こんにちは。PANTSの滝口です。ふだんは「思い込みを脱いじゃおう。」を合言葉に、映像・イベント・ゲームなどの企画開発を行っています。この連載は「思考のタガの外し方」をテーマに、これはタガが外れてるなぁ、というまちおこし活動をされている方にインタビューして、タガの外し方のコツを探る、というもの。

今回は、東京・高円寺にある老舗銭湯「小杉湯」のとなりにできたその名も「小杉湯となり」。前編では、どんな思いでつくったのかを伺いました。後編は、なぜここには人が集まるのか。その秘密の核心に迫ります。

迷ったら銭湯に立ち返る

滝口「小杉湯にはいろんな人が集まって来ますが、必ずしも相性がいい人ばかりじゃないですよね」

加藤さん「ここに集まる人はみんな、根っこには銭湯が好き、というのがあると思うんです」

滝口「銭湯好きにはあまり利己的な人はいない、ってことですか?(笑)」

加藤さん「うーん、そうとも言えるかもしれない……。銭湯って数十人が一度に利用するのに、スタッフはワンオペですよね。番台の1人でサービスを回している。よく考えたらすごいことなんですが、なんでそれが成り立つのかっていうと、セルフサービスだからですよね。お金を払ったら人の手が介在しないし、あれしちゃダメ、こうしてほしい、って直接言うこともできないので、常連さんたちの振る舞いがなんとなくのルールやマナーの空気をつくってる」

滝口「常連さんたちがセルフサービスの土台となる空気をつくってるんですね」

加藤さん「そう、それで他のお客さんたちもその空気を読んで、気を配りながら利用してるんです。その場で勝手なことをすると、場の空気を乱すし、自分もイヤな気分になる。銭湯はあくまで自律した個人が自分の暮らしの充実を求めて来るシェアリングエコノミーでもあるので、結果として、銭湯好きにイヤな人はいない、って思うんですよね」

滝口「なるほど、銭湯は自律した人が来る場所だから利己的な人は来ない、精確に言うと、他人に対して迷惑をかけるような人は来ない、ってことなんですね」

加藤さん「銭湯のことを公衆浴場って言うじゃないですか。元々、公共性の高い、パブリックな場所。例えば、公園も本来そういう場所をめざしてます。でも、みんなが使いやすいように、いろんなルールを明文化して看板で示した結果、禁止の文言しか書かれなくて、だれも使わない場所もありますよね。みんなに開こうとした結果、だれにも使われない。あれは近代の失敗だと思うんです」

滝口「そうか、ルールを明文化するんじゃなくて、常連さんたちの立ち居振る舞いでなんとなくマナーの空気ができ、それを新しく来たお客さんが感じ取ってみんながマナーを守る、それがセミパブリックのある種の理想なんですね」

加藤さん「小杉湯となりも同じようにしたいんです。まずはこの場所に月2万円払ってもいい、と思ってくださる会員さんたちでスタートして、常連さんのようになっていただいたら、少しずつ街にひらいていこうと思っています」

滝口「ただ、イヤなことをしようとはしてなくても、結果的に人に迷惑をかけちゃうようなことをしてしまう人もいますよね? やっていいことと悪いことの線引きはどうするんですか?」

平松さん「いいか悪いか、じゃないと思うんです。やろうとしていることが小杉湯に合うか合わないか。だから、いつも小杉湯ってこういう場所だよねとかこういう存在だよねという話をしてます。何かを断るときもそこを意識してますね」

加藤さん「例えば、小杉湯となりで動画配信したいというお客さんがいたんですが、それは周りの行動を制限しちゃうので、『この場所のありたい姿とはちょっと異なるんですよね』、ってそんな話し方をしました。それも、銭湯のあり方を参考にしてますね」

滝口「そうか、徹底的に小杉湯がいろんな物事の判断基準なんですね」

平松さん「小杉湯という道がずっと続いてきて、人が集まっているから、いろんなコトがここで生まれてるんです。コトを起こすからいろんな人が集まってくるんじゃなくて。そういう意味で小杉湯は、かつての寺子屋とか神社に近いところがあるかもしれません」