なぜ、小杉湯となりをつくったのか

滝口「それにしても、銭湯とあんまり関係ないように見えるんですが」

平松さん「ここは『銭湯のある暮らし』ができる場所にしたいと思ってつくったんです」

滝口「この建物がなくても小杉湯という銭湯があるから、『銭湯のある暮らし』はできますよね?」

平松さん「そもそもからお話しすると、元々ここは古いアパートだったんです。ここを小杉湯2代目で父の平松茂が持っていたのですが、老朽化のために建て直す必要が出て。立ち退きを住民のみなさんにお願いしたら、予想以上にみなさん早く退去されて、建て直しまでの1年間がぽっかり空いたんです」

加藤さん「そのタイミングで、たまたまぼくと平松が出会って、『ここに住んでみない?』って誘われて」

平松さん「部屋が空いてるアパートがあるから、そこでなにか面白いことができないかな、くらいのノリでした」

加藤さん「ぼくは山形県出身で、温泉に小さいころから毎日のように入る生活が染みついていたので、銭湯に入りながら暮らせるなんて最高じゃん、と思って、誘われた翌日には引っ越してました」

平松さん「部屋はまだまだ空いてたんで、加藤と相談しながら、いろんな職業の人に声かけたんです。タダでいいから住まない? って。結局、10人くらい集まったんです。加藤は建築の設計をやっていますが、それ以外にイラストレーターやミュージシャンとか、いろんな職業の人が集まりました」

滝口「その人たちと住んで、何をしたんですか?」

加藤さん「新しいライフスタイルの実験、みたいなことですね。テーマは『銭湯のある暮らしの可能性を探る』」

滝口「ある種のフィールドワークみたいなものですか」

加藤さん「そう言えると思います。住んでみて発見だったのが、銭湯がすぐとなりにあると日々の暮らしに余白のある時間が生まれる、ということ。集まったメンバーがみんな社畜のようにずっと仕事をする人たちだったんですが、銭湯に入ると強制的にオフになれる。それまでは風呂も入らずサッとシャワーを浴びるくらいで、それだときもちがオフになれなかったんですけど」

平松さん「銭湯がすぐとなりにあるからこそできる暮らしのよさに気づいたんです。でも、その暮らしはこのアパートの住人など、すぐ近くに住む人しか体験できない。それってもったいない。そう考えて、加藤といっしょに父に提案したんです。アパートを建て直す予定でしたが、それをやめて、今の『小杉湯となり』のような場所をつくりたい、って」

滝口「なるほど、食事や仕事、読書の時間など、暮らしの一部を『小杉湯となり』に持って来れば、同時に、すぐとなりに銭湯がある暮らしも手に入れられる、ってことですね」

加藤さん「ぼくは『街に暮らすように生きる』ということをテーマにしてるんです。銭湯って、家に風呂があってもわざわざ行きますよね。家にある機能を街に拡張している。同じように、何か作業する場所や食事をする場所、くつろぐ場所も、家の外にあってもいい。その方が楽しいし、暮らしやすいじゃん。そう思ってるんです」