大分市のITベンチャー「HAB&Co.(ハブアンドコー)」は、HR(人事・労務関連)テックを駆使して地元に人材を呼び戻すために奔走している。人口流出を嘆く前にテクノロジーで解決できることがあるはず──。そうした思いから、大分県出身の若者が起業した会社だ。地域の声をつぶさに拾い上げ、コツコツと実績を積み上げるその姿は“地方を支えるスタートアップ”そのものと言える。

地方ならではの課題はそこで暮らしてこそ見えてくる

 人口約112万2000人の大分県。県内人口は別府湾を臨む大分都市圏に半数以上が集中し、人口比率が極端に県の東側に傾いている。もっとも、県都周辺への人口集中は大分県に限ったことではなく、全国各地に見られる現象でもある。

 ご多分に漏れず同県でも、高校を卒業した若者たちが東京や大阪の大都市圏、あるいは近隣の福岡市、北九州市、熊本市といった政令指定都市に流出する傾向は高い。現在、大分県の高校卒業者数は約1万人。半数が県内で進学・就職するものの、残り5000人は県外へと羽ばたいていき、大学卒業後などに戻ってくるのは200人ほど。とりわけ福岡県は“受け入れ先”としてダントツであり、1500〜2000人ほどがこの地にやってくる。

 その最重要スポットにおける就業アピール拠点として、大分県では2020年6月、福岡市大名にカフェ併設型のコミュニティスペース「dot.(ドット)」を開設した。大分県での就職・移住相談、ミートアップイベントなどを随時開催しているが、堅苦しさはゼロ。自治体主導の色をなくし、ふらりとカフェに足を運んだついでに大分県に興味を持ってもらうことをコンセプトとした。会員登録さえすれば、学生・一般ともに交流スペースでの滞在が無料だ(ただし、一般会員はワンドリンク以上が必須)。

大分市の人気カフェ「10 COFFEE BREWERS」を手前に併設したdot.(写真:小口正貴)
大分市の人気カフェ「10 COFFEE BREWERS」を手前に併設したdot.(写真:小口正貴)
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広々としたコワーキングスペースでゆったりと仕事ができる(写真:小口正貴)
広々としたコワーキングスペースでゆったりと仕事ができる(写真:小口正貴)
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 dot.の管理運営者を任されているのが、大分市に本社を置くITベンチャー「HAB&Co.(ハブアンドコー)」である。代表取締役の森祐太氏はdot.運営の狙いを次のように語る。

 「仮に22、3歳で大分に戻り、家庭をもうけて税金を納めることをシミュレーションすると、1人あたり数千万円〜数億円の経済効果が見込まれる。そのため、1人でも多く大分に連れて帰るのが我々のミッション。会員登録データや相談履歴をデジタル上で管理し、アプリによるクーポン配布などによってdot.を訪問するきっかけづくりも支援する。かねてより大分県の中小企業を中心に人材・採用関連のHRテックを提供してきた強みを生かし、気軽に相談できる施設の運営を心がけている」

 森氏が歩んできたキャリアは、まさにdot.が求める理想像のひとつつだ。大分県竹田市の出身で、大学進学を機に北九州市へ。卒業後は人材派遣のリクルートスタッフィングに就職し、福岡県に軸足を置いて働いていたが、実家の事情により20代半ばで地元にUターン。その後、大分県私学協会、大分市のITベンチャー「イジゲン」の取締役を経て2017年8月にHAB&Co.を創業した。

HAB&Co. 代表取締役の森祐太氏(写真:小口正貴)
HAB&Co. 代表取締役の森祐太氏(写真:小口正貴)
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 「起業に至る原体験は、帰省するたびに地元が寂れていくさまを目の当たりにしたこと。また、地元で再就職する際、私自身が企業情報になかなかたどり着けないジレンマがあった。大分にはたくさんの優良企業があるのに、2010年代でさえ中小企業にはホームページすらないのが当たり前だった。高校生が地元の企業を選ばないのも、“知らない”ことが大きい。加えてITをサポート・啓蒙する人材も不足している。そこで、情報を通じた人材の最適化にビジネスチャンスがあると考えた」(森氏)

 起業前には私学協会で働く傍ら、独学でプログラミングを習得。勉強がてら、ほとんど無料で地元企業や商店のホームページを片っ端から作成した経験を持つ。「実際に集客に結び付き、とても喜んでもらえたことがモチベーションになった」と森氏。ITの力を用いて地元のおじちゃんやおばちゃんのニーズに泥臭く応える姿勢は、「地方ならではのアイデアで社会課題を解決する。」というHAB&Co.のビジョンにつながっている。