京都府亀岡市に、日本では珍しい“天然ラップ”を手がけるスタートアップがある。生活の中のちょっとした気づきから環境に対する意識を高めてほしい──。そんな思いを胸に事業を続ける2人に話を聞いた。

ゼロから始まった天然ラップ作り

 通常、「京都」と聞いて思い浮かべるのは京都市だろう。千年の歴史を超える日本随一の古都であり、その名は世界に轟いている。人口の一極集中も顕著で、京都府民の57%が京都市に住んでいる。しかも第2の都市である宇治市も京都市に隣接しており、それも含めれば6割を超える計算になる。

 では、同じく京都市に隣接する京都府第3の都市をすぐに答えられる人はどれほどいるだろうか。答えは亀岡市。今回紹介する「aco wrap(アコラップ)」の舞台である。

 aco wrapはオーガニックコットンにミツバチ由来の蜜ろうとホホバオイルをふんだんに染み込ませた天然ラップ。手で触るうちに体温でラップがしんなりとしてきて、野菜をくるんだり、皿やホーロータッパーにフタをしたりなど柔軟に活用できる。洗って繰り返し使えるのが最大の特徴で、使い方にもよるが半年から1年間はもつ。現在、直径13cmのS、同19cmのM、同33cmのLと3サイズで展開している。価格は1個1320〜2915円(税込)。

サイズ別のaco wrap。和をイメージした色が味わい深い(写真:小口正貴)
サイズ別のaco wrap。和をイメージした色が味わい深い(写真:小口正貴)
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 手がけるのは浦川篤子さんと、公私ともにパートナーの小林旦さん。亀岡市の自宅兼工房でせっせと手作りしている。ワーキングホリデーを利用したオーストラリア滞在中に、近所のマーケットでエコラップに出合ったのが始まりだった。それが2016年のこと。

 「たまたまマーケットで蜜ろうからできたエコラップを見つけて、試しに買ってお皿に巻いてみたらすごく優しい感じがして。それで、日本に帰ったら自分で作ってみたいとの思いがふつふつと湧いてきました」(浦川さん)

 2017年の開始当初の試作は、オーストラリアで出合った派手な柄物のラップを模倣していた。しかし、ご覧のようにaco wrapはシンプルそのもの。めざしたのは日本の風土に合うプロダクトだった。「オーストラリアで出合ったエコラップは、少し触り心地がベタついていました。ですから触り心地の良さと、日常にすんなり溶け込むデザインを追求したんです。日本人らしさを加えたいという思いは強かったですね」と小林さん。

 前職は浦川さんがデザイナー、小林さんはサラリーマン。むろん、ものづくりのノウハウはない。まさにゼロからのスタートだったが、材料はオーガニックコットン、蜜ろう、ホホバオイル、木の樹脂と限られている。オーストラリアで試作をしていた経験や、芸術大学出身の浦川さんがクリエイター気質だったことも奏功し、「まあ、何とか作れるだろう」との思いで、まずは日本産の蜜ろう探しから始めた。

 「帰国してから日本中の養蜂家を探しました。中でも好感触だったのが、今もお付き合いしている岐阜県の養蜂家さんです。日本の蜜ろうで作ってみたら全く問題がなく、めざしていたものに近づきました」(浦川さん)

 日本らしさでこだわったのはもう1点、深い味わいのある“色”だ。プレーンな蜜ろう色、淡い赤の蘇芳(すおう)色、日本の国石でもある翡翠(ひすい)色、車輪梅の木と泥をかけ合わせた泥色、藍と泥をかけ合わせた青色の5色を用意する。

浦川さんと小林さん。取材場所となった亀岡市のKIRI CAFEにて(写真:小口正貴)
浦川さんと小林さん。取材場所となった亀岡市のKIRI CAFEにて(写真:小口正貴)
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 最初、京都の染色会社に持ち込んだが、自分たちの勉強不足もあり上手くいかなかった。その後、Webでいろいろと検索するうちに、理想的な染色作家を見つけた。それが、aco wrapの染色を担当する鹿児島県奄美大島にある金井工芸の金井志人(ゆきひと)さんだった。

 「金井工芸は、伝統工芸品である大島紬の染色が本業ですが、金井さんはユニクロともコラボするなど積極的に外の人たちと関わっています。調べていくうちに、友だちの友だちだということがわかって。aco wrapの話をしたら『面白そうですね』と。商品によっては泥染めの工程もあるので、『まさか奄美の泥で食品を守れる日が来るとは思わなかった』と喜んでくれました」(浦川さん)

 完成してからは、北は群馬から南は奄美大島まで、2人でマルシェやイベントに出店する日々が続いた。ラップとは思えない円形状だけに、初めの頃は「これって鍋敷き? クレープ?」などと言われたそうだ。また、あるときは「ラップは捨てられるからいいのでは」と言われ、その言葉は今でも浦川さんにトゲのように刺さっている。「それを聞いて、この人を説得できるぐらいまで広めようと心に誓いました」(浦川さん)。

 こうした経緯もあり、ECを兼ねる自社サイトでは美麗な写真を使って利用法の啓発に努める。その甲斐あってか、今では毎月のように女性誌や婦人誌で紹介されるまでになった。