徳島県を拠点とするグリラスは、食用コオロギの市場を新たに切り開こうとしている。研究者でありながら時代の波を読む感覚に長けた代表は、研究開発・生産・加工・販売までを一気通貫で手がける。SDGsともリンクした新規ビジネスに挑む心意気を聞いた。

コオロギ研究の成果を“食用として”社会実装する

 世界の人口増加に伴い、食糧不足が叫ばれている。中でも、人間に不可欠な栄養源であるたんぱく質は、2030年には需要が供給を上回ると予測される。こうした深刻なたんぱく質危機を補うために昆虫食が注目されている。

 火つけ役は、FAO(国際連合食糧農業機関)が2013年に出した報告書だ。世界で20億人が昆虫食に親しんでいる事実をもとに、有望な食材になり得ることを指摘。たんぱく質を豊富に含む食用昆虫を養殖し、昆虫食が普及していくのではないかと推測した。

昆虫食の可能性を示した2013年のFAO報告書(出所:FAO)
昆虫食の可能性を示した2013年のFAO報告書(出所:FAO)

 徳島県鳴門市に本社を構えるグリラスは、まさに昆虫食サービスのど真ん中を行く。手がけるのは食用コオロギの研究開発、生産、食品原材料および加工食品の製造・販売、飼育管理サービスの開発・販売だ。2019年5月に設立された徳島大学発のスタートアップで、同大学で30年近くに渡り研究してきたコオロギの基礎研究をベースとしている。グリラスとは、同社が生産するフタホシコオロギの学術名「Gryllus bimaculatus」に由来する。

 グリラス代表取締役の渡邉崇⼈氏は、徳島大学バイオイノベーション研究所助教と二足のわらじを履く。学生時代、徳島大学の現学長である野地澄晴教授の研究室に入って以来、コオロギ研究一筋でやってきた人物だ。渡邉氏は、起業のきっかけを次のように話す。

グリラス代表取締役の渡邉崇⼈氏。鳴門ファームにて撮影。両脇のプラケース内で食用コオロギを育てている。室内に入ると、エビ粉のような匂いが漂う。撮影時のみマスクを外してもらった(写真:小口正貴)
グリラス代表取締役の渡邉崇⼈氏。鳴門ファームにて撮影。両脇のプラケース内で食用コオロギを育てている。室内に入ると、エビ粉のような匂いが漂う。撮影時のみマスクを外してもらった(写真:小口正貴)
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 「コオロギ研究の成果を社会に還元したいとの思いがスタート。2016年に生物資源産業学部が新設され、野地先生から新学部の目玉としてクラウドファンディングをやってみないかと相談を受けたんです。そこで提案したのが、FAOの報告書で話題になっていた昆虫食としてのコオロギの活用です。

 クラウドファンディングは資金集めを目的としたものではなく、事業化に向けての決意表明でした。やるからには覚悟を決めて、社会実装まで持ち込まないと意味がありません。一方で食用コオロギは前例がなく、企業からの問い合わせはあったものの、なかなか前進しませんでした。ならば前例を自分で作ればいい、そう考えて起業したのがグリラスです。国立大学でベンチャー設立の機運が高まっていたことも背中を押してくれました」(渡邉氏)

2016年当時のクラウドファンディングのページ。支援総額は60万円ほどだが、この第一歩がグリラスにつながった(資料:グリラス)
2016年当時のクラウドファンディングのページ。支援総額は60万円ほどだが、この第一歩がグリラスにつながった(資料:グリラス)
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 渡邉氏は徳島市で生まれ育った生粋の地元民で、実家はJR徳島駅近くで飲食店を経営する。そのDNAゆえか、「人の役に立つというのは、提供した成果に対して正当な対価を得ること。研究だけに偏らないバランス感覚はあると自負しています」と話す。

 従来のコオロギの養殖は、ペットフードや魚の餌など小規模な市場に限られていた。しかし、食品とするには、自然界で捕まえてきたコオロギではなく、安定供給に適した品種改良コオロギを生み出す必要が出てくる。実は、この品種改良にグリラスの強みがある。

 「我々のテクノロジーの肝になっているのが、長年の研究ノウハウを反映したゲノム編集です。これは特定のDNAを狙い撃ちして突然変異を起こし、大量生産に適した系統、より食用に適した系統などを作製する技術で、従来の品種改良に比べて圧倒的に時間を短縮することができます。これまでコオロギの養殖はニッチだったため、品種改良をするにしても10〜20年はかかっていました。ですが、グリラスの方法であればその10分の1、1〜2年程度で系統化した品種改良が可能になります」(渡邉氏)

すくすくと育つフタホシコオロギ(写真:小口正貴)
すくすくと育つフタホシコオロギ(写真:小口正貴)
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 これに加え、食品廃棄物をコオロギの餌にすることでサーキュラーフード(循環型食材)を実践。さらに大手自動車部品メーカーのジェイテクトと業務提携をし、共同で自動飼育システムの開発に着手した。2021年上半期には給餌、給水、収穫、清掃の工程を自動化した半自動化システムのプロトタイプを導入し、大幅な効率化を図った。順調に開発が進めば、およそ半分のコスト削減が見込めるとしている。最終的には卵からパウダーにするまでの全工程を自動化することを視野に入れている。