秩父に1泊し、バーをめぐる

 秩父の中心街にある秩父神社には、地元秩父の清酒と並んでイチローズモルトの樽も置かれています。権宮司さんがお酒の好きな方で、ウイスキーも好きだったことから始まったご縁だそう。

秩父神社に奉納されたイチローズモルト(写真:塩見なゆ)
秩父神社に奉納されたイチローズモルト(写真:塩見なゆ)
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 秩父神社などをメーン会場にした「秩父ウイスキー祭」もあります。今年(2020年)で7年目になるイベントで、日本だけでなく世界各地からウイスキーファンがこの日をめざして秩父を訪れます。

 実は、イベントを立ち上げたのはベンチャーウイスキーではありません。秩父市内や埼玉県内で店を構えるバーテンダー、洋酒専門店の有志などが実行委員となって開催しています。ベンチャーウイスキーの秩父蒸留所はウイスキーを製造・販売するだけでなく、地元を活性化させる役割も担っています。

 秩父にはバーの数も多く、秩父蒸留所を訪れた人は秩父に1泊し、近隣のバーをめぐるそうです。そんな光景をみた秩父の人もウイスキーに興味を持ち、バーの扉を開ける人が増えてきたといいます。

 このように、秩父蒸留所のウイスキーは観光面に寄与するだけでなく、雇用や地域の飲食店での消費拡大にも貢献しています。

ベンチャーウイスキーの秩父蒸留所で熟成を待つウイスキー樽(写真:塩見なゆ)
ベンチャーウイスキーの秩父蒸留所で熟成を待つウイスキー樽(写真:塩見なゆ)
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 少人数で立ち上げた秩父蒸留所は、地元の人を雇用しつつ成長しています。ウイスキーをボトルに詰めるボトリングには、地元に暮らすパートさんが活躍しています。高校卒業後に入社した若手社員5人は、樽工場に配属されウイスキーの樽づくりを担っています。

 都市部から秩父へ移り住み、ウイスキーづくりに取り組む社員もいます。プライベートでお酒が好きな社員も多く、秩父市内のバーをめぐり歩く“バーホッピング”をしているとのこと。

 ウイスキーづくりに欠かせない樽のエピソードをもう少し。原酒の貯蔵に使用した空の樽を利用した、お酒づくりの横のつながりが生まれています。

 ひとつは、秩父のクラフトビール「秩父麦酒」をつくる「BEAR MEET BEER 秩父麦酒醸造所」の取り組みです。イチローズモルトの原酒をつくるために使用した樽にビールを入れ、熟成させた「樽熊」というビールを製造しています。

 また、秩父のワイナリー「秩父ファーマーズファクトリー 兎田ワイナリー」でも、ベンチャーウイスキーの樽を使った樽熟成ワインづくりを行っています。

 秩父では、従来からの日本酒に加え、今ではウイスキー、ワイン、ビールと幅広いカテゴリーのお酒がつくられるようになりました。山間のまちがお酒のまちとして成長していく中で、ベンチャーウイスキーは大きな役割を担っています。

 欧州には、蒸留所やワイナリーが地域の飲食店と一体になり、地元のお酒や料理でもてなす特別な体験を用意するまちがたくさんあります。それを目当てに、まちに人々が訪れるツアーが観光資源となっています。ベンチャーウイスキーの秩父蒸留所と近隣の飲食店を取材していると、そんな姿と重なって見えました。

秩父市内のバー「チェ・アリー」でイチローズモルトを味わう(写真:塩見なゆ)
秩父市内のバー「チェ・アリー」でイチローズモルトを味わう(写真:塩見なゆ)
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著者 塩見なゆ
酒場案内人。1984年、東京都杉並区荻窪生まれ。新宿ゴールデン街に通った作家の両親を持つ。幼いころより中央線沿線の飲み屋へ連れて行かれ、物書きの大人と瓶ビールに囲まれて成長する。会社員として広報・宣伝畑を経て独立。趣味だった飲み屋巡りを本業とし、飲食専門のライターとなる。酒場に恋して年間2,000軒を巡る。