地方にこそユニコーンを目指す起業家が必要

 笑農和はこの8月に新社屋に引っ越した。かつてスーパーマーケットだった場所を活用したもので、広々とした社内は洒落たインテリアで統一され、開放的な雰囲気がある。会社は上り調子で、積極的な採用活動も展開。職種もマーケティング営業、Webエンジニア、IoTエンジニアと首都圏のIT企業に引けを取らない。2018年には新卒でAIエンジニアが入社した。

今年8月に移転した開放的な新社屋(写真:小口正貴)

 「もちろん東京のほうが仕事も多く給与も高いのですが、若者には地元で職を見つけて暮らしたいニーズもあるんです。ならば東京と同じことができる環境を作ってあげたい。石川県に住みながら、パラレルワークで週1回程度通勤している社員もいます。新幹線が開通して東京まで2時間ほどで行けるようになったし、しょっちゅう足を運んでいますから情報の壁もだいぶなくなってきていますしね。

 その意味も込めて、この新社屋はアイデアを持った人たちの“ハブ”にしたいとの思いがあります。奥のスペースは空いているのでシェアオフィスとして開放したい。ここを拠点に富山発の新しいビジネスが生まれたら面白いかなと」(下村氏)

社屋の一角には卓球台も置かれていた(写真:小口正貴)

 下村氏が富山県にいながらにして開かれた視座を持つようになったのは、数々のビジネスコンテストやプログラムにエントリーして外の空気を十分に吸ってきたからだ。起業家万博、X-Tech Innovationなどで受賞歴を誇り、アクセラレータープログラムのIBM BlueHubなどに採択されてきた。プログラムでは資金調達のノウハウを学び、現在、3社のベンチャーキャピタルから出資を受けている。

 そんな下村氏に「地方でスタートアップを営む意義」について問うと、次のような答えが返ってきた。

 「まず地方でのスタートアップは非常に珍しく、富山では俗に言うユニコーンを目指すような企業はいません。でも今後、新しい産業を切り開かないと雇用が生まれませんから、地方にこそユニコーンを目指すマインドが必要だと考えています。

 その点、我々はユニークな領域にチャレンジしているので注目されやすい。こうして今回も東京からわざわざ取材に来てくれるわけで、そのたびに“富山で何か面白いことをやってる会社がある”と一気に拡散するメリットはあります。最も大事なのは、笑農和がアグリテックだということ。ここには田畑の現場があり、課題を抱える人たちが目の前にいます。やはり地方発のスタートアップは地方の課題を解決してこそ価値があるのです」

 当面はスマート水田サービスに注力しつつ、将来的には水稲を軸とした横展開も考えたいと語る下村氏。現場に寄り添った嗅覚と最先端テクノロジーの融合は、今後のアグリテックの世界にさらなるインパクトを与えそうだ。