酒は人を結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回は高知にやってきました。高知市は一世帯あたりの飲酒代消費支出額(総務省家計調査)でランキング1位の常連です。土佐の酒豪が日々集う「ひろめ市場」は、観光客をもてなす酒場でもありました。

 高知には、お酒好きの県民性を感じる「おきゃく文化」があります。お客さんを招いてお酒を酌み交わす宴会のことで、酒席そのものを次第に「おきゃく」と呼ぶようになったと言われています。

 あらたまった席だけでなく、ご近所や飲み友達、仕事関係の人から店で偶然居合わせた人まで、誰かが来るとおきゃくが始まります。高知流のおもてなしスタイルというわけです。

 そんな高知のおきゃく文化を毎日体感できる場所が、高知市の中心市街地にある「ひろめ市場」です。

ひろめ市場の様子。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、入り口ではサーモグラフィーカメラで体温チェックを行い、館内では食事以外でマスクをしていない人がいるとスタッフが着用を促す(写真:塩見なゆ)
ひろめ市場の様子。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、入り口ではサーモグラフィーカメラで体温チェックを行い、館内では食事以外でマスクをしていない人がいるとスタッフが着用を促す(写真:塩見なゆ)
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 「市場」とありますが、全国の都市に設けられているような卸売市場や戦後のマーケットを由来とするものではありません。誕生は1998年で比較的新しい施設です。

 ひろめ市場の歴史を簡単に紹介します。「ひろめ」という名前は、かつてこの地に屋敷を構えた土佐藩の家老の深尾弘人蕃顕(ふかおひろめしげあき)からつけられたものです。敷地面積は4165m2。実はこの土地はひろめ市場を整備するために用意されたものではなく、大手不動産会社のホテル建設用地でした。

 景気低迷の影響もありホテル計画は進まず、土地の所有は一般財団法人の民間都市開発推進機構に移ります。敷地に隣接する商店街の「帯屋町2丁目商店街振興組合」は、地域活性化を目的にこの場所で屋台村を設けることを提案しました。常設の建物で1階を店舗、2階を駐車場にするという内容でした。

 この提案に対して地元の建設会社が賛同し、ひろめ市場が1998年10月に完成しました。いまは県内大手の酒販企業の傘下となっています。

 ひろめ市場は、簡単にいえばお酒が飲める巨大なフードコートです。たくさんの店舗を収容するため、テナントの小間はコンパクトで4坪から。これらが密集し、昭和の横丁のような雰囲気を醸し出しています。

 現時点の店舗数は約60軒。フードコート方式なので、テーブルは各店で共用します。また、テーブルは8人で座れるほど大きなもの。ほぼ相席が発生します。密集度の高い店舗と相席が、ひろめ市場の独特な空間を形づくっています。