未利用の休耕田で生産された米を中心とした循環型事業を手がける会社、ファーメンステーション。岩手県奥州(おうしゅう)市に生産拠点を構え、米に麹や酵母を加えてエタノールを抽出し、化粧品の原材料などとして販売する。

岩手と東京をつないだ“発酵愛”

 水沢市、江刺(えさし)市、前沢町、胆沢(いさわ)町、衣川村が合併して2006年に誕生した岩手県奥州市。一帯の胆沢平野は豊かな水田を擁する岩手有数の米どころであり、旧前沢町は前沢牛で全国に名を馳せるなど、農畜産業が盛んな地域として知られる。ここが今回の舞台だ。ファーメンステーションを率いる酒井里奈氏は、奥州市と東京を行き来しながら「米を中心とした循環型事業」に携わっている。

日本三大散居村にも数えられる胆沢地区の風景。広大な水田に農家が点在する(提供:ファーメンステーション、以下同)
日本三大散居村にも数えられる胆沢地区の風景。広大な水田に農家が点在する(提供:ファーメンステーション、以下同)
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 ビジネスの話の前に、まずはそのユニークなキャリアから紹介したい。酒井氏は国際基督教大学(ICU)を卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)に入行。銀行時代は国際交流基金日米センターに出向し、NPO交流に関わる中で社会課題に向き合ってきた。その後、ベンチャー企業、ドイツ証券へと転じ、金融畑を中心に歩んできた経歴を持つ。

 だが、ある日たまたま観たテレビ番組が彼女の人生を大きく変えることとなる。「東京農業大学(東農大)の教授が、発酵技術を使って生ゴミからエタノールを生み出す技術を紹介していて。未利用資源をエネルギーにする考え方がすごく魅力的に感じられた」(酒井氏)。

 そして32歳で一念発起して東農大の応用生物科学部醸造科学科に入学。以降、酒井氏は発酵とともに生きてきた。社名のファーメンステーションとは「fermentation(発酵)」と「station(駅)」をかけ合わせた造語。しかも同社のモットーは「発酵で楽しい社会を!」である。かように徹頭徹尾、発酵にこだわっている。

ファーメンステーション代表の酒井里奈氏
ファーメンステーション代表の酒井里奈氏
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 酒井氏と奥州市との出会いは、今から10年以上前の東農大の学生時代に遡る。旧胆沢町では1990年代後半から若手農家の勉強会が開かれており、1999年には「胆沢町農業者アカデミー」が発足。東北大学から教授を招いたり、米国の識者が参加する国際シンポジウムを開催したりするなど、“未来の農業の在り方”を模索してきた。

 この流れから生まれたのが、休耕田で栽培した米を活用してエタノールを作るアイデア。全国共通の悩みだが、奥州市にも数多くの休耕田があり、有効活用されていない現実があった。「米国ではとうもろこしから、ブラジルではサトウキビからバイオエタノールを作っている。休耕田を活用する策として米由来のエタノールを作りたいので研究を手伝ってくれないか、と奥州市(当時は胆沢町)から研究室に相談があったのがきっかけだった」(酒井氏)。

 2010年からは「緑の分権改革」の補助金を得て、本格的な実証実験がスタート。2009年に東農⼤を卒業し同年7⽉にファーメンステーションを設⽴していた酒井氏は、奥州市の事業を⼿伝う形でこの実証実験に参画した。設備は大型工場などではなく、工房を大きくしたようなラボだ。米に麹や酵母を加え、じっくりと時間をかけて発酵させた「もろみ」を蒸留してエタノールを抽出する。当初目標としていたのは燃料だったが、「燃料をゴールにすると採算が取れないことが見えてきた」(酒井氏)。そこでエタノールに付加価値をつけて販売することで、環境に配慮したサステナブルなビジネスのヒントを得た。

エタノールを抽出している様子
エタノールを抽出している様子
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 実証実験は2013年まで続き、その後はファーメンステーションが事業を引き継ぎ、米エタノールプロジェクトとして、現在も同社の中心事業となっている。原料は有機JAS規格に適合した無農薬米を利用。抽出したエタノールは化粧品やアロマなど向けに、「付加価値の高い原材料として提供している」(酒井氏)。

ファーメンステーションの自社製品群。原料はもちろん米から作ったエタノール
ファーメンステーションの自社製品群。原料はもちろん米から作ったエタノール
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 積極的に自社製品も開発しており、通販も手がける。「お米でできたエタノール」(2500円)は主力商品の一つで、オーガニック米から丁寧に時間をかけて製造した高級品。現在は新型コロナウイルスの影響で反響も大きい。米もろみ粕は天然素材の石けん材料となり「奥州サボン」(2200~2500円)として好評を博しているほか、こちらも化粧品原料として販売する。

 同じく米もろみ粕は栄養価の高いエサとなって地元の養鶏農家や畜産農家へ。鶏が産む卵も美味しいと評判だ。さらには鶏糞を肥料とした食用米、野菜の栽培を行う。「どこから見てもサーキュラー(循環型)。その姿勢は徹底している」(酒井氏)。

循環図の概要
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