川で魚を釣るのに必要な遊漁券は、これまで購入場所が限定されていた。福井県坂井市のフィッシュパスはスマートフォンのアプリで遊漁券を買えるようにし、釣り人と漁協にパラダイムシフトをもたらした。サービスの原点は、小さい頃に釣りを楽しんだ川の荒廃を何とかしたいとの気持ちだった。紆余曲折を経て河川のデジタル化にたどり着いた代表に話を聞いた。

あまり知られていない川釣りに必要な“遊漁券”

 国土のおよそ3分の2を森林が占める日本には、たくさんの河川が流れている。国土交通省の「河川データブック2020」によれば、国交省が指定した一級河川、都道府県知事が指定した二級河川、市町村長が指定した準用河川を合わせた数は3万5485ヵ所(2019年4月30日現在)。かように、川に囲まれた生活を送る国民なのである。

 我々にとって、川で釣り糸を垂らす姿を目にすることは何ら珍しいことではない。しかしアユやイワナ、ヤマメ、ニジマスなどの渓流釣り、あるいはコイやフナなどの雑魚釣りを楽しむには、場所によって有料の遊漁券が必要なことをご存じだろうか。発行するのは河川の内水面漁業を管理する内水面漁業協同組合(以下、漁協)だ。釣りに精通した人たちなら常識なのだが、アウトドア/キャンプブームにはまってこれから釣りにチャレンジしたい初心者はあまり知らないだろう。

 加えて、意図的に購入しない人たちも一定数いる。中央水産研究所(現水産資源研究所横浜庁舎)の調査によれば、アユ釣りで有名な山梨県丹波川漁協での無券率は60%にも上った。これらを防ぐために漁協の監視員がくまなく目を光らせ、未購入者は追加料金を上乗せした金額を支払わねばならない。応じない際は密漁となり、警察に通報されるケースもある。

 遊漁券にはアユ券、それ以外の渓流魚・雑魚券があり、それぞれ年券と1日券が存在する。アユ券は年券4,000〜1万2,000円、1日券は1,000〜3,000円ほど、雑魚券は年券4,000〜6,000円、1日券は800〜2,000円ほど。このほかに県内共通券などもあるが、いずれも漁協の規定により異なる。ただし年券とはいえ1年中釣っていいわけではなく、アユ釣りや渓流釣りでは厳密に釣りが可能な期間が定められている。

 なぜ川で魚を釣るのに遊漁券が必要なのか。それは、遊漁券収入が漁協運営費の大半を占めるからだ。組合員のほとんどがボランティアにもかかわらず、漁協の仕事は魚の放流、増殖育成、漁場整備・維持・監視、釣り関連のイベント運営など多岐にわたる。アユやヤマメ稚魚の放流をニュースで目にしたことがあるかもしれないが、遊漁券収入はこれら組合活動の原資として欠かせないものとなる。

河川を取り巻く問題(出所:フィッシュパス)
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 初心者の例に顕著なように、問題は釣りに関心のなかった人がどこでどうやって遊漁券を購入すればいいのかを知らない点にある。購入場所は漁協事務所、地元の個人商店、アユの友釣りの際に用いるアユを販売するおとりアユ店、釣具店がメイン。最近ではコンビニのチケット販売機でも入手できるようになっているが、すべての遊漁券を買えるわけではない。

 さらに漁協の高齢化が拍車をかける。組合員の平均年齢は64歳(フィッシュパス調べ)と高く、組合そのものの運営もままならない状況が続く。ピーク時に1000を超えた各地域の漁協は現在816まで減少し、毎年7〜8組合ほどが解散するという。

 しかも中央水産研究所の2014年調査によれば、およそ半数が赤字経営となっている。これは、遊漁券収入がいかに重要であるかの裏返しだ。言うまでもないが漁協が解散すれば漁場の管理はなされず、豊富な釣り場もいずれは枯れ果ててしまうことになる。

 遊漁券を買えるオンラインサービス「フィッシュパス」は、こうした課題を解決したいとの思いから生まれた。24時間好きなタイミングでスマートフォンやパソコンから遊漁券を購入でき、漁協の監視員はGPS(全地球測位システム)で釣り人の位置情報の遠隔監視が可能だ。開発を手がけるフィッシュパス代表取締役社長の西村成弘氏は「釣り人が便利になり、漁協の収入が向上し、収入が自然に還元される三方良しのビジネスモデル」と胸を張る。

フィッシュパスの利用イメージ(出所:フィッシュパス)
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