AIと創薬で次なる段階へ

 熊本市のくまもと大学連携インキュベータにある研究所では、国立大学出身者をはじめとする若いスタッフが働いている。落合氏は「弊社の社員は何でも自分でやってしまうバイタリティのある人たち。入社したばかりでも1人で2つ以上のプロジェクトを掛け持ちしているのでやりがいがあると思います。創業メンバーも野武士的なメンタルを持った人間ばかりですからね。8倍速で動いている感じです」とDAIZの社風を表現する。

若いメンバーが中心の研究所スタッフ
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 落合氏によれば、井出氏は地方から起業家が生まれ、ベンチャーが根付く仕組みがないことを嘆いているという。「井出は地方からでも上場できることをトランスジェニックで証明しました。果実堂の成長も然りです。雇用面から考えてもとにかくこの場所で新産業を生み出すのが重要。研究職は仕方がありませんが、益城町の工場は地元の人たちを雇用するつもりです」(落合氏)。

 研究所では大豆の発芽プロセスを中心に研究を重ねており、科学的根拠に裏付けられたデータベースを構築中だ。これはAIを用いて膨大な機能性情報を解析し、好みに応じた植物肉を開発するために不可欠なステップだという。そのため、米国マサチューセッツ州ボストンに情報拠点を置き、MIT(マサチューセッツ工科大学)出身のAI研究者と連携を図っている。

 「発芽、温度、時間の組み合わせは何千通りもあり、その違いによって味も変化します。データベースが蓄積されれば、例えば天草大王(熊本県の地鶏)の胸肉のような肉がほしいといった要望に応えられる可能性が出てくる。しかも国を問わないのがメリット。どこかの国に美味しい豚肉があれば、そのキーサンプルに沿った味付けを大豆の要素の組み合わせで実現することも夢ではないのです」(落合氏)

いろいあろな条件下で生育した大豆の状態を可視化したシステム
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 さらにその先には、創薬への挑戦も視野に入れている。公益財団法人がん研究会や熊本大学、九州大学らとの共同研究では、落合式ハイプレッシャー法でストレスを与えた発芽大豆から抽出した化合物が、再発乳がんを模した培養細胞の細胞死を誘導し、増殖をおさえる生理活性を持つメカニズムが発見された。

 「植物由来の抗がん剤がたくさんあることを考えると、大豆から薬が生まれる日はそう遠くはないのでしょうか。まだ製薬企業との連携はありませんが、もしかしたら来年ぐらいに動きがあるかもしれません。

 私は30年間、発芽の研究に従事してきました。サラリーマン時代、もやし工場では毎日100tを発芽させましたが、これは大学の研究室では得られない経験。その経験が今につながっていることは確かです。熊本から世界に羽ばたく大豆イノベーションを楽しみにしていてください」(落合氏)