若月流ハードルの乗り越え方

滝口「すんなりオープンできたんですか?」

若月さん「いやぁ、いろんなハードルがありましたね。この水族館、室戸市のものなんです。我々は指定管理業者で。ふつうは行政からお金をもらって運営するんですが、ここに関しては一切お金をもらわずにすべて入館料とグッズの売り上げだけで人件費も水道光熱費もすべてまかなってます。代わりにいろいろと口出しさせてもらうという約束だったんですが、室戸市との調整が大変でした」

 ここで室戸市といろいろあった事件の数々を一気に紹介!

①ネーミング
 実はこの水族館、正式名称を「室戸市海洋生物飼育展示施設むろと海の学校」と言う。しかし若月さんたちが「廃校」「水族館」の両方を入れることにこだわった。「水族館」と名乗ることでファミリーやカップル、マニア、さらには水族館で働きたいという人も来てくれる。また、廃校問題は今後も全国で続くので「廃校」と入れることで10年後も検索に引っかかるようにしたい。しかし、「廃」の文字が入っているのはイメージが悪いと批判を浴びた。

若月さんがとった戦略は、正式名称はそのままでいい、ただ愛称は「むろと廃校水族館」にしたい、というもの。そうしてくれなければ自分たちはやりません、と突っぱねた。ネーミング問題はほぼ完成間近まで調整が続いた。正式名称と比べると、いかに「むろと廃校水族館」がわかりやすく想像をかき立てるネーミングか、がわかる。
②入館料
 高校生以上600円、小・中学生は300円。この金額について、室戸市は当初、もっと安くしてほしいという要望があったが、入館料とグッズの収益だけで成り立たせる必要があったため、この金額を押し通した。受付のオペレーションの煩雑さを避けるため、支払いは現金払いのみ可。
③目標入場者数
 最終的に室戸市と握った数は4万人。若月さんたちはもっと来場すると思っていたが、夢を見ない方がいいと言われた。結果的に来たのは初年度17万人。目標の4倍以上。
④オープン日
 オープン2〜3週間前まで調整していた。室戸市側は準備期間を考えると、GW明けの土曜か日曜にオープンするのはどうか、と伝えてきた。しかし、GWこそがいちばんの刈り入れ時、かつ、土日は他のイベントにメディアが取材に行ってしまう。だから、GWより前の、平日の水曜か木曜にオープンしたいと伝えた。

結果、2018年4月26日(木)にオープン。狙いどおり、メディアの取材が数多く、さっそくその週末、そしてGWにどかーんと多くのお客さんが来場してくれ、目の前の国道が大渋滞した。
⑤室戸の外の団体になぜ税金を使うのか、
という批判
 メンバーが室戸で打ち合わせをしたり、宿泊したりするたびに、店や宿を変えて、その都度「日本ウミガメ協議会」で領収書をもらうようにした。

 並べてみると、数多くのハードルを乗り越えて実現に至っていることがわかる。しかも、一つひとつの対処の仕方が実に的確。マーケティングを熟知したフィクサーのよう。

滝口「どこかでマーケティングの仕事をなさってたんですか?」

若月さん「そんなもの、ふつうに生きてればわかると思います。よく観察してれば。施設のオープンは土日が多いから避けようとか。世の中で『廃校問題』はずっと取り上げられているな、とか。目の前に現金があれば大抵の商売人は首を横には振らないとか。国道に団体旅行のバスがよく通るので近づいて団体名や旅行会社名を見たり。例えば、名鉄観光だったらお遍路ツアーをけっこうやってるとわかったので、じゃあお遍路ツアーで寄ってもらう企画を考えようかな、とか。そんな風にいろんな工夫はしましたね」

 話を聞いていると、若月さんは単に工夫をしているだけではない。研究者の目で、人の動きやメディアの取り上げ方を観察し、その裏にある仕組みや理由を考察、そこまでやった上でいろんな工夫をしている。

若月さん「高知県主催の商談会があるんですが、ホテルや観光施設の人たちがそこで旅行会社の人たちに自分の観光資源を売り込みに行くんです。でも、ぼくは売り込みというより聞き取りをしに行くんです。どんなものを求めてるんですか、って」

滝口「例えば、どんな話が出ました?」

若月さん「旅行会社からすると、バスのツアーの利益率がいちばん高いらしいんです。次に鉄道、いちばん儲からないのが飛行機らしいんですね。マージンが少ないんで。じゃあ、ぼくらはバスツアー客を狙おうと。そういうのって聞かないとわからないですよね」

若月さん「メディアに取材されるとよくホームページとかTwitterで告知するじゃないですか。何月何日にテレビに出ますよ、って。ぼくらはああいうの、一切やらない。他のメディアで取り上げられてるって知ったら、取材に来たくならないですよね」

 メディアの人の心理がよくわかってる。

滝口「いろんな工夫をされてますが、新しいことをやると人と対立したり怒られたりして大変な面もありますよね?」

若月さん「みんな、怒られることを怖がるんですけど、人が怒ってるのって単に自分の価値観を主張してるだけですよね。別にこっちが悪いことをしてるわけじゃない」

滝口「でも、怒られるのってやっぱりイヤですよね」

若月さん「ま、そういうときは、『また自分は10年進んだ発想をしてしまった』と思って自分を慰めてるんです。『そりゃそうだよな、10年先のことなんて、この人には想像できないよな』って」

前編の記事はこちらから

むろと廃校水族館 (室戸市海洋生物飼育展示施設むろと海の学校)
〒781-7101 高知県室戸市室戸岬町533ー2
〈開館時間〉
4月~9月 9:00~18:00
10月~3月 9:00~17:00
※年中無休
筆者 滝口勇也(PANTS)
「思い込みを、脱いじゃおう。」をテーマに、これまでの常識やあたりまえをちょっと疑って新しい視点に気づけるモノづくりや企画を考えるクリエイティブチーム「PANTS」。炎上シミュレーションゲーム「大炎笑」・亡くなった人について語るためのゲーム「ないはずの記憶」・大切な人への思いを残す「一生つづくゲーム」など。
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