岩手県滝沢市に本拠を置く炎(ほむら)重工はロボット開発・製作を主軸とするスタートアップ。自律移動式の船舶ロボットなどを開発し、全国の水産業の効率化に力を注ぐ。

田舎でも技術者が満足して働ける場を提供したい

 岩手県滝沢市は2014年の市制施行以前、長らく「日本で最も人口の多い村」として知られてきた。1970年代半ばから、東に隣接する県都・盛岡市のベッドタウンとして人口が増加。2002年には“村”でありながら人口が5万人を超えるまでになった。

 観光では「チャグチャグ馬コ」が名高い。壮麗に着飾った農耕馬たちが滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡市の盛岡八幡宮まで練り歩く恒例行事で、全国から見物客が絶えない。だが残念なことに、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により中止となってしまった。

 滝沢市にある炎(ほむら)重工は、地元出身の古澤洋将氏が設立したスタートアップである。重工の名からわかるように、モノづくり、とりわけロボット開発・製作を主軸とする。工学系スタートアップは大学発のケースが多く、運営コストの問題から学内の施設を間借りしていることが珍しくない。東北地方のベッドタウンで自分の足で立ってロボットビジネスを展開している──。失礼ながら、その事実だけで称賛すべき存在と言えるだろう。

 地元の兼業農家に生まれ育った古澤氏は、農業機械を自分で修理するような父親の影響もあり、子どもの頃から機械いじりが大好きだった。

 「小学生なのにロボコン(ロボットコンテスト)のテレビ中継にかじりついていました。高校時代には実際にロボコンに出場したこともあります。大学は工学系か情報系かで迷いましたが、極端な話、情報系はPC1台あればこなせます。でも工学系は設備や装置が必要で、そんな恵まれた環境は大学にしかありません。そこで筑波大学の工学システム学類に進んだのです」(古澤氏)

炎重工 代表取締役の古澤洋将氏(提供:炎重工)
炎重工 代表取締役の古澤洋将氏(提供:炎重工)
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 ここでロボット工学に関する基礎を学び、卒業後はロボットスーツで有名なサイバーダインに就職した。「当時はまだまだ無名で、サークル仲間や同じ研究室のメンバーなどがたくさんいました。とにかくモノづくりが好きだったので『好きなことをやってお金がもらえるなんて』という感覚でしたね」(古澤氏)。サイバーダインでは主に医療用ロボット「HAL」の回路設計や組み込みソフトウェアなどを担当し、結果的に7年間在籍した。

 キャリアの転機となったのは、2011年の東日本大震災だった。三陸沿岸の岩手県山田町にあった漁師の叔父の家が津波で跡形もなく流され、その現場を見て「これはまずいな」と感じたという。そこで芽生えたのが「地元に戻って雇用を作りたい。田舎でも技術者が満足して働ける場を提供したい」との思いだった。

 戻ってから3年ほどは、個人事業主として受託開発を請け負いながら地盤を固めた。今でも受託開発は売り上げの半分ほどを占めるが、その内容は車載機器、ドローン、画像処理システムと多岐にわたる。古澤氏は「これらはロボットの開発に必要な要素であり、どんな分野にもまたがるので問題はない」と話す。

 自社事業として注力しているのが水産ロボットの領域だ。「Marine Drone」は、船外機付きのミニボートに独自開発した制御コントローラを組み合わせた自律移動式の船舶ロボット。その機能と用途を古澤氏は次のように説明する。

自律移動する船舶ロボットの走行イメージ(提供:炎重工)
自律移動する船舶ロボットの走行イメージ(提供:炎重工)
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 「基本的にはあらかじめ決めたルートを動く経路走行です。GPS(全地球測位システム)による位置情報に基づき、自律移動で目的地に向かいます。もう一つはポイント間の移動。A、B、C、Dのようにポイントを覚えられるので、ポイントに向かって直線移動し、その地点で何らかの作業をして戻ってくる。雨が降ったり、風が吹いたりしても1ヵ所にとどまり続ける停船モードも備えています。

 すべてラジコンのプロポ(送信機)で操作する点が特徴です。海の現場ではスマートフォンやタブレット、パソコンでは対応できない。なぜなら画面を見ても直射日光がきつくて見えないし、潮風があるので耐性がないと厳しいからです。つまり、現場のニーズを考えた末の結論です」

 「月に1〜2隻のペースで売れています。目的はさまざま。カメラを搭載しての監視がスタンダードですが、給餌もニーズがあります。給餌器をつけ、自動で移動して養殖場で餌をまくことに利用するわけです。これだけでも人手不足にあえぐ養殖業者はかなり助かります。それからエビの養殖。エビは基本的に夜行性で夜に餌を食べますが、夜中に餌はまけないので昼にまく。なので給餌効率がすごく悪いんです。餌が水に溶けてしまい、水が汚れるだけ。夜間にタイミングよく給餌できればその問題も解決できます。

 最近はゴミ拾いの相談が多いですね。湾内でペットボトルが浮いているなどの問題があり、海洋プラスチックゴミ削減やSDGsの浸透もある。要は船のお掃除ロボットを作れないかというニーズです。お客様によって求めるものが違うので、どんな作業ができ、何が解決できるかを見極めているところ。いずれにしろ、船舶ロボットで新たな市場を開拓していきたいと考えています」

──記事冒頭の画像:ロボット工学に関する知見が、水産業の未来を切り拓く(イメージ) original image: aerial-drone / stock.adobe.com