医療・看護にとどまらず生活全般を支援してこそ意味がある

 そして2016年7月、青木氏を含む4人の看護師経験者が集まって起業。中心事業は先に述べた遠隔見守り支援だ。独自の非接触型生体センサーを自宅に設置し、利用者の生体センサーをリアルタイムで24時間モニタリングする。離れて暮らす家族が逐次スマートフォンやパソコンで確認できるため、日々の安心材料となる。

 ワーコンのコアコンピタンス(強み)はここからだ。異常値を検知するとクラウド型コールセンターにアラートが報告され、専属の見守り看護師が即座に対応。体調に応じて、提携している訪問看護師、基幹病院や地域のかかりつけ医と連携しながらフォローする。

 2018年からはNTTデータ九州、ロボット開発会社のMJIらと共同開発したAIロボット「anco(あんこ)」を加え、見守り看護師とのテレビ電話によるコミュニケーションや、医師とのオンライン診療を強化。ここに福岡市のフルサポート事業で得た知見を生かした。このサービスを「おるけん」の名称で、福岡市内から先行展開している。ロボットやセンサーのレンタル代を除き月額1万9800円で提供しており、「24時間体制で見守ることを考えれば非常に安価」(青木氏)とする。

ワーコンが展開する「おるけん」。膝上に抱えているのがAIロボットのanco(提供:ワーコン)
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 当初から掲げているコンセプトが、「Watch Concierge(ウォッチコンシェルジュ)」だ。そこには医療・看護だけではなく、自宅で過ごす高齢者や療養者の生活全般をサポートしたいとの思いがある。そのため、衣食住にわたりさまざまな事業者と提携し、洗濯、料理、掃除の代行手配、買い物支援、終活支援などをカバーする。民間ならではのフットワークの軽さで、真の地域包括ケアシステムを実現しようとしているとも言える。

 「ここまでケアするサービスはありそうでなかったものです。現在、数百台のシステムが稼働していますが、看護師1人で約200人まで見守ることができます。今後ますます深刻化する看護師不足にも十分対応していけるでしょう。クラウド型コールセンターにしたのは、いわゆる潜在看護師に在宅で働く機会を与え、埋もれたリソースを活用したい狙いもあります。

 重視しているのは、テクノロジーに振り回されないこと。ancoは話しかければ見守り看護師につながるので、高齢者でも簡単に利用できます。センサーを非接触にしたのも同じ理由です。ウエアラブルデバイスを着けてくださいとお願いしても、必ず忘れてしまいます。ワーコンのシステムなら、普通に生活してくれればいいのです。

 ありがたいことに、いろんなデバイスの売り込みを受けますが、そのたびに技術者の方には『最先端のテクノロジーって何ですか?』と聞くようにしています。私は、子どもでも高齢者でも説明なしに使える道具こそ最先端だと考えています。ですからハイテク好きの若者だけが操作できるデバイスでは意味がないのです」(青木氏)

テクノロジーは道具に過ぎず、必ず人が判断してケアすることが重要と説く。長年、仕事道具として米アップルのパソコンを愛用するのは「小学生でも操作できるから」(写真:前原猛)
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 設立4年目を迎え、利用者も増えて順調に成長を続けている。一方で「金儲けしたいという感覚はない」と言う。これまでワーコンに出資しているのはエンジェル投資家がメインで、ベンチャーキャピタル(VC)からの誘いは断っている。「ウォッチコンシェルジュのビジョンを共有できる人たちでなければ、この事業を回すことはできません。株主やVCの顔色を窺いながら仕事をするなんて本末転倒ですから」(青木氏)

 福岡であることに対するこだわりを聞くと、「ICTの時代なので、起業するのに東京である必要はありません。それに東京からも上海からも等距離で、日本からアジアへの玄関口でもある。今後、グローバルへ打って出ようと考えている私たちにとって最適な街なのです」と青木氏。国内でも青森市、横須賀市、熊本市などが続々と遠隔見守りシステムに興味を示し、具体的な協業が始まっている。

 「でも、まだまだ発展途上。私たちの仕事にマニュアルはありませんからね。病院看護と在宅看護は180度違います。ワーコンでも多くの看取りを経験してきましたが、自宅に戻るということは治療をしないということです。自分がリラックスできる環境でその日までを生き抜く。どう対応するかは、自分を磨いていくしかない。今、私も含めてウォッチコンシェルジュは一人もいないと思っています。だからこそ、第1号が誕生する日を楽しみにしているところです」(青木氏)