こんにちは。PANTSの滝口です。PANTSはふだん、ゲーム開発をしたり、商品やイベントをつくっています。この連載のタイトルは「思考のタガの外し方」。

まちおこしはその街独自の魅力を掘り起こすこと。だから、他の街のやり方を真似しても仕方がない。むしろ、「あたりまえ」のタガを外して考えた方がいいのではないか。

今回の舞台は福島県の寂れた温泉街。明治から続く旅館の無口な館主を取材しました。彼がまちおこしに選んだのはオリジナルソフビ怪獣。昔、子どもたちがよく遊んだ、ウルトラマンの敵として出てくるような怪獣のオモチャ。

なぜ怪獣のオモチャ? 温泉とどういう関係が? タガが外れてる人の匂いがします。福島県猪苗代まで行ってきました。

世界初!? 旅館がつくったオリジナルソフビ怪獣

今年52歳になる旅館「磐梯西村屋」の館主・西村保成さんは無口な人だが、ソフビ怪獣の話のときだけは別だ。穏やかだが、話が止まらない。

※撮影時だけマスクを外していただきました

「うちで作った福島県猪苗代町非公認怪獣シリーズは今のところイナワシロンとフドウタキングの二種類で、中ノ沢温泉のまちおこしのためにつくりました」

さっそくツッコミどころがたくさんある。

「イナワシロンは磐梯高原を守っている怪獣で、実際は直径約45kmあります。口からはマグマが出ていて、これが温泉の元になってます」

磐梯高原を守るってことは、何かと戦うのだろうか。

「いや、そこまでの設定は決めてなく…。で、こちらが、フドウタキング。中ノ沢温泉からちょっと行った観光名所・達沢不動滝の怪獣です。持ち運べるパワースポットなんですよ」

フドウタキングのモチーフとなった達沢不動滝。

「世界初なんですよ、おそらく。旅館が作ったオリジナルソフビ怪獣は」

最初に頭に浮かんだのは、そりゃそうだろう、という感想だった。

※撮影時だけマスクを外しました

平成はつまらない時代でした

ここは福島県猪苗代町にある中ノ沢温泉。猪苗代湖や日本百名山の磐梯山・安達太良山に囲まれた自然豊かな温泉街。

(イラスト:シミキョウ)
写真:猪苗代観光協会提供
写真:猪苗代観光協会提供

ここに明治時代からある温泉旅館「磐梯西村屋」。

スキーブームのときには200人以上も宿泊することもあった。しかし、スキー客は減り、無名な中ノ沢温泉自体を目当てに来る客は少ない。そこへ東日本大震災。長い間ジリ貧状態が続いている。

ここで生まれ育った西村保成さんは引っ込み思案で口下手な少年だった。将来の夢はおもちゃ屋さん。群馬の大学に行き一度は郷里を離れたが、大学を卒業するころ、社長だった叔父さんがガンで亡くなり、実家に呼び戻される。実父が4代目社長となったが後半10年は体調を崩し、父の代わりに若い頃から実質的な社長業をこなしてきた。

「本当はね、最初は旅館の仕事はあんまりやりたくなかったんですよ」と西村さんが取材中に本音をこぼした。「でも、中ノ沢温泉も磐梯西村屋も愛着はある。残したい。絶えさせられないんですよ…」

西村さんが実家に戻った20代のころ、昔の復刻ソフビが発売されるようになり、再度、ソフビ怪獣の魅力にとりつかれる。「ソフビって変なものが多くて面白いんです。パチモンも多いけれど、そこがまたいい。むしろ、パチモンの方が面白い。昭和のエネルギーを感じるんです。それに比べて、平成は本当に面白くなかった。現実的でつまらなかった」

西村さんはよく昭和と平成の比較をする。エネルギーに溢れていた昭和と、真面目で息苦しい平成と。昭和から平成に変わる年に20歳になった西村さんにとって、無邪気な子どもだった昭和の時代と、旅館を継いで大人になる必要があった平成時代とが対照的に感じられるのかもしれない。

旅館業のかたわら、オリジナルソフビ怪獣づくりをしたいと20代の西村さんは思う。しかし、インターネットもなく誰に聞いていいかもわからない。しかも、引っ込み思案な性格。作りたいというきもちはモヤモヤとありながら、行動に移すことなく30年近くの年月が経った。