地域を巻き込んでの発展も視野に

 意外だが、天然ラップに出会う前の浦川さんは「オーガニックは気にはなっていたものの、意識高い系のイメージがあった。今ひとつ腹落ちしていませんでした」と言う。だが、エコラップやオーストラリアでの生活で環境に負荷をかけない暮らしについて考えたり、オーガニックの良さを自ら体感したりしてからは、考え方が大きく変わった。毎日使う道具だからこそ「生活の中で、エコや環境を考える一つのきっかけになる」と思えたからだ。

 「それまで普通のラップでも嫌だと感じたことはなかったのに、天然ラップを使い始めてからは違和感を覚えるようになりました。手が自然のものを触っていることに改めて気づいたんです。生活でちょっとしたアクセントがあると、気分も上がりますから。友だちも同じことを言っています。普通のラップを使っていないだけで、地球に良いことに参加した気持ちになれる。私がaco wrapで道筋を作って、そうやってみんなも少しずつ環境のことを考えるようになればうれしい。それがさらに違う人への輪が広がり、専門的なことにも耳を傾けてくれるかもしれません」(浦川さん)

 一方で、実用面の効果も大きい。蜜ろうには保湿や抗菌効果があるため、先述したように野菜の保存に向いており、長い期間みずみずしさを保つ。そのほかにもパンやチーズの保存にも適しているという。「エコだけを押し出すとそのときだけ使って終わりになることも多いですが、使い勝手の良さを実感した人たちがハマっているのがポイントですね。ビニールのラップと違って、木の食器やトマトソースの缶、ホーローにもぴったりとくっつきます。皆さん、いろんな使い方を発見して楽しんでいるのだと思います」(浦川さん)。

保存の活用例。多くの人が使い勝手を実感している(画像提供:aco wrap)
保存の活用例。多くの人が使い勝手を実感している(画像提供:aco wrap)
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 ところで浦川さんと小林さんはともに大阪府の出身で、実は亀岡市への移住組だ。亀岡市が2018年に「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を発表したことや、浦川さんの出身大学の先輩がこの地で交流スペース「KIRI CAFE」をオープンしたことなどが契機となり、移住を決めた。取材はKIRI CAFEで行ったが、雨の降る金曜日の13時という時間帯、しかも決して交通の便が良い場所とは言えないにもかかわらず、地元の人たちが入れ替わり立ち替わり訪れ、活発な話し合いをしている姿が印象的だった。

 「亀岡市に移住して1年が経ちました。先ほどここで食事をしていた人たちは、地域を盛り上げようとされている人たち。この場所に来ると誰かしらいて、オーガニック農家と野菜の廃棄について考えたりとか、いろんな話で盛り上がります。

 幸いなことに私たちには商品があるので接点は持ちやすい。地方新聞に掲載されると『あ、ラップの人』みたいな感じで会う前から知っていてくれたり。具体的な展開はまだありませんが、やりたいことがあれば協力してくれる文化があると感じています」(浦川さん)

aco wrap はKIRI CAFEでも展示・販売。実際に触って確かめることができる(写真:小口正貴)
aco wrap はKIRI CAFEでも展示・販売。実際に触って確かめることができる(写真:小口正貴)
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 事業が成長軌道に乗り始めたaco wrapの目下の課題は、生産性の向上だ。小林さんは「今は自宅兼工房。家内制手工業なので、しっかりした体制と工房を作りたい」と話す。以前、関東で展示会に出展した際にプラスチックごみゼロ宣言に注目したNPOから、亀岡市のエコツーリズムをしたいとのオファーがあり、「工房ができればツーリズムの見学コースにもなりますし、KIRI CAFEのように地域交流拠点にもなるのでは」と小林さんは構想する。

 浦川さんも、次に向けてのステップを考え始めている。

 「aco wrapを始めて痛感したのは、商品を作っておしまいではないということ。存続させるためには、きちんと人を雇ってお金の流れを管理しなくてはなりません。最近ようやく経営とじっくり向き合うようになりました。人の雇用に結び付けられれば、本当の意味で地域とつながることができるはずです」(浦川さん)

 亀岡市には京都先端科学大学バイオ環境学部のキャンパスがあり、多くの学生が食品科学や環境学を学んでいる。aco wrapとも親和性が高いだけに「学生たちと交流、あるいはアルバイトなどで雇用できれば、いろいろと広がっていくかもしれません」と浦川さん。テクノロジーに依らない、オーガニックな地方発スタートアップの飛躍を期待したい。