除菌消臭水「iPOSH(アイポッシュ)」を主力製品とする秋田市のLocal Power(ローカルパワー)。化学製品のみならず、DX(デジタルトランスフォーメーション)支援やシェアリング事業などさまざまなサービスを展開する同社は、「地方だからこそできることがある」をコアバリューに掲げる。東京都の出身ながら秋田に根を下ろし、地方発ベンチャーのロールモデルをめざす代表の経営哲学とは。

秋田の可能性を信じてやまない東京出身者

 人口の減少が続く日本。2022年4月に総務省が発表した統計によれば、2021年10月1日現在の総人口は前年比64万4,000人減となり、減少幅は統計を開始した1950年以降で最大となった。1年間で、千葉県船橋市と同じくらい人口が減少したことになる。

 中でも秋田県は9年連続で全国最大の人口減少率を記録した。少子化や進学・就職時の県外転出に歯止めがかからず、県の人口に占める15歳未満と15〜64歳の割合が全国で最も低い。もっともこの課題は秋田県に限った話ではない。近隣の青森県、岩手県、山形県も減少が激しく、東北地方を中心に過疎化が加速している。

 見方を変えれば、秋田県は将来的な日本の課題解決策を探る絶好の実証フィールドと言える。しかも、質の高い教育で人材基盤を整備している点が強みである。文部科学省による「全国学力・学習状況調査」では調査開始以来、継続的にトップクラスの結果を維持。全国と比較して通塾率がかなり低いにもかかわらず、学校教育や自宅学習で基礎学力がしっかりと身についている。

 また、2004年に秋田県が設立した国際教養大学(以下、AIU)は“英語で学ぶ”単科大学として知られ、県内はもとより、全国各地から優秀な学生が集まってくる。「THE 世界大学ランキング日本版 2022」では教育充実度の分野で、2021年に続き1位を獲得した。

ローカルパワー代表取締役社長の寺田耕也氏(写真:小口正貴)
ローカルパワー代表取締役社長の寺田耕也氏(写真:小口正貴)
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 秋田市に本社を置くローカルパワーは、こうした秋田のポテンシャルを存分に生かしたいとの思いから設立された。代表取締役社長の寺田耕也氏は東京都多摩市で生まれ育ったが、大学時代の先輩である寺田学衆議院議員に請われて2003年に秋田県に移住。10年間は寺田議員の秘書を務め、2013年にローカルパワーを起業した異色の経歴を持つ。寺田議員の父親は元秋田県知事の寺田典城氏で、AIU設立に尽力した人物だ。ちなみに名字は議員が「てらた」、ローカルパワー代表が「てらだ」と読み、血縁関係はない。

 「10年間、縁もゆかりもなかった秋田県で議員秘書を経験して“もったいない”と思うことがたくさんありました。優秀な人材が多く、活用できる技術や資源がたくさんあるのに、自信がないために行動を起こせないでいたんです。それならば秋田の魅力を伝えるために我々がロールモデルとなり、さまざまな課題をきちんと解決したいと考えたのが起業のきっかけです」(寺田氏)

 設立当初は、秋田県を売り込むための営業代行などを手がけていたが、並行して寺田氏の父親が開発した次亜塩素酸生成技術の事業化に着手。秋田県にかほ市にある三浦電子の協力を得て2014年から製造・販売を開始したのが、現在の主力製品である除菌消臭水「iPOSH(アイポッシュ)」だ。

iPOSHをはじめとするローカルパワーの製品。中央の「Pharmal(ファーマル)」はヘパリン類似物質に植物性セラミドを配合した保湿液で、女性に大好評(写真:小口正貴)
iPOSHをはじめとするローカルパワーの製品。中央の「Pharmal(ファーマル)」はヘパリン類似物質に植物性セラミドを配合した保湿液で、女性に大好評(写真:小口正貴)
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 「コロナ禍以降は売り上げが4倍ほどになり、供給が追いつかなくなったために協力工場と一緒に生産ラインを拡充し、にかほ市の板垣工業に新たな製造拠点を整備しました。ずっと自社工場を持たないファブレスで運営していましたが、2021年末にはにかほ市に自社工場を設立、研究ラボを移設しました。この工場は化粧品の製造・販売の許可を取得しており、人が使える手指洗浄剤『iPOSHハンドクリーン』を新製品として2022年2月に発売しました。こちらも各種試験をクリアした肌に優しい洗浄剤で、お客様にはより身近にiPOSHの効果を感じていただいています」(寺田氏)

 iPOSHはおよそ1万5,000店の調剤薬局で販売するが、販路のメインを医薬品卸に絞り参入障壁を高くしているのが特徴だと話す。海外市場にも進出し、香港の消費者団体や米国のシンクタンクなどから高い評価を得ている。

「清潔な手洗い習慣に役立つ」とうたう新製品のiPOSHハンドクリーン(写真提供:ローカルパワー)
清潔な手洗い習慣に役立つ新製品のiPOSHハンドクリーン(写真提供:ローカルパワー)
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 「製造、販売、物流とそれぞれが得意な企業が組むことによって、世界でも戦えるチームが完成しました。1社だけですべてを変えるのは難しいですが、志を同じにする仲間が集まれば日本のどこにいても状況を変えられるのです。ローカルパワーがめざすのは『地方発のビジネス工場』。私は、新しい事業が工場のように生まれてくる環境を構築したい。東日本大震災やコロナ禍を経て地方の可能性が注目される今、ようやく地方の力で社会を変える時代が来ました。ローカルパワーという社名にはそんな意味を込めています」(寺田氏)