最初は意味がわからなかった

きっかけは、2016年の秋、地域おこし協力隊として國分健一郎さんが猪苗代町にやってきたことだった。

※撮影時だけマスクを外していただきました
※撮影時だけマスクを外していただきました

猪苗代町のまちおこしがミッションだった國分さんは中ノ沢温泉に可能性を感じた。「震災から立ち直ってなくて、このままだとマズいなと思ったんです。でも、同時になぜか可能性も感じてました。ここだったら面白い活動ができるんじゃないかって」。

國分さんと出会った西村さんはすぐにソフビ怪獣の相談をした。オリジナルのソフビ怪獣でまちおこしができないか。國分さんが共感してすぐに開発に向けて動き出した…わけではない。「最初は意味がわからなかったんです。私は別にソフビ怪獣が好きなわけでもないですし、何が面白いんだろうって」。

そりゃそうだろう。國分さんの当惑顔が目に浮かぶ。

2人はさまざまなまちおこし活動を行うが、その間も西村さんはソフビ怪獣の魅力を語り続ける。行動には移さないが好きなものへの執着は人一倍強い男、それが西村さん。ソフビ怪獣の魅力だけでなく、ポップアートとして世界中のオタクの間で注目を集めていること、「インディーズソフビ」というジャンルがあること、中央線のサブカルのおもちゃ屋さんでは数十万円で取引されるソフビ人形もあること…。

語り続けること約2年、ようやく國分さんもソフビ人形の魅力と可能性を理解し始めた。作ると決めた後の國分さんの行動は早い。たまたま見つけたアマプロという会社に熱意あるメールで頼み込み、制作を快諾してもらえた。

こうしてできたのが猪苗代町非公認ソフビ怪獣第1弾「イナワシロン」だ。ちなみに「非公認」なのは「その方が自由だし面白いじゃないですか」とのこと。

モノがあれば、なんとかなる

2人は発売日当日に行列ができると信じていた。

2019年10月5日のTwitterではこう告知している。

「明日午前11時発売。発売前日深夜から行列される方は、小西食堂(注:旅館の隣の食堂)側の駐車場に一律お並びください。朝9時より整理券を配布します」

東京で発売するなら納得もいくが、福島県の山奥の寂れた温泉の旅館に行かなければ買えない。しかも、告知はTwitterのみ。それだけでどうして行列ができると信じられたのか、筆者には狂気を感じるが、それだけ2人がソフビ文化に感じていた可能性が大きかった、ということだろう。

当日は誰ひとり来なかった。

しかし、2人は諦めない。「モノがあればなんとかなると思ってました。思いつく人はたくさんいても、ここまでたどり着かない人がほとんど。私たちは実際にソフビ怪獣を作った。だったらなんとかなるだろう、って思ってたんです」

旅館の女将さんをしている母親の西村節子さんは「何やってんだろう? って感じでした」と笑う。「でも、少しずつこの怪獣目当てのお客さんが来るようになって。わざわざ宿泊しに来てくださった方とか、東京にいるお子さんに頼まれて買いに来た方とか。ただ、息子がいないときに来られていろいろと質問されても、私は何にも答えられないんですよ。いまだに興味もないですし」

※撮影時だけマスクを外していただきました
※撮影時だけマスクを外していただきました

少しずつ、ソフビ怪獣ファンの間で猪苗代町非公認怪獣シリーズは知られていくようになる。「世界初の旅館ソフビ怪獣」というキーワードが効くらしい。第1弾のイナワシロン・第2弾のフドウタキング、2つあわせて約450体ほどをこれまでに売っている。福島県の山奥のこの旅館でしか買えないことを考えると驚異的だ。