の方ととことん話をしていくと、その段階で目指すべきデザインの方向性が見えてきたり、伝えるべき情報を整理してコミュニケーションを変えるだけで、売り上げが上がってきたりする場合もあります。

大杉 事業者自体が市場リサーチについて積極的じゃないという点も、やはり問題でしょう。若い人に売りたい服飾系の商品だったら、今のフアッショントレンドは絶対に知らないといけない。街へ出てビームスに行くなりユニクロへ行くなりして、売れているデザインを把握する。それをするしないで、商品づくりや売り方に差がつくと思います。

変化する〝時代の呼吸〟を知る大切さ

――今回の出店商品には、いいものが多かったですね。

大杉 商材への思いもあって、土台となる技術もあるものでしたね。今までお話ししてきたように、今は「外装だけきれい」ではダメですから。やはり、日本の伝統や技術はすごいと思いました。特に、成功した前例と同じことをしたくない、真似したくないというハングリー精神は、デザインを含む商品開発にとって重要な部分でしょうね。

下川 デザインし過ぎているモノは買った瞬間の価値が一番高くて、その後、落ちていきますが、技を大事にしたモノは使うにつれ価値が上がって行きます。そういうところをデザインに織り込む手もあります。

大杉 穴の空いたジーンズの方が格好いい、とか。そういう時代の呼吸について、ものを作る人はもっと知るべきだと思いますね。時代によってトレンドは変わりますから、それを商品に反映させていく。それはものを作る人、売る人にそれぞれ求められるものなのです。でも、それには正解はないんです。だからこそ、時代時代に面白い商品が出てくるですね。

(文・奥紀栄、写真・高山 透)