こんにちは。PANTSの滝口です。PANTSはふだん、ゲーム開発をしたり、商品やイベントをつくっています。この連載のタイトルは「思考のタガの外し方」。

まちおこしはそのまち独自の魅力を掘り起こすこと。だから、他のまちのやり方を真似しても仕方がない。むしろ、「普通こうするよね」のタガを外して考えた方がいいのではないか。

今回は香川県琴平町の小さなバス会社・琴平バス株式会社が始めたおそらく世界初のオンラインバスツアー。バスツアーをオンライン化して面白いんだろうか? と心配だったが、それは杞憂で、新しくて面白い体験イベントになっていた。

なぜ、琴平バスはこのオンラインバスツアーをつくりえたのか。今回は琴平バスの秘密に迫る。

前々編の「コトバスツアー体験編」はこちら
前編の「コトバスツアーの魅力分析編」はこちら

この会社、つぶれるかもしれない

2020年4月7日に7都府県で緊急事態宣言が発令され、その後、対象地域は全国47都道府県へと拡大。結局、緊急事態宣言は同年5月25日まで継続した。

琴平バスは貸し切りバス事業・高速バス事業・タクシー事業・旅行事業と主に4つの事業を行っていたが、そのほぼすべてがストップした。オンラインバスツアーの発案者である山本さんは「このままじゃ、会社がつぶれる」と思ったらしい。

4月27日の会議で山本さんはオンラインバスツアーを社内で提案。だが、すぐに「よし、みんなでやってみよう!」とはならなかった。メンバーは誰も乗り気ではなく、後から聞こえてきたのは「旅行をオンライン化して何が楽しいのか」「琴平バスのお客さんは高齢の方が多い。Zoomなんて使えないはず」などの反対意見。そんな中、社長の楠木さんだけが「やってみよう。すぐにやろう。3日後にテストだ」と言い、とりあえず山本さんと楠木さんの2人で始めることにした。

楠木さん「旅行事業というのは大きな設備投資が必要なわけではない。やってダメだったら止めるか、変えるかすればいい。やらない理由はない、そういつも思ってるんです」

最初のテストは散々だった。バスツアーの1日になぞらえてつくったが、すでにある写真をスライドとして見せるだけだったので、参加者から「これは旅行ではない。単なるツアー紹介だ。これではお金はもらえない」と言われた。

バスツアーは目的地にたどり着くまで数十分はかかる。その時間を埋めるようにガイドさんがする挨拶。それをそのままテストでも行ったが、それでは参加者は飽きてしまう。オンラインと実際のツアーの違いを理解できていなかった。

散々なテストだったが、「現地中継をやっぱり入れよう」「バスが走っている映像が必要だ」などの建設的な意見が出て手応えも感じ、1週間後にもう1度テストをすることにした。

バスの車窓映像の撮影、中継の準備、まち案内の練習をしての1週間後。2回目のテストは好評で、「後は現地の商品がお客様の手元に直接届くならいけるのでは」となり、すぐにツアーの発売を決めた。

ツアー本番はさらに1週間後の5月15日。最初の企画会議からたった3週間弱で世界初のオンラインバスツアーが実施された。

最初のツアーは関係者を除くとお客さんは5人だった。

山本さん「参加してくださった方が楽しそうだったのが何よりもうれしかったんです。地元の方が来ると思ってたんですが、県外の人が思ったより来たのも面白いなって。これまでの実際のバスツアーは99.9%が地元の香川県の方だったので、全国の人がいきなり来ちゃった、って」

コトバスオンラインバスツアーは今年(2021年)の5月で1周年を迎えた。これまで参加したのは延べ1900人以上。今後、オンラインバスツアーはどう進化していくのか。

山本さん「始めたときも、今も、オンラインバスツアーの完成形がどういうものか、わかってないんです。だから毎回試行錯誤。でも、完成形が決まってないなら、そのときそのときその場にいるお客さまが喜んでくださったら、それがその日の完成形なのかなって思ってます」