2025年にIPOをめざす意図とは?

 今では遊漁券アプリの域を超え、宿泊や観光、特産品などの地域情報発信、水位情報の防災通知システム、損害保険ジャパンと提携した「フィッシュパス保険」の販売などを肉付けしている。釣り人の位置情報から効果的な放流ポイントを探ったり、禁止区域をプッシュ通知したりなどのデータ活用も特徴のひとつだ。

 設立当時、2人で始めた会社は現在14人まで成長。2020年8月には福井県や地元金融機関を軸とする「ふくい未来企業支援ファンド」から出資を受け、どっしりと地元に根を張っている。

 「漁協の組合員はその地域の居住者しかなれないので、フィッシュパスは真の意味で地方でしか成立しません。常に地域の雇用や活性化が念頭にあり、UターンやIターンの人たちを積極的に採用しています。地元の九頭竜川はサクラマスで有名で、全国の漁協に売り込む際に名刺代わりにもなります。地方でしか生まれ得なかった事業ですし、その強みを存分に生かしたいと思います」(西村氏)

フィッシュパス社内にて撮影。竹田川と合流する一級河川の九頭竜川はサクラマス釣りで有名(写真:小口正貴)
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 漁協への普及が進むにつれ、「ITのことならフィッシュパス」との認知が高まったと西村氏は言う。最近では秋田県の漁協の委託事業で、組合員募集の告知用ホームページの制作を手がけ、65人の応募が来たと話す。「今まで、集め方を知らない部分が多かったのでは。若い人にこんな大変な思いをさせたくないとの気持ちもあったのでしょう。ITで募集を効率化し、漁協の活動がボランティアではなくきちんとマネタイズできるようになれば、副業としても成立します。そこまで持っていくのが理想です」(西村氏)。

 フィッシュパスの収益源はシステム導入費と月額運営費で、加入数が増えるほど安定するモデル。だが、西村氏はあくまでフィッシュパスを「コア事業」と位置づけ、今後はドローンや水中カメラを駆使して魅力を伝える“川を起点に地域活性を図るシステム”を構想している。軌道に乗ってからの売上高は急上昇し、2021年度は1億円弱を見込む予定。事業計画では2025年に20億円をめざす。そこにあるのはIPO(新規株式公開)という高い目標だ。

 「3年前はIPOなど頭の片隅にもありませんでした。しかし、多くの人たちが遊漁券を購入すること、そして壊れていく地方の河川の状況を知られていない現状を鑑みて、この課題を周知していくための手段としてIPOをすべきとの結論に達しました。日本の川、地方の未来を豊かにするという我々の理念の実現に向けて最大の効果を発揮できると考えたのです」(西村氏)

 福井県では社会課題解決型のIPOの前例がなく、事業以外の壁も立ちはだかっているが、「IPOを果たして社会的公器になりたい」と語る西村氏の目には、一点の曇りもなかった。1年以内に監査法人のレビューも予定するなど着々と準備を進めている。地域密着ビジネスが上場となれば、後続も大いに勇気づけられる。その前向きな姿勢を応援したい。

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