とちおとめカクテルを毎年開発

 より多くの人にカクテルのまち宇都宮を知ってもらい、バーを気軽に楽しんでもらおうと企画した「宇都宮カクテルカーニバル」もその一つ。2008年から毎年開催しています。来場者は6:4の割合で常連さんが多いものの、「バーに興味を持ってくれた新しい方もいらっしゃるので、とても大切な接点だと思っています」(武内さん)

 知名度は少しずつ広がってきましたが、「まだまだPRが不足している」と武内さんは感じています。ポスターを掲示するにしても宇都宮市内が精一杯。「もっと栃木県外からバー好き、カクテル好きの方に来てほしい」と話します。

 宇都宮を訪れた観光客は昼間は市内で過ごしますが、宿泊先は日光鬼怒川や那須という人が多く、夜の時間帯に市内に滞在する人はそれほどいないという実態があります。そうした状況を打破するために、カクテル倶楽部ではカクテルの魅力をより高め、市内に泊まってバーを巡ってもらえるような取り組みを行っています。

 例えば、栃木ブランドの果物、いちごの「とちおとめ」を使ったカクテルの開発。JA全農とちぎや酒類メーカーの協力のもと、毎年新作カクテルを商品化しています。開発は宇都宮カクテル倶楽部に加盟するバーが持ち回りで行っており、2020年は2つのカクテルが登場しました。

 栃木ならではの食材を使い、宇都宮のバーテンダーが開発するカクテル。宇都宮観光コンベンション協会や宇都宮市もバックアップし、まちを挙げて魅力を伝えようと取り組んでいます。これほどバーが前面に出るケースは全国的に珍しく、生産者や行政機関とタッグを組んだ点でも宇都宮は際立っています。

とちおとめカクテルの「レ・フレーズ」を飲む。いちごミルクを連想する優しい味(写真:ひとまち結び編集部)
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 とちおとめカクテルは、観光コンテンツのソフト的な価値に加えて地元農産物の魅力も伝えられる、地域を盛り上げる楽しい取り組みです。とちおとめの旬の5月初めころまで、加盟店全店で提供されます。

 「バーはSNS(交流サイト)のリアル版みたいなもの。バーの扉を開ければ、仕事や家庭とは別の場として、バーテンダーがじっくり話を聞いてくれます。バーテンダーの仕事はシェイカーを振るだけではありません。バーで楽しい時間を過ごしてもらい、心にたまった不要なものを落としてもらうようにするのも役割。ノンアルコールのカクテルもありますから、お酒が飲めなくてもバーに来ていただきたい」と武内さんは語ります。

 ひとつのバーができることには限界があります。宇都宮カクテル倶楽部ができることにも限界があります。「だから横のつながりを大切にし、地域の宿泊施設や飲食店、宇都宮JAZZ協会などさまざまな地元関係者と手を携えて、宇都宮の夜を盛り上げていきたい」と話す姿が印象的でした。

 いまや全国規模のカクテル大会で20人以上の優勝者を有する宇都宮。まちの魅力を伝えようと奮闘する熱きバーテンダーたちが今日もカウンターに立っています。

著者 塩見なゆ
酒場案内人。1984年、東京都杉並区荻窪生まれ。新宿ゴールデン街に通った作家の両親を持つ。幼いころより中央線沿線の飲み屋へ連れて行かれ、物書きの大人と瓶ビールに囲まれて成長する。会社員として広報・宣伝畑を経て独立。趣味だった飲み屋巡りを本業とし、飲食専門のライターとなる。酒場に恋して年間2,000軒を巡る。