酒は人を結び、まちを元気にする。酒場案内人の塩見なゆさんが、酒をテーマににぎわう各地のまちを訪ねます。今回やってきたのは、2022年に設立65周年を迎えた、沖縄を代表するビールメーカーであるオリオンビール。戦後沖縄の復興に不可欠な第2次産業をつくるために、1957年、実業家の具志堅宗精(ぐしけん・そうせい)さんが中心となって創業しました。

 オリオンビールの「オリオン ザ・ドラフト(ビール)」は沖縄では高いシェアを誇り、県内の多くの飲食店や酒販店で販売されています。沖縄にとどまらず日本全国、さらには台湾やオーストラリアなど海外へも盛んに輸出されています。また、同社グループは酒類・清涼飲料水の製造販売だけでなく、沖縄本島でホテル事業も行っています。

 オリオンビールは沖縄復興という目的の中で設立された企業であり、地域貢献への意識の高さも特色といえます。有名アーティストがステージに立つことで全国的に知られる沖縄夏の風物詩「オリオンビアフェスト」(2020年からは開催自粛中)の開催をはじめ、環境保全活動、児童福祉施設や団体への寄付、首里城再建への支援活動など、沖縄のあらゆるシーンでオリオンビールの関わりを見ることができます。

 さまざまな角度で地域貢献に取り組むオリオンビールですが、今回はビールの主要な原料である大麦にスポットライトを当てたいと思います。CSR・広報課長の丁野良太さんに話をうかがいました。

 沖縄は、歴史、芸術、そして食文化も本州とは異なります。沖縄の人は地元へのリスペクトが強く、それがオリオンビールの高いシェアを支えています。ですが、オリオンビールのビール製品の主原料である麦芽(大麦を発芽させ乾燥させたもの)は創業時から輸入に頼っていました。その麦芽の主な産地は、カナダ、欧州、オーストラリアの三大陸で、そもそも亜熱帯気候の沖縄では大麦の栽培がほぼ行われてこなかったのです。

 沖縄本島の北西に位置する伊江島(いえじま)では、大麦ではありませんが、戦前から小麦づくりが盛んだったそうです。オリオンビールは小麦栽培の堆肥として麦芽粕(ばくがかす)を提供したり、伊江島産小麦を副原料に用いたクラフトビールを生産したりするなど、伊江島の農家とは以前から交流していました。

沖縄本島の本部半島から見た伊江島。島の周囲は22.4km(写真:塩見なゆ)
沖縄本島の本部半島から見た伊江島。島の周囲は22.4km(写真:塩見なゆ)
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 そうした中で、伊江島の農家は「ビールの主原料である大麦の生産にもチャレンジしたい」という思いを募らせていたそうです。農家は関係機関の協力も得ながら試行錯誤した結果、2019年、大麦の収穫に成功。翌年のオリオン ザ・ドラフトをリニューアルするタイミングで、伊江島産の大麦を副原料として使用したビールが誕生しました。それ以来、オリオン ザ・ドラフトでは伊江島産の大麦が一部使用されるようになりました。

 2021年には、伊江島産大麦を使った麦芽粕を堆肥にして栽培した同島の大麦を副原料として使用することで、資源が完全に循環するビールが製造・出荷されるようになりました。

 まだまだ生産量が少ない伊江島の大麦ですが、いまでは沖縄南部の南城市でも完全循環型の大麦が栽培されるなど、少しずつですが大麦の生産地が広がっていっています。いずれは、沖縄の主力農産物であるサトウキビに並ぶ農産物として沖縄全体に広げていき、農業活性化につながることをめざしています。

伊江島の大麦畑(写真:オリオンビール)
伊江島の大麦畑(写真:オリオンビール)
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