福岡市でIoTセンサーとAIロボットを組み合わせた遠隔見守りサービスを展開するワーコン。医療・看護だけではなく、自宅で過ごす高齢者や療養者の生活全般をサポートするのが特徴だ。

スタートアップの聖地から生まれたICT見守り

 最新の推計人口(2020年2月1日時点)が159万6180人となった福岡市。日本の政令指定都市では横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市に次ぐ第5の規模であり、紛れもない“九州の顔”である。わずか10年前は上に神戸市、京都市がいて7位だったことを考えると、この10年間での飛躍的な成長がわかるだろう。

 なおも成長は続く。2019年の人口増加数は前年比で約1万人増の全国トップを記録。人が集まる場所にはモノもカネも集まる。現市長の高島宗一郎氏が就任して以降、市は積極的に新産業育成に着手。2012年には「グローバル創業・雇用創出特区」に選出され、今やスタートアップの聖地として名を馳せる。

 並行して、福岡市では「福岡市実証実験フルサポート事業」を展開。ICT、IoT、AI(人工知能)といったテクノロジーをリアルの場に実装することで、社会課題の解決や市民生活の質向上に向けた最短距離を探っている。

 2017年にこの事業に採択されたのが、今回紹介する福岡市博多区のワーコンだ。2016年に創業したばかりのベンチャーが福岡市の信頼を得ることができたのは、サービス内容がまさに時代の要請に合致したものだったからだ。

 ワーコンが手がけるのは、IoTセンサーとAIロボットを組み合わせた遠隔見守りサービス。代表取締役を務める青木比登美氏は看護師経験者であり、「住み慣れた自宅で最後を伴走する覚悟で高齢者と向き合いたい」との思いから起業した。

 そもそも青木氏がワーコンの青写真を描いたのは、今から30年以上前、九州大学医療技術短期大学部看護学科の学生時代に遡る。のちの訪問看護ステーション設置につながる看護師の制度改革が国会で激しく審議されており、その様子を目の当たりにして論文を書き上げた。

ワーコン代表取締役の青木比登美氏(写真:前原猛)
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 「ちょうど私の世代が管理職となる30年後には、団塊の世代が後期高齢者に突入することが統計で示されていました。しかも医療現場は明らかに人手不足となり、いずれは在宅看護が主流になると。そこで、どうやってその課題を解決するかを私なりに考えてみたのです。見えてきた明らかな課題は3つありました。在宅看護が必要な人をどのように把握するかという『見える化』、医療従事者間での『情報共有』、訪問看護のように設備が整わない場所で看護師がどのように対応していくのかという『意識改革』でした」(青木氏)

 この学生時代の熱い思いはすぐに実を結ぶことはなかったが、時を経て転機が訪れる。2010年、福岡市内の透析・内科クリニックで看護部長として従事していた際、図らずも高齢者2人の孤立死に直面したのだ。

「すごく悔やみました。患者を診る病院は福岡市内に山のようにあり、医療従事者もたくさんいる。それなのに、(病院に)たどり着けない人のケアを誰もやっていないではないかと。そこでふと、あの論文を思い出したんです」(青木氏)

 実現するための具体的なプランは、コールセンターを設置して地域の訪問看護ステーションや医療機関を連携させるというもの。しかし、コールセンター業務を経験したことがなかったため、一念発起して、コンタクトセンターなどを手がけるKDDIエボルバに転職した。そこではもちろんコールセンターのノウハウをしっかりと身に付けたが、それ以上に糧になったのは、同じ場所にいない相手としっかり心を通わせることだった。電話の向こう側にいるおばあちゃんと同じ機種の携帯電話を持ちながら、2時間かけて「お元気ですか」というメールの入力に付き合ったこともある。

 「入力が終わったとき、おばあちゃんも私も本当にうれしくて。ワーコンの看護師には、この対応が最も大事だと伝えています。遠隔でのやり取りには、こうした感覚が不可欠になるからです」(青木氏)

──記事冒頭の画像:距離の壁を越え、遠隔見守りサービスで心まで通わせる(イメージ) original image: metamorworks / stock.adobe.com