雪国観光圏は“OS”、拠点として古い旅館をリニューアル

 2018年、井口氏は南魚沼市の六日町温泉にある創業50年の旅館「龍言」を買い取り、2019年7月にリニューアルオープンさせた。龍言はもともと格調の高い宿として名を馳せていたが、井口氏は今後、「雪国観光圏を楽しむゲートウェイ」として機能させていきたいと話す。

六日町温泉の旅館「龍言」(写真:小口正貴)

 「求められている旅の価値観が変わってきました。これまで田舎の温泉宿の過ごし方は上げ膳・据え膳でゆっくりと宿で疲れを取るものでしたが、例えばハワイに旅行してホテルの中で1日中過ごすことなどありませんよね? 新幹線を越後湯沢駅で下りて、ここまで車で30分。日本だと隣町ですが、海外の感覚なら同じ市内です。

 私は龍言を単なる旅館ではなく、雪国観光圏の世界観を具現化する場所にしたい。ここに数泊して周辺の雪国文化を感じてもらいたいんです。これからコンテンツとストーリーをしっかりと結びつけて過ごし方のイメージを提供していこうと考えています。このアイデアは、雪国観光圏の活動がなければ出てこなかったでしょうね」(井口氏)

「龍言」の邸内の池を臨むスイート。旅慣れたインバウンドの富裕層も訪れる(写真:小口正貴)

 再生プロジェクトでも組んだフジノ氏は、建築家、トラベルライター、カメラマンなどを呼び寄せ、“これからの旅館像”のイメージ作りに奔走した。これらの活動は、前述した岩佐氏が2014年に南魚沼市にオープンした再生旅館「里山十帖」からヒントを得ている。

「ブランディングの成果は表層のアプリケーションレベルで求められるのが常ですが、雪国観光圏で11年間やってきたのは土台のOSを変えること。龍言は雪国観光圏というOSでいきいきと動くアプリケーションなんです。時代の流れもあり、ようやくガラケーがスマホになったような気がします」(フジノ氏)

取材後もプロジェクトの打ち合わせをこなす2人 (写真:小口正貴)

 KPIや売り上げに縛られることのない自由な活動だからこそ、雪国観光圏は地元に根を広げてきた。フジノ氏によれば、各所に雪国文化という言葉が浸透し、地元でも広く使われるようになってきたという。11年前には存在しなかった新たな価値観の普及──。それを手にしつつあるだけでも、雪国観光圏の活動は成功と言えるだろう。