酒は人を結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回は広島県尾道市。古い建物をリノベーションし、次々と新しい店をオープンさせている地元企業があります。その取り組みは飲食店にとどまらず、ゲストハウスやレンタルスペースも。その原動力を探りました。

 全国の居酒屋関係者が視察に訪れる場所があります。そこは大都市の繁華街ではなく、瀬戸内海に面した人口13万人のまち、広島県尾道市です。

 尾道は、瀬戸内海の島々に囲まれた天然の良港です。平安時代から港湾のまちとして栄えてきた歴史があります。海運でもうけた豪商らは、少ない平地にとどまらず山の斜面へもまちを広げ、神社仏閣を多数寄進、建立しました。歴史を凝縮したまちなみと、瀬戸内海を望む坂道が入り組む風景は、映画や小説などたくさんの物語の舞台となりました。

 全国の飲食店街を取材でまわっていると、ひとつの共通点が見えてきます。それは「歴史あるまちに酒場あり」。長く栄えてきたまちには、その土地ならではの飲食店街が存在します。尾道は近代になって造船業を中心に工業化が進んだこともあり、規模の大きな繁華街が狭い平地に広がっています。

 観光、産業、そして鉄道や船舶交通が充実した尾道は恵まれた存在ではありますが、それでも最近は中心市街地の空洞化が進んでいます。「このまちのにぎわいを取り戻したい」と、「飲食」の領域で挑戦している人がいます。今回は、「飲食でまちおこし」に取り組む有限会社いっとく代表の山根浩揮さんにお話を伺います。

尾道駅北口にある「遊食楽酒 いっとく」。いっとくグループの1号店となる(写真:塩見なゆ)
尾道駅北口にある「遊食楽酒 いっとく」。いっとくグループの1号店となる(写真:塩見なゆ)
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 山根さんは1974年生まれ。寿司屋の次男で、19歳のときに古着屋を自宅で始めました。その後、古着屋の「いっとく」を経て、22歳になって現在の「遊食楽酒 いっとく」となる鉄板焼き店をJR尾道駅北口にオープン。現在は飲食店15店舗(うち尾道市内は13店舗)を展開するほか、プリン専門店やゲストハウス、レンタルスペースも運営しています。

有限会社いっとく代表の山根浩揮さん。いっとくグループが管理するレンタルスペース「SIMA salon」にて(写真:塩見なゆ)
有限会社いっとく代表の山根浩揮さん。いっとくグループが管理するレンタルスペース「SIMA salon」にて(写真:塩見なゆ)
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 飲食業界では、いっとくは地域活性化に取り組む居酒屋グループとして知られています。お酒が人をつなぎ、まちに変化を起こす取り組みをテーマに連載してきた私としては、ぜひお話を聞いてみたかった方です。

塩見いっとくの店舗展開のきっかけを教えてください。

山根さん1号店の居酒屋いっとくは、最初ですから、自由に生きるためにもうけたいという思いで開店しました。店が軌道に乗ってきたころ、行きつけの焼鳥屋「鳥徳」が店主の高齢化と後継者問題で店を閉めると聞きました。これがまちを考えるきっかけとなりました。

 鳥徳は、父親に連れられて幼いころから通っていた思い出のつまった店です。大切な場所を守るため、引き継ごうと決めました。その後、以前の店主の兄弟が営業していた隣接する居酒屋「米徳」も引き継いでほしいという相談があり、喜んで引き受けました。もっとも、私は古着屋で創業しているくらいだから、「再生して価値をつくる」というのが好きなのだと思います。

新開(しんがい)エリアで半世紀続く米徳と鳥徳。ともに山根さんが経営を引き継いだ(写真:塩見なゆ)
新開(しんがい)エリアで半世紀続く米徳と鳥徳。ともに山根さんが経営を引き継いだ(写真:塩見なゆ)
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