大企業とも臆さず交渉、地元の老舗製造業と良好な関係を築く

 2017年、初回のクラウドファンディングに至る経緯も“鳴海流”だ。開発経験がゼロ、ましてや地方都市のいちスタートアップだっただけに、鳴海氏はGFR-01の試作機を担いで東京・渋谷のMakuake本社に乗り込み、たぎる思いを直接伝えた。後にMakuakeの広報担当執行役員は「鳴海社長の掲げるビジョンや情熱に心を打たれた」と振り返っている。

 前述のようにクラウドファンディングの反響は凄まじく、これによりglafitの名前は一気に浸透した。最終的に目標額だった300万円の約43倍となる約1億2,800万円を調達し、その勢いに乗ってglafitを分離独立。さらに大企業からも頻繁に声がかかるようになった。

さまざまな工具類が並ぶ社内の様子(撮影:小口正貴)
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 最初はカー用品店のオートバックスセブンで、いち早くGFR-01を先行販売。2019年にはヤマハ発動機との資本業務提携、パナソニックとの電池分野における共同実証実験、ノーリツプレシジョンとの資本業務提携を矢継ぎ早に発表した。

 「ヤマハもパナソニックも、ホームページの問い合わせフォームからの1本のメールがきっかけ。最初は若い社員の方が興味を示してくれて、実際にお会いするわけです。そこで『何か一緒にできたらいいですね』という話になりますが、『やるなら本気で組みたいので、社長決裁でうちに出資してくれませんか?』と持ちかけたのです。そこからわらしべ長者のように、課長、部長、事業部長、取締役とつながっていき実現しました。

 結局、ご縁があったんですよ。ほかにもいろんなメーカーからお話をいただきましたが、通常は担当者レベルで止まってしまいます。実現したケースはすべて思いがつながっている。glafitと組んだら面白いことができると、手を替え品を替えて上司を説得してくれたようです。福山や古岡もそうですが、僕は本当に人に恵まれていますね」(鳴海氏)

 ノーリツプレシジョンの場合はglafitからの熱烈オファーが実った形だ。現在はまったくの別会社だが、同社は和歌山市から世界に名を知らしめた写真処理機器メーカーのノーリツ鋼機がルーツ。glafitでは電動ハイブリッドバイクの最終組み立て工程をノーリツプレシジョンに委託している。

和歌山県庁で行なわれたノーリツプレシジョンとの協定調印式。和歌山県知事、和歌山市長、ヤマハ発動機の関係者らが出席。右端がノーリツプレシジョン代表取締役社長の星野達也氏(出所:ノーリツプレシジョン)
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 「和歌山でできること、その可能性を広げるときにノーリツと協業しない選択肢はなかった。ゼロから大規模な工場を建設するのは非現実的ですし、畑は違えどノーリツはしっかりした製造拠点を持っている。そのため、協業先としてはベストでした。経営体制が変わり、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の星野達也社長が就任したことも大きい。お互いにリスペクトして良い関係を築くことができています」(鳴海氏)

 現在は社員16人、資本金2億7,000万円まで成長したglafit。最後、鳴海氏に地方から起業をめざす人たちへのメッセージを問うと、こんな答えが返ってきた。

 「逆に、地方じゃない場所ってどこですか? せいぜい東京か大阪、その周辺ですよね。それ以外は全部地方みたいなものですから、和歌山にいることのハンデを感じたことはありません。ましてや僕らのようなハードウエアスタートアップは製造拠点が必要になりますから、場所のコストや人件費を考えても理にかなっています。

 ただ、情報の鮮度だけは都会に劣る。これは間違いなく事実です。僕は今、和歌山と東京を行き来していますが、東京ではカフェで耳にした会話でさえ内容の濃さが違う。最強なのは地方でビジネスを回しながら、都会の情報をいち早くキャッチすることかもしれません。地方に根ざしながら世界を見ていく──。これからの時代はその思考が当たり前になってくると思います」(鳴海氏)

「上場を目指しています」の言葉をプリントした特製Tシャツを手に微笑む鳴海氏(撮影:小口正貴)
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 取材後に社内を見学させてもらったが、ホワイトボードの予定表に「上場を目指しています」の貼り紙を見つけた。その言葉を刻んだTシャツを手にする鳴海氏の笑顔は屈託ない。乗り越えるべきハードルは高いが、さらなる奮闘を望む。