健康やサステナビリティの観点から植物由来の代替肉に注目が集まる中、熊本のスタートアップが提供する大豆肉が続々とハンバーガーショップに採用されている。鍵を握るのはこれまでの大豆肉とは一線を画す「おいしさ」。そこには、人生の半分以上を発芽の研究に費やしてきた研究者の執念があった。

大豆をギリギリまでいじめる「落合式ハイプレッシャー法」

 SDGsや健康志向の高まりから、植物を由来とするプラントベースフード市場が盛り上がりを見せている。中でも高タンパクの代替肉として注目されるのが大豆由来の植物肉である。

 熊本市に本社を構えるDAIZ(ダイズ)は、文字通り大豆肉を手がけるスタートアップ。独自の植物肉原料「ミラクルミート」を主軸とする。ミラクルミートはうまみ成分が多く大豆特有の臭みがないのが特徴だ。

植物肉原料のミラクルミート(撮影:筆者、以下同)
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 2020年8月にはハンバーガーチェーン大手、フレッシュネスバーガーの「THE GOOD BURGER」のパテ原料に採用され、10月から全国で発売を開始。首都圏における検証販売では想定以上の売れ行きを示した。同社がミラクルミートを選んだ理由はシンプルに「おいしいから」だという。同じく10月からは、沖縄の有名バーガーチェーンであるA&Wの「The ZEN SOY BURGER」にも採用された。パテの材料原価は本物の肉と比べて同等かそれ以下。現在の生産量は年間1000tだ。

 おいしさの秘密は、「落合式ハイプレッシャー法」と呼ぶ新たな大豆の栽培方法にある。発芽中の大豆にストレスをかけ、酵素を活性化。約13時間後には通常の大豆に比べ、うまみのもとであるグルタミン酸が10倍、成長ホルモンの分泌を促進するアルギニンが2倍、抗酸化物質のイソフラボンが4.3倍、抑制性神経伝達物質のGABAが3.5倍まで上昇する。

 落合式ハイプレッシャー法は、DAIZ 執行役員 CTO 研究開発部長の落合孝次氏が開発したものだ。落合氏は近畿大学農学部を卒業後、大手食品会社に就職。米国カリフォルニア州でもやし工場の立ち上げと市場開拓に従事した後、2002年に同州ナパバレーでバイオベンチャーのシードライフテックを創業したが、2014年に倒産を経験した。

 救いの手を差し伸べたのは、DAIZの創業者で代表取締役社長でもある井出剛氏だった。井出氏は、遺伝子改変マウスや疾患モデルマウスなどを扱う熊本大学発ベンチャーのトランスジェニックを、2002年に東証マザーズに上場させ、2005年には熊本県益城町に有機栽培ベビーリーフの生産・販売を手がける果実堂を設立。今では日本一のベビーリーフ年間生産量を誇るまでに育て上げた。

 この優秀なシリアルアントレプレナー(連続起業家)との出会いが落合氏の転機となる。落合氏はシードライフテック時代にシンポジウムを通して井出氏と知り合い、親交を深めてきた。倒産後に井出氏が彼を熊本へといざなったのは、すでに落合式ハイプレッシャー法の原理を固めていた落合氏の可能性に惚れ込んだからだ。井出氏は落合氏との邂逅を「目からウロコが落ちる経験」と振り返っている。

 そして2015年12月、井出氏は3社目となるDAIZ(旧社名は大豆エナジー)を設立し、落合氏を背後からフォロー。1年もの間、手厚い庇護のもとで研究と開発に集中できたことにより、落合式ハイプレッシャー法が完成した。これを受け、2019年に現社名に変更してからはギアを加速している。2020年1月には冷凍食品大手のニチレイフーズと資本業務提携を結び、商品開発で協業を促進。5月には農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)、三菱UFJキャピタルら5社を引受先とする第三者割当増資により、総額6億5000万円の資金調達を実施するなど上昇気流に乗った。

 熊本空港にほど近い、益城町の熊本テクノリサーチパーク内にDAIZの発芽制御工場がある。取材で訪れた際は残念ながら改装中で稼働していなかったが、落合氏は情熱的に話し始めた。

DAIZ 執行役員 CTO 研究開発部長の落合孝次氏
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 「既存の植物肉メーカーはバイプロダクション(副産)が主体で、大豆の搾油残渣(ざんさ)などを再利用していますが、この方法では臭みがあってうまみが出ない。そこで臭いをマスキングして調味料で味付けし、セルロースなどのつなぎを入れて形にしています。しかし、これではコストがかかるし、人工的な味にしかなりません。要するにおいしくないわけです。

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原料となる高オレイン酸大豆(左)。ストレスをかけて旨味を凝縮した発芽大豆(右)

 一方でミラクルミートの素材は発芽直後の大豆で、生きた豆が原料になります。素材そのものの力を活用するため、異風味がなくうまみ成分をたっぷり含んでいます。まずは遺伝子組み換えでない高オレイン酸大豆を、発芽制御タンクの中でストレスをかけて発芽させます。発芽大豆はエクストルーダーと呼ばれる加工装置でチップ化し、これが植物肉のもとになります。鶏肉、牛肉、豚肉へと応用可能で、ハンバーガー、唐揚げ、春巻き、餃子などに幅広く利用できます」(落合氏)

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発芽制御タンクと落合氏(左)。右はチップを生産するエクストルーダー。ニチレイフーズなどの支援のもと2021年には現在の10倍の生産量を見込む(右写真提供:DAIZ)

 現場で実際にミラクルミートの加工食品を試食した。ハンバーガー、唐揚げ、春巻きを食べたが、唐揚げと春巻きに関しては代替肉とは思えないほど自然な味わいだった。ハンバーガーのパテは牛肉ほどジューシーではないが、匂いと味はしっかりと肉であり、食べていて満足感がある。

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ボリューム感のあるパテが入ったハンバーガー、唐揚げ、春巻き(左)。開発中の加工食品にはボロネーゼ用の肉もある(右)

 「米国ではインポッシブル・フーズやビヨンド・ミートといった代替肉のベンチャーが急成長していて、市場には非常に追い風が吹いています。ただ、美味しさの点でDAIZは決して負けないという自信がある。なぜなら我々は既存の植物肉の課題だったうまみ成分がない、臭いがある、食感が悪い、栄養価が低いというペインを拾い上げ、つぶさに潰してきたからです。井出からは、『このペインをクリアしない以上、アクセルは踏まない』と言われました。やはりプロダクトアウトではなく、マーケットインでないとうまくいかないんです」(落合氏)