公共工事向けの情報共有システムを提供する金沢市の株式会社アイサス。建設業界出身の創業者は、「現場で気持ちよく使ってもらえるシステム」を念頭に置いている。

建設現場の経験を凝縮したシステム

 2015年に北陸新幹線が延伸した金沢市。趣のある古都だけにそもそも人気が高かったまちだが、東京から最速で2時間半で行けるようになったことも相まって、国内観光客のみならずインバウンドが増加。国際的な観光都市としてさらなる賑わいを見せている。それだけに、一刻も早いコロナ禍の収束が望まれる。

 一方で金沢市周辺にはアイ・オー・データ機器(金沢市)、PFU(かほく市)、EIZO(白山市)といった全国的に有名なIT・電子関連企業があり、保守的な古都のイメージとは裏腹に、進取の気性に富んだ一面を持つ。今回紹介するアイサスは、その系譜に連なる企業と言える。同社が手掛ける公共工事に特化した情報共有システム「information bridge」は、自治体利用実績でトップクラスを誇る。その数、実に2万5000件以上である。2019年度の売上高は約3億8000万円だ。

 アイサスは地元出身の百成公鋭(どうみき・きみとし)氏が2005年に設立したベンチャー。東京からUターン後に地場ゼネコンで20年近く働いていた百成氏は、公共事業が先細る建設業の未来に危機感を抱いていた。そこで当時盛んだった建設業の新分野進出がきっかけとなり、information bridgeの開発を思い立った。

アイサス代表取締役の百成公鋭氏(提供:アイサス)
アイサス代表取締役の百成公鋭氏(提供:アイサス)
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 「新分野進出で多かったのは農業や介護でした。当初は私もカキ殻や竹のリサイクル事業を考えたりしましたが、最終的に自分自身の強みがどこにあるのかを見つめ直してみたんです。その結果見えてきたのが、パソコンが好きで、何より建設業が好きだということ。ならば建設業界の電子化に向けた現場目線のツールを作ればいい。そう思ってスタートしました。

 開発には私の体験が深く関わっています。かつて石川高専の建設現場を担当していたとき、2週間に1度のペースで書類を届けるためだけに名古屋市にある文部科学省の所管部署まで出張していました。フィルムカメラの時代は、1本の下水道を完成させるまでに工程撮影用に24枚撮りのフィルムが数百本必要でした。公共工事では書類作成や工程管理に忙殺され、工事管理者は現場を見る余裕がありません。電子ツールによってこれらの課題を解決し、現場の役に立ちたいとの思いが大きなモチベーションになっています」(百成氏)

 information bridgeは、国土交通省が取り組む「CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)」に準拠している。CALS/ECとは公共事業のライフサイクルで取り扱う情報をデータ化し、共有・連携することでコスト削減や業務効率化を図る電子化施策だ。この中でinformation bridgeは情報共有と電子納品に関する適切なサポートを行う。

information bridgeの概要(提供:アイサス)
information bridgeの概要(提供:アイサス)
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 アイサスは、アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)としてクラウドでinformation bridgeを提供する。利用対象者は公共工事の発注者である自治体と受注者である建設業者。図面や工程写真といった膨大な情報をブラウザ上でリアルタイムに管理・共有でき、手間のかかる書類作成・提出を電子化。さらにシステム内での自動整理とエラーチェックにより、電子納品に関する工数を大幅に減らすなどして、時間と人的コストのスリム化を実現した。

 「メールでは送付できない大容量データをすぐに共有できて作業がやりやすくなった」「書類の一元管理ができて作業負荷が軽減された」「書類提出や打ち合わせのための移動回数が大きく削減され、本来の現場管理業務に集中できた」など、利用者からは好意的な声が相次ぐいだ。

 「参入したとき、大手ベンダーによる情報共有システムがすでにあったのですが、どれも現場のニーズに即していないというのが正直な感想でした。ですからinformation bridgeには、現場で使いやすい機能をすべて盛り込んでいます。現場の人たちがほしいのは『このボタンを押したらこの書類が完成する』という簡便さ。とにかく簡単な操作性にはこだわっています」(百成氏)

 他業界にもましてIT化が進まない建設業界では、パソコンの起動すらおぼつかない人がいる。そのため、アイサスでは現場に足を運んでの導入サポートにかなり力を入れている。交通費の関係もあって北海道と沖縄は難しいが、本州、四国、九州は声がかかれば無料で説明に行く。これは当初から一貫した姿勢だと百成氏は言う。

 「極端に言えば、操作がわからなければパソコンやほかのアプリケーションの使い方まで教えるのが当社の姿勢。そこをクリアして初めて、ネットにつないでinformation bridgeを使えるようになるわけですから。現場の人が困っていることはすべて教えてきなさいと社員を送り出しています」(百成氏)

──記事冒頭の画像:発注者と受注者を結びつける、情報の架け橋(イメージ) original image: metamorworks / stock.adobe.com